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石川竜一(写真家)×天野太郎(横浜市民ギャラリーあざみ野学芸員)「考えたときには、もう目の前にはない 石川竜一展」対談インタビュー

C.43

C.43(CAMPより)/2015年/インクジェット・プリント

——そういう考えや先ほどの子どもを作るという感覚は色々学んだ末に辿り着いたんですか? それとも自分の実感として?

石川「なんでしょう。でも、そういう実感があります」

——最初に撮り出した時からあるんですか?

石川「いや、ないけど」

——これはなんなんだろう、って後から考えた時にそうなる。

石川「うん。『俺、何してんの?』と『何がしたいの?』とか。基本的には勉強したことはあまりない。本は、物語が好き。花村萬月とかが好きなんですけど、何かを自分でやろうとするときに必要になったり、興味や基本にあるのは存在論みたいなもの。でも写真を始めてからは、そういう勉強や音楽を聴くことをやめてしまったんです。ここで消化されることがすべてもったいないというか、すべて写真に置き換えてみたらどうなるかと思った。写真に関すること以外は出来るかぎり自分の意志では選択しない。要は、写真で考えてみようみたいなことになって」

天野「お父さんやおじいさんはどんな人でした?」

石川「お父さんは元々ヤンキーで、土木会社を立ち上げて、そのあとに株とか畑とかにはまって、って人。お母さんは銀行員。小さい頃から自分で考えろと言われてて、怒られることをしてごめんなさいと言うけれど、『ごめんじゃない、なんで起こられているか考えろ』って感じなんです。でもそんなのわからないからまたやってしまったり。あと僕はデブで意地っ張りだったから人に嫌われたりすることも多くて、小さい頃から『なんでこんなことされるんだろう』とか『こいつら何考えてるのかな』とかそういうことをよく考えてました。女の子にもよく泣かされてたんです。女の子には手が出せないから。バレンタインの時に、ちょっと人気のあるグループの女の子が、学校終わったらここに来てって。頭の中ではわかってるんですけど、気になるから行くじゃないですか。そしたらいなくて、『ほらな、いないわー』って。で、次の日に学校行ったら噂になってるんです。俺がそこに来て、どういうことをしてたのかを見てたやつらがいて、あいつこういうこんな感じだったぜとか。それはマジでやばかった」

天野「何年生の時?」

石川「小学校3年生くらいの時。そんなやつらがいっぱいいて、男がスカートめくりしたら、女の子は男の股間をガッと握っていったり。保育園まで辿ると、昼寝の時間に自分の体を触らせてくれる女の子がいたり、性的意識は昔から強かったですね」

天野「個人的にネガティブにさせられるような思い出はありました?」

石川「親同士はめちゃくちゃ喧嘩が激しかったです。何度か救急車が来たり。そういうのを見てて、止める勇気もないし力も無くて、無力だと思って」

天野「なるほど。人って誰に影響されたかが大きいと思うんです、子供の時に。1人で大きくなったわけじゃない。誰がこういう人を作ったのかを聞きたくて家庭環境を聞いたんですけど、まだ石川竜一という人間がわからない(笑)。ただ石川さんの最たるものは、ブレないところ。判断がブレてない。その判断が正しいと僕は思った。異常なこともしないし、真っ当で、すごいなと思った。人間をそんなに真正面から見るなよ、という。僕は何かがあると相当ぶれて違う判断をすると思う。正しく判断する人はいるんですよ。正しく判断っていうのは、そこにいる人に押しなべて最大公約数の判断をする人。それと真っ当は違うし、そこがブレないというのはすごいこと。しかも打率が高い。初めて写真を見たとき、136点どれも無駄がなかった。それで興奮して、木村伊兵衛はとるなあと思った」

石川「くだらないことばっかりやってるんです。死ぬ前に、人は何かやり残したい。そこにすら欲望というか、何かを持ってしまう。それはしょうがないと思うんですけど、それやって、その時にやりきったわって心から言える人がいるかって言ったら、それはいないと思う」

天野「人の生き死にでもそうだけど、何が作用してとか、人のどう生きていきたいというのも、何が上手くいって、何が失敗かというのは誰にも分らない気がする。やはり事後なので」

石川「でも上手いこといくことを目指すんでしょうね」

天野「上手いことの上手いことってなんだろうって思いますよ」

石川「だからそれを探すんでしょうね」

天野「ずっとね。ずっと探すんだかわからないけど。しゃあない。でも、石川竜一という人の展示をあざみ野でやれたというのはすごく光栄なことやと思うよ」

石川「うまくまとめていただいてありがとうございます(笑)」

instant_22

 考えたときには、もう目の前にはない/2014~2015年/ピールアパートタイプフィルム

 

 

石川竜一展『考えたときには、もう目の前にはない』

開催中~2月21日(日)

10:00~18:00 ※会期中無休

横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1

入場無料

http://artazamino.jp

 

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石川竜一

1984年沖縄県生まれ。沖縄国際大学社会文化学科卒業。在学中に写真と出会う。2010年、写真家 勇崎哲史に師事。2011年、東松照明デジタル写真ワークショップに参加。2012年『okinawan portraits』で第35回写真新世紀佳作受賞。『okinawan portraits』『絶景のポリフォニー』で第40回木村伊兵衛写真賞を、2015年日本写真協会賞新人賞を続けて受賞。私家版写真集に『SHIBA踊る惑星』『しば正龍 女形の魅力』『RYUICHI ISHIKAWA』がある。

 肖像

天野太郎

横浜美術館主席学芸員を経て横浜市民ギャラリーあざみ野主席学芸員に。北海道立近代美術館勤務を経て、87年の開設準備室より横浜美術館で国内外での数々の展覧会企画に携わる。美術評論家連盟所属。主な企画展覧会は、「ニューヨーク・ニューアート チェース マンハッタン銀行コレクション展」(89年)、「森村泰昌展 美に至る病―女優になった私」(96年)、「奈良美智展 I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」展(2001年)、「ノンセクト・ラディカル 現代の写真III」(04年) 、「アイドル!」(06年)、「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」展(09年)など。横浜トリエンナーレ2005キュレーター、同トリエンナーレ2011、2014キュレトリアル・ヘッド。多摩美術大学、城西国際大学、国士舘大学非常勤講師。

http://artazamino.jp

 

企画・取材・文 桑原亮子/edit & interview & text Ryoko Kuwahara

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