NeoL

開く
text by Ryoko Kuwahara

Our Body Issue : 歌代ニーナインタビュー “自分の体は自分だけのものです。そして、他人の体は他人だけのものです。他人の体は自分のものではありません”




2019年5月14日に可決成立した米アラバマ州の中絶禁止法。その後16州が同法案の制定に向けて動き、1973年の連邦最高裁が下した「ロー対ウェイド」の判決が覆される恐れが出てきた。女性による中絶の権利が保障されない可能性がある未来。次の世代が、私たちの世代より少ない選択肢の中で生きざるをえない可能性。それは日本に暮らす我々にとって決して遠くの出来事ではなく、そうした未来が我々にも存在するかもしれないという警鐘である。
『Our Body Issue』ではこの警鐘に対し、様々な側面からまずは自分の身体について知り、ひいてはその身体を愛すること、選択肢を持つことの大切さを考えるきっかけを作りたい。
私たちの身体、私たちの選択ーーこの特集の根幹を体現している歌代ニーナ。その生き方や行動、創作物は、受け手に世間や常識への疑問を持たせ、自分のアイディンティティを知り、確立することを促しているように思う。身体について、クリエイティヴについて、そして未来について。驚くばかりの率直さで語ってくれた彼女の言葉をここに記す。(→ in English


ーーまず最初に、今回の特集では「身体」について考えたいということで、ご自身についてのナイーヴな質問もあります。もし答えたくなかったら答えなくて大丈夫だとお伝えさせてください。その上での質問です。子供の頃に家族から身体について、性についての知識を得る機会はありましたか。家庭においてはそれらのことについてどんな教育をつけていたか教えてください。


歌代「身体についてはありました。胸の発達や生理のことだったり、聞けばいつでも母が答えてくれました。性に関しては、私があまりにも異性や恋愛に無頓着だったので中3くらいまで運命の人と手を繋いでお祈りすれば子どもができると思っていたし、知らない世界があることすら知らないまま呑気に生きていました。14〜15歳の時に妹が家で騒ぎ始めたタイミングで家庭内でセックスの話がされるようになり、その事実にびっくりしたのを覚えています」


ーー

学校で受けた教育は覚えていますか。 


歌代「身体の構造については保健の授業で習った気がします。性については習った記憶がないです。基本、学校では寝てるタイプだったのであんまり覚えてないです」


ーー

実際に自分の身体に月経が起こったとき、自分の中でどんな反応がありましたか。知識役に立ったとしたら、どんなものだったか教えてください。


歌代「下着に血がついたことに怒ってましたね。予告しろよ、みたいな。女ってめんどくさいなと思いました。初生理がめちゃくちゃ遅かったのですが、それまで度々ありもしない生理痛がひどいという嘘を使って色々サボったりしてたから周りの人に何も聞けなかったため、タンポンとナプキンどっちがいいのかググって薬局に買いに行きました。対応するための知識はありましたが、やっぱり体験すると想像とは違うし、自分のリズム感と身体の声を聞き取れるようになるまで時間がかかりました」




ーー性行為については事前にどのような知識がありましたか。役にたった知識があれば教えてください。


歌代「単純に女性器に男性器を突っ込んで射精したら妊娠する、くらいです。前戯だったり具体的なプロセスは知らなかったですね、経験するまでは。ヤりたい、っていう感情も芽生えたことなかったから経験済みの友達に詳細を聞こうともしなかったし、自分がそういう場に置かれるまでは世の中がなぜ性に執着するのか意味がわからなかったです。AVを観るタイプでもなかったし、知ろうという努力をしなかったので本当に無知だったと思います
」





ーークリエイティヴと身体の関係性について。キリスト教/カトリック教徒であることはニーナさんのアイデンティティの一つだと思いますが、その概念と実際の知識や体験に乖離するものはありましたか。あったとすればそれらはどのように融合を果たしたのでしょうか。


歌代「キリスト教/カトリック教徒が家族と親戚に多かったため、そういう信仰のもと育てられましたが、今の私は特に何も信じていません。父と父方の家族がかなり熱心な信者だったのですが、性について知るころにはもう私の人生からいなくなっていたのであまりキリスト教/カトリック教的な視点で性を語られたことがないと思います。ただ、幼少期は神様漬けだったのでふわふわと中学生くらいまでは疑わなかったのですが、自我が強くなってきた頃、その概念に納得がいかない部分がでてきて信じるのをやめました。そのとき、長年弄ばれていたような気がして怒りが芽生えて、そこから冒涜好きになったので、逆に冒涜したいがためだけに宗教上禁じられている快楽のためのセックスに興味が湧いたりと、影響は大きくされていると思います」


ーーその体験はご自身の考えや行為、クリエイティヴに影響を及ぼしていますか。


歌代「はい。やっぱり育ちは拭えないので、人間のエゴや欲に対する罪悪感と完璧に対する渇望が拭えないのと同時に、綺麗ぶった偽善がましさが悪より悪く思えるので、どうしようもなく壊したくなります。自分の作品を後から俯瞰して見ると、『懺悔しているつもりなんだろうな、コイツ。あきらめて酔っちゃえば。ダサ』って思うことが多いです」

ーーニーナさんはバレエをかなり真剣に、長く続けていらっしゃったそうですが、バレエでの身体への向き合い方は非常にストイックです。丸みを帯びることが推奨されない世界で、身体の成長をどのように受け入れましたか。


歌代「まだ完全には受け入れられてないと思います。小学生くらいの身体のまま身長だけ伸びたかったです。ヴィジュアル的には女性的な丸い体って綺麗だしセクシーだと思うし、自分の身体の女性的な部分は視覚的には好きなのですが、その身体の中に閉じ込められるとなるとかなりだるいです。生理とか浮腫みとかめんどくさいし、幼少期の身体の軽やかさを鮮明に覚えているからか『なんか重い』みたいな感覚が常にあります」


ーーそれらはご自身の考えや行為、クリエイティヴに影響を及ぼしていますか。


歌代「満腹感とそれに伴う怠惰的なあの感覚がこの上なく嫌いなのですが、それはおそらくバレエ生活からきていると思います。また、ルールが多くて自由が利かないシステマチックな動きを通して規則性とは真逆たる『感情』というものを表現するダンスなので、ルールを守りながら破ることに快感を感じる部分は今の自分のクリエイティヴにも通じていると思います」

ーー身体の成長や月経で服やアンダーウェアを変えなくてはいけない戸惑いを成長過程に抱いた人は多いと思います。ご自身の体験で印象に残っていることはありますか。


歌代「21歳くらいの時にSupremeのTシャツのMサイズの腰回りだけなんかゆるさが足りなくなったというか、着るならタイトなボトムスじゃないと生地が張るようになったことに気づいた時のショックは今でも鮮明に覚えています。『やば、太ったわ』ではなくて『やば、オンナになりおった』っていう気持ちで、なぜかすごく怖かったです。単純に似合う服とサイズが変わると前着れたものが着れなくなるのが辛いなと思います。アンダーウェアに関しては、武器だと思ってます。ブラにワイヤーあるなしで胸の大きさを変えられるから着たい服に合わせて体をデザインできるし、お尻が女っぽく大きくなることでレースやサテンなどの素材が似合うようになりますしね。生理中でもタンポンを使えばTバックでもなんでも履けるから自分の選択次第では全く下着を変えずに生きられるし、あんまり大したことではないと思います」


ーースタイリストとしても活動されているニーナさんから、その成長過程を迎え戸惑っている人へのアドバイスがあれば。


歌代「時が経てば体はどんどん変わるし、嫌な部分も出てくると思うのですが、自分の身体に似合った服を着ると誰でも綺麗な身体に見えると思います。自分の今の体に合った丈やフィット、そして心地のいい服や下着を身につけるだけで気持ちは軽やかになります。自分で自分のことを綺麗だと思えたら自信に繋がるから、外見に気を使うのは内面に気を使うのと同じくらい大切なことだと思います」




ーー肌を見せていても下卑たものにならず、強さと品格を持った女性像がニーナさんの作品の特徴のひとつです。創作時に気をつけていることがあれば、そしてそれが言葉で表現可能であれば教えてください。


歌代「承認欲求と欺きほど下卑たものはないと思います。本来肌を見せることが下卑たなものではないはずです。ただの皮膚で、肉体はみんなが持っている実存的なものですから。ただ、高度な肌の露出や谷間など、性を連想させるものを見せるにあたって、可愛いと思われたくて、チヤホヤされたくて、といった理由で性を使おうとするメンタリティーが肌を下卑たものに見せるんです。視覚に弱い男という生き物の本能を乱用して、ズルしてまで男に好かれたいという下品な欲しがり精神が根底にある人が多いから『露出=下品』というイメージが定着しています。男って女が思っているほどバカじゃないですからね。意外と感覚的には見透かしています。自分で自分の身体を讃えるための露出であるべきで、身体の女性的な部分を露出したら目線が来るのは当たり前だからその目線を取りに行くのも拒むのも違うと思います。自分の身体は自分のためだけにあるものです。人にどう思われたいとかいう理由で身体を他人に使うための武器化する暇があったら、超セクシーな服を着て鏡に映った自分に自惚れる時間に使うべきです。そして高度な露出をする服やいわゆる『セクシー』な服や下着が好きじゃなかったら無理して着る必要なんて全くないです。私はたまたま性描写が好きな人なので、私服でも作品でも好きな時に好きなだけ肌を露出して自己満足しています」


ーー活動当初はご自身が被写体になることもあり、その際に被写体として、媒体から提案/提供される女性像、若い女性という記号性への違和感はありましたか。


歌代「媒体に私には理解できない女性像をモデルとして体現させられることはよくありましたが、仕事としてお金をもらっていたので別に苦ではなかったし、理にかなっているので『何にでも好きに染めてどうぞ』って感じだったのですが、現場のメイクさんやフォトグラファー、つまり私の雇い主ではない人たちによく分からない女性像を押し付けられてイラっとしたことは多かったです。撮影が終わって自分の普段の服とメイクに戻ると『メイク薄い方が可愛いのに』とか『モデルっぽい服装をした方がいい』とかいう私個人の女性像に対しての聞いてないアドバイスをしてくるヤツが本当に多くて毎度疲れてました」


ーーそれらはご自身の作品に影響を与えていますか。例えば私は若くファッション好きな女性編集者は仕事ができないとレッテルを貼られることが多く、仕事に関して文句を言わせないプロフェッショナルでいようと努めていました。そうした経験などが与える意識など含めての質問です。


歌代「『ケバい』というレッテルを貼られていたので(今もですが)、『ケバい』についてくるイメージとしてありがちなのが、『バカ』なのだということに気づきました。あと『ハーフ=日本語が喋れない/敬語が使えない』というのもよく押し付けられたステレオタイプだったので、発言力、尊敬語と謙譲語の使い分け、ビジネスメールの書き方、日本の礼儀作法などは文句を言わせないレベルまで身につけるように努めました。身につけて初めて使うか使わないかの選択余地ができますから。ただ、ものは見よう使いようです。初見で『バカ』『敬語が使えない』と思われるのって実は得なことも多いです。見下されているくらいの方が威圧的じゃないから警戒されないし、表面的な先入観を抱いてくるような人たちは面接でちょっと難しめの謙譲語を使ったり、玄関外でコートを脱いでからピンポンする、というような表面的な礼儀作法に勝手にギャップ萌えして仕事くれたりします。自分の抱かれるイメージを理解して武器に変えることが大事だと思います。形式的なルールに則れば誰も文句は言えません。社会は弱肉強食の情が存在しないシステムですし、弱者なのか強者なのかはシンプルに視点の違いです。そして弱者になるのかどうかは自分の選択次第です」


ーーご自身の創作物を発表しだした頃と現在を比較し、女性やその権利についての意識は変化していると感じますか。


歌代「意識は確実に変化していると思います。#metooを皮切りに女性問題にスポットライトは当てられていると思います。改善しているのかと言われたら何ともいえないところですが」


ーー上記の答えを受けて、ご自身の中での視点の変化はありますか。視点や意識が変わることで作品に変化はありますか。


歌代「私個人的には、このムーブメントが始まってからしばらく経つまで生きていて女性差別を受けていると感じたことがなかったので、ずっと興味が湧かなかったし考えることもなかったのですが、1年ほど前に、ある小さな出来事によって当事者になったことをきっかけに考えるようになりました。あまり女友達もできたことがなく、女性に恋したこともないので母以外の女性に対して大した用がなかったし、性別や人種などに対する帰属意識がないタイプなので、本当にガン無視してきたんだなと痛感しました。知らずして傍観者になっていたんだ、と思って恥ずかしくなりました。以後意識を変えるようにしています」





ーーアラバマでの中絶禁止法制定を知った時、率直にどう思われましたか。


歌代「トランプ配下のアメリカなので正直そこまでびっくりしなかったのですが、自分がびっくりしなかったことにびっくりしました。冷静に2019年とは思えない後退ですし、呆れて言葉も出ないです。先進国、そして世界の中心であるアメリカがここまでディストピア化するとは思わなかったです」


ーーこの法案制定について、そして及ぼす影響についてのご意見を聞かせてください。


歌代「生命至上主義の危なさの最たる現象だと思います。必ずしも『命=幸せ』ではないはずです。子供は、愛があるところにのみ産まれるべきだと個人的には思います。妊娠の形は様々ですが、中絶を求める人の多くは無責任な避妊なしセックスかレイプが原因です。避妊しなかった上に外出しもできないほど無責任な人はまだ人様の親になる準備ができていない証拠ですし、レイプに至っては望んでもない妊娠の上に肉体的にも精神的にも壮絶なトラウマを背負っている状態の母体のはずです。そのような状態の中に産まれることを生命選択権のない胎児に法的に強要するのもおかしな話ですし、その胎児を産むか産まないかを身ごもっている女性に押し付ける資格は誰にもないはずです。自分の体は自分だけのものです。そして、他人の体は他人だけのものです。他人の体は自分のものではありません。この法案制定はジャイアニズムを法的に推奨していることになります。女性に中絶を強要するのがおかしいのと同じように中絶しないことを強要するのも圧倒的におかしいはずです。どうしても他人の中絶に嫌悪感を感じるのなら、自分が中絶しなくていい状況にいようと試みればいいだけのはずです。みんな自分には関係のない他人の行動に首を突っ込みすぎです。自分の信じている考えが正しいと思い込みすぎだし、自分の善の定義を他人に押し付けようとする偽善がましいお節介行為の度が過ぎています。そういう人が社会的地位や法律を変える権力を握ってしまって神様プレイし始めるとこういう無様な出来事が起こってしまうのだと思います」


ーー最後に。次の世代の人々に、どのような世界で生きて欲しいと思いますか。もしくは、ご自身の作品でどのようなインフルエンスを与えたいと思いますか。


歌代「世界はずっと恐ろしいところではあると思うので、どんなに汚い世の中でも潰されない強さを持った人々が次の世代で育つといいなと思います。個人的には『世界平和』とか『よりよい世界にしよう』みたいなのって現実的ではないし、茶番劇っぽく見えてしまう兆候があるので、膨大な夢物語として一応追いかけはしますが、実質次世代にできる貢献としてはこういうディストピア的な世界の中で彼らが自分の真実の声を見つけられるように、そしてそれを信じぬくことに役立つ武器と鎧を手にいれる手助けをすることが正解だと思います。善を使った戦い方と悪を使った戦い方が両方できた上で、上手く使い分ける判断力、そして戦うべき時とそうでない時を見極める力が育つといいですね」




歌代ニーナ
スタイリスト・エディター・モデルとマルチに活動。「i-D Japan」や「Libertin DUNE」、スタイリングを担当。モデルとして「NUMERO TOKYO」などに出演。カルチャーマガジン「PETRICHOR」の編集長としても活動をする。 2018年にはThirteen13としてデビューを果たした。
https://www.instagram.com/ninautashiro/
https://www.instagram.com/petrichor.magazine/








text Ryoko Kuwahara


This interview is available in English

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS