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text by Shiki Sugawara

“The Conquest of Happiness” 映画『パターソン』にみるラッセルの幸福論 7/7

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Bラッセルの『幸福論』は、発表され90年近く経った2017年に公開された映画『パターソン』の中にも息づいている。
今回も、その二つの作品から幸せについてを読み解いていこう。


『幸福論』一部第2章「バイロン風の不幸」
“ほめられる価値があってもなくても,身近に必ずほめてくれる人がいることは,非常にうれしいことである。”



ラッセルは恋愛の意義を、協力を生み出す感情の第一のそして最も一般的な形であると重視しその経験の重要性についても説いている。
例えば、ヴィクトリア朝以降の懐疑主義的な人々が神の存在を信じられなくなってから、恋愛がその役割を果たしたとしている。恋愛に直面するや、どんなに懐疑的な人でも神秘主義的になり、「他には何も要らない、心の底から無条件の忠誠を尽くさなければならない」と感じている自己に気づくものだ、と。
そして、風当たりの強い世間に立ち向かうためには自分自身を受け入れてくれない世間よりもはるかに価値のある、愛する人にほめられることが必要なことである、と言う。それは、恐れと公平な批評の冷たい風からの避難場所を見つけたい、という欲求と結びついている。
そして当然のことながら幸福というものは、双方にとって共有されるべきものであるので自分も相手を受け入れて相互にほめあう関係でなくてはならない。


Brody-Paterson


パターソンの妻ローラは夫の書く詩を評価していて、「あなたは才能ある詩人なのだから、世の中に発表するべきだ。お願いだから、念のためにコピーだけでも取っておいてほしい。」と常に言っている。パターソンの書く愛の詩は、もちろんすべてローラに向けられたものでありそれが本人に受け入れられているのだから彼にとってこれ以上の特別な意義はないだろう。
また、日々変わるローラの趣味。独特の模様がついたカーテンや、オリジナルのレシピでパイを作る彼女にいつも賛辞を投げかける。しかし、彼が全て本当に気に入っているかどうかは定かではなく、特にパイに至ってはお世辞にも好みとは言える味ではなさそうであった。だからといってこれは無理に褒めているわけではなく、愛するローラが目を輝かせて作ったものだという点について彼は何よりも価値のあるものとして評価しているのである。


『パターソン』

自分らしい生き方をつかむ手がかりは日々の生活にある
“パターソン”に住む“パターソン”という名の男の7日間の物語。
【物語】 ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラにキスをして始まる。いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。
【監督・脚本】ジム・ジャームッシュ
【出演】アダム・ドライバー/ゴルシフテ・ファラハニ/永瀬正敏/バリー・シャバカ・ヘンリー 他
【 2016/アメリカ/英語(日本語字幕)/デジタル/1時間58分 】
Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.



上映情報
目黒シネマ OFFICIAL SITE
3/17~3/23 一週間アンコール上映


リリース情報
パターソン [DVD] Amazon.co.jp
[Bru-lay]Amazon.co.jp


引用:Bラッセル『幸福論』 堀 秀彦訳(KADOKAWA; 新版 2017/10/25)
Amazon.co.jp


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text by Shiki Sugawara

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