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『夫婦フーフー日記』佐々木蔵之介×永作博美インタビュー

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──前田弘二監督は劇場公開デビュー作『婚前特急』(2011)や2作目『わたしのハワイの歩きかた』でとぼけた味わいがありつつキリリと引き締まった喜劇を作ってきましたが、その持ち味が存分に発揮されている感じですね。そして今回は何といっても、お2人の“オモロイ夫婦”ぶりがチャーミングでした。あのマシンガンのような掛け合いは、なかなか練習してできるものではないように感じたのですが……。

佐々木「まず、前田監督と林(民夫)さんが一緒に作られた台本のクオリティーが非常に高かったんですね。それこそ17年間の友人期間と493日の夫婦期間が、2人のやりとりを通じて怒濤のようにダーッと流れていく。内容はもちろん会話のテンポみたいなものも見事に再現されていて──決定稿を読むと、夫婦の“間”が浮かんでくる感じだったんです。なので、クランクイン前に一度永作さんとホン読みだけさせてもらいましたけど、基本的にはブッツケ本番。『ヨーイ、スタート』で撮っていきました」

永作「私も同じだなぁ。むしろ監督が最初から「夫婦漫才みたいな感じで演じてください」と仰っていたら、あんな自然な掛け合いにならなかった気がします。今回の現場では前田監督もスタッフも、原作者の清水(浩司)さんも細かい注文は一切されず、一歩引いたところで役者を見守ってくださった。結果としてはボケとツッコミみたいな会話になってますが、それはどちらかというと佐々木さんの力が大きくて……」

佐々木「はははは(笑)。ですかね?」

 永作「そもそも私は関東の出身で、そういった漫才っぽいテンポが身体に入ってるわけじゃないけど、佐々木さんは京都出身、いわば全身の毛穴でそれを受け止められる人でしょう(笑)。実際、私が多少ズレたところも全部拾ってくださったし。しかもプロみたいに完璧にタイミングが合った2人じゃなくて、ちょっと凸凹していたのも逆によかったんじゃないかと。相手かまわず突っ走るヨメを、人知れずダンナがフォローしているという(笑)。それがきっと、映画の中で、あの夫婦の空気感を作ってくれたんじゃないかなと。撮り終えた今になってみて、そう思います」

佐々木「カメラが回る前に、特に2人で打ち合わせたりすることもなかったですしね。本当にその場の流れで」

永作「結局あの夫婦って、終始どうでもいいことで張り合ってきた関係だと思うんですよね(笑)。会話のネタがどんなささいなことであっても、『この人だけには負けたくない』と意地を張ってる。そうやってヨメが必死になり、ダンナが『しょうがないなぁ』って折れる様子さえ、観る人に伝わればいいのかなぁと。だから会話のテンポで笑ってもらおうとか、そういうことは考えませんでした」

──闘病ブログから生まれた原作「がんフーフー日記」(小学館刊)は多くの人に読まれロングセラーになりましたが、今回の映画版はそれをストレートに映像化するのではなく、「死んだはずのヨメがダンナの前に現れ、一緒に夫婦生活を振り返っていく」というファンタジー的な設定が加わっています。現在と過去が共存する世界観ですが、演じるのは難しくなかったですか?

佐々木「どうだろう…。今回、2つの時間を同時に撮り進めたわけじゃなく、別の場所で撮影してるんです。例えば病室のシーンであれば、まず生前のヨメとダンナが語り合ってる場面を撮影して。それを確認した上で、基本的には後日、グリーンバック上で撮った現在形の2人を合成している。過去の自分を客観的に見られるという意味では、むしろ演じやすかったと思います」

永作「ただ、最初にシナリオを読んだときには『これ、どうやって映像化するんだろう』って思いました(笑)。過去と未来が同時に存在してる設定って、目で見ればすんなり理解できますけど、台本段階では頭の中で合成しつつ読まなきゃいけないので」

佐々木「あ、それは僕も同じだった(笑)。読み進めていくうちにだんだん、『ん? このシーンでは一体、観客は誰の目線で、何を見てるんだっけ?』と混乱してきたりして……」

永作「面白くて一気に読めちゃうのに、ふと立ち止まって考えてみると、すごく複雑な構造になっている。それがまた、役への興味を引き立ててくれた部分もありました」

佐々木「それこそ今の日本映画においてもチャレンジングな試みというか……前田監督自身、かなり高いところを目指して作られてるなという気合いは、伝わってきましたね」

──物語は1990年代半ば、2人が出会うところから始まります。初めて出会った居酒屋で、オザケン(小沢健二)について熱っぽく語るダンナと意気投合するヨメの表情も印象的でしたが……。 

佐々木「ははは。この年齢になって二十歳の学生を演じるというのは、普通に考えれば『あんた、そら無理やで』という話で。実際、現場でスタッフと笑ってたんですけど。でもまぁ、あそこのシーンはちょっとした点描ですからね(笑)」

永作「そうそう(笑)。深く考えだすと演じられなくなっちゃう。役者である以上、回想シーンというのは一定のスパンで回ってきますからね。現場でも『ここは勢いでサーッとやっちゃいましょう』と励まし合って」

佐々木「そういう役者の気持ちをちゃんと現場の人たちが共有してくれて、面白がって撮れたのはよかったですよね」

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