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あなたが狂おしいほどに愛されることを私は願っているーー『めぐりあう日』ウニー・ルコント監督インタビュー

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彼女の人生はまるで一本の映画のようだ。幼い頃は韓国の児童養護施設で育ち、9歳で養子としてフランスへと渡ったウニー・ルコント。その後はパリの学校で服飾デザインを学び、時に女優として、また時に衣装デザイナーとして映画製作に携わるようになっていく。そんな彼女がいつしか語り部となって映画を作り始めたことは、自然な流れだったのかもしれない。

このたび日本公開を迎える『めぐりあう日』は、彼女にとって二作目となる長編フィクション。養子として育ったヒロインが、実の母親を探して港町ダンケルクで新生活を始める物語だ。

インタビュー中のルコントは背筋をピンと伸ばし、一つ一つの質問に穏やかな口調で答えを返してくれた。「取材続きでお疲れではないですか?」とこちらが訊ねると、「いま、甘いもので元気を補給したから、大丈夫」。ナチュラルな中にふと垣間見える凛とした輝きが実に印象的な女性だった。

 

 

30年の月日を経て出会う母娘の物語

 

————お会いできてとても光栄です。あなたの長編一作目『冬の小鳥』はここ日本でも大きな話題を呼びました。前作はひとりの少女の目線を通した非常にミニマルな物語だったのに比べ、今回は世界観がグッと広がったように感じます。

 

ルコント「ここには一つの挑戦がありました。テーマ的には前作と同じ“子供が親に捨てられる”という内容ですが、しかし決して同じ作風にはしたくなかった。もっと別の語り口があると感じたのです。そこで私は複数のキャラクターを登場させ、彼らの視点を交錯させることで、もっと広く外の世界を見つめたいと思いました」

 

————そうやって、子を捨てた母と、捨てられた娘が出会う物語が生まれたのですね。

ルコント「単に母娘が出会うだけではなく、私はあえてそこに30年という歳月を横たえることにしました。“子供を捨てる”という行為そのものを描くのではなく、30年後の彼らに焦点を当てることで、過去の出来事が現在にどんな影響を及ぼすのかについて検証できると感じたのです。当然、事態は母のアネット、娘のエリザという二人だけの問題ではなくなっています。エリザには息子が生まれていますし、それからアネットには同居している老いた母親の存在がある。こうして、自ずと四世代にまたがる物語が生まれることになりました」

————偶然にも「患者」と「理学療法士」として出会った二人は、自分らが母娘と知らないまま、30年の隔たりを“施術”によって埋めていきます。その光景は遅れてやってきた母娘のスキンシップのようにも見えてくる。この部分にルコント監督にしか成し得ないオリジナリティを感じました。

ルコント「全てのきっかけは、私がシナリオの執筆中に接骨院を受診したことです。そこでの最初に受けたのが、あの“施術”。両手を後ろから抱きかかえられ、身体を左右に揺らして、背中をグッと伸ばしてもらう。言われるままに施術を受けていると、なんだか自分が幼い子供になったようで・・・。この鮮烈なイメージを、なんとか映画の中に盛り込むことができないか考え始めたのです」
———結果、様々な意味をはらんだ、面白いモチーフになりましたね。

ルコント「ええ。最初は映像的なインパクトを狙っていたのですが、いざ物語に盛り込むと予想以上にドラマティックな要素となりました。母が娘を抱くのではなく、娘が母を抱きかかえる。そうやって立場が完全に逆転しているところも不思議な感覚をもたらしますよね。ひょっとすると、このスキンシップの中で30年前の記憶が蘇り、彼らは肌感覚で“真実”に気づくことになるのもしれない。そんなサスペンスドラマ的な側面も味わえるかと思います。ほんの思いつきのつもりが、そこには思いがけない可能性や意味が詰まっていた。これは私にとって非常に大きな発見でした」

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