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天野太郎(横浜美術館 主席学芸員)「美術は近くにありて思ふもの」Vol.1 美術と音楽の類似性 ゲスト: MARCY(THE BAWDIES)

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複製が出来て音楽は爆発的に広がった

天野「音楽でも例えば今のロックですって言ったらまさに今やん。60年代のロックを今のロックとは言わんよね。じゃあそれはどんな言い方があんのって言ったら、近代とも現代とも言わないし」

MARCY「そうですね。50年代とか60年代のコンピとかは大体オールディーズっていうところに入れられてて、その言葉を知らない時でも、それこそ古くて、60年代のちょっとゆるい感じっていうのはパッと頭に浮かびますが、音楽は年代でのカテゴライズはあんまりないかな」

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天野「そういうカテゴライズは違うけど、歴史的に、音楽や美術を支えてた貴族や王族が19世紀でいなくなって、そこから需要者が拡大して、大きなマーケットが出来たというのは重なるよね。美術では19世紀に貴族たちから没収した美術作品を展示して見せる美術館ってものができる。一方音楽では、1880年代くらいの頃、ティン・パン・アレー(マンハッタンにある楽譜出版社。演奏者のエージェントが集まった一角)が、作曲家が新しい曲を作ったらその楽譜を売ってお金にしてた。それがエジソンが出てきて、レコードで複製ができるようになって、ライブ以外で演奏が聴けるようになって。それも実は写真が出来てからの美術と同じ流れ。複製ができたことでそこに行かないと聴けない、見れなかったものが、世界中どこに行っても見れるようになった。そういう歴史は同じやねんけど、俺はむしろ音楽の方が爆発的に広がったと思うな。さっき言ったティン・パン・アレーがあったのはNYの18丁目でダウンタウンの雰囲気が今もあるような場所。だからこそアッパー・イーストのセレブとかじゃ作れないような作品が沢山生まれたんよ。『オン・ザ・ロード』ってジャック・ケルアックの小説や、音楽で言えばビートルズだよね、1950年代の。それらを支えてたエリアで、ポピュラー・ミュージックが生まれた。美術もそうで、今では違うけど1980年代までのNYの現代美術館はホワイト・タワーと呼ばれてたの。白人の展覧会しかしないから。そういうところを辞めてダウンタウンに来たキュレーターたちが上ではできなかったことをやってたのが本当に面白かった」

MARCY「そうですね。俺らもルーツはソウルなんで、それこそ黒人音楽が発祥で。おもしろいのは、おっしゃったように黒人の労働階級から生まれた音楽が後にヒットチャートに入ってくるんです。どんどん白人に影響を与えていって、それを取り入れたのがエルビス・プレスリーとかでロックンロールやロカビリーに発展していく。その後にまた、ファンクのジェームス・ブラウンが出て、当時は流行らなかったものが後にどんどん流行って。ポピュラリティというか、あまり知られてなかったものが人々に衝撃を与えていったっていう」

天野「そう。で、またこれが興味深いんだけど、複製で広がったんやけど、レコードしか聴いたことがない人はいつかライブに行きたくなるわけ。だからライブが神格化されるのよ。いつもレコードの前で聴いてたら、誰だって目の前で歌ってる姿を見たくなる。ファンが生身の姿を見に来るのって、一回こっきりしかできない経験をしたいわけで、それは美術も一緒なの」

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MARCY「それはわかります。俺らも一緒で、レコードを作るってことは1つの作品を作るわけで、もしかしたら何百年先にも残る可能性もある。バンドがライブで表現できることと音源で表現できることは違って、どちらも限界があるんです。だからライブでは表現出来ない、でも表現したいことというのを音源に入れたりしますね。タンバリンの音を入れるけど、もう1人必要になっちゃうからライブでは叩けない。だけど、そういう方向性だっていうことはちゃんと音源に詰める。それこそ芸術作品を1枚作っておいて、それをどう生で見せるかみたいな。お客さんは、生だからテンポも歌い方も違う、やってることさえ違うこともあるから観に来てると思う。俺らもライブでどう表現するかみたいなところもすごく楽しみで、1回だけのステージだから絶対特別な夜になる。その空気をちゃんと感じさせる。これが次に行って『また同じだったね』ってなったらダメだと思う。特に俺らはライブ・バンドだから。でも実はライブやってる時のことって、僕、ほとんど覚えてないんですよ。頭が真っ白で。だからライブDVDを観て、ああこうだったんだなあって初めてわかるみたいな」

天野「それが生ってことやな。でも音楽と美術で決定的に違うこともある。例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』って言ったら誰もが頭の中に浮かぶけど、実際に見ると全然違うのよ」

MARCY「それ、よく聞きますよね」

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