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text by haru.
photo by Mariko Kobayashi

haru.『たたかう女は食う』過去編

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最近よく「たたかう」という言葉を口にしている気がする。
私は戦士で、日々いろんなことと戦っているのだ。自分との戦い、女性としての戦い、表現者としての戦い。
ここ数年は「無敵そうだね」と言われることが多い私だけど、共鳴する映画のヒロインたちはいつだってどこか冴えなくて、自分に自信がない人ばかり。人との付き合い方もへたくそ。けれどそんな彼女たちが自分に失望することを繰り返しながらも強くなっていく姿は、完璧なヒロインなんていなくていいんだと思わせてくれる。
毎日の戦いで疲弊して、どうしようもなく悲しくなっても、私たちのお腹は減るようになっている。不思議なものだなあ。悲しくて苦しくてもお腹が減る。

「最強でも無敵でもない自分さん、こんにちは。ひとまず腹ごしらえでもしましょうか。」






vol.1 『ちゃんとおにぎり』


今日は日々たたかう私と、あなたのことを祝福する機会を設けようと思う。ついでにおにぎりを発明(?)した人も。


おにぎり。艶めく米粒エネルギーの集合体。歩きながら片手で食べることができるし、中に入れる具材次第で無限に種類の幅も増やせてしまう。こんなに素敵な食べ物ってないんじゃないかな。最近の昼食はもっぱら移動中に食べるおにぎりだ。中身は高菜と明太子が好き。


スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』で、ハクから受け取った大きなおにぎりを大粒の涙を流しながら頬張る千尋のシーンを覚えているだろうか(大半の日本人はこの映画を観た前提で話をしているけど大丈夫だよね、、、)。両親を豚にされ、慣れない環境でいつ終わるのかもわからない修行をさせられている千尋の緊張感がどれほどのものだったのか、本当によく表現されているシーンだと思う。ぱくぱく。ぽろぽろ。不安を抱えてしゃがみこむ千尋の背景には彼女の気持ちとは裏腹に、植物が青々と輝いている。いつだって自分を取り巻く世界と心には大きなギャップがある。


自分のティーン時代の痛みを忘れたくないと思う。とはいえ人間はうまくできていて、楽しかったことも辛かったことも忘れるようにできている。あの頃のことを自分ごととして思い出せない日が来るのかはわからないけど、仮にその日が来た時のために私はこれを形に残しておきたいと思う。あの時の私へ、今から思春期を迎える女の子たちへ、全てのたたかう人へ。


今から8年前。
3.11の一週間後、私はドイツにいた。
当時日本から持って行っていたものはリリースされたばかりのRIP SLYMEのCD(ジャケットがよかったから空港で購入。「Under The Skin」という曲がお気に入りだった。)、数冊の雑誌、服装もそのとき履いていたジーンズ一本のみ。
空港のトイレの個室で母に呼び出されて、妹と私はたくさんの現金を手渡された。母は残りを自分のブラの中に入れた(今思い出しても間抜けなスパイ映画みたいだった)ものの、明らかに下ろした金額が多すぎたため銀行戻してくるように勧めたら、その通りにしていた。
飛行機の中で短い昼寝から目覚めた母は、「もうしばらく日本に帰ってこないで」と言った。
父にすら相談することなくこのような決断をしてしまう母に対する私の感情は複雑で、「この人はまじでやべえ。」といった会話を妹としていたのを思い出す。
母は私と妹をドイツに住んでいた祖父母に預けると、自分は仕事があるからといって日本へ帰っていった。


そのまた一週間後に私はデュッセルドルフのシュタイナー学校に入学。母が鬼のスピードで手配したのだ。受かっていた東京の女子校は父が何度も挨拶に行って、なんとか一年間だけは籍を残しておいてくれた。それでも私は同級生たちの顔を一度も見ずに退学した。
それからドイツで過ごした4年間はもう本当に千尋の修行ばりに色々あったのだけど、この企画を生み出すきっかけにもなった出来事に、今回は触れたいと思う。


ドイツでの生活も二年が過ぎた11年生(日本でいうと高校2年生にあたる)になった頃、私の自分に対する不満とコンプレックスは頂点に達していた。
ドイツ語は小学校の頃から行き来していたから耳に残っているとはいえ、言葉の壁は相変わらず立ちはだかったままだし、何より自分の見た目も嫌だった。周りのみんなが理想とする長くて美しい髪や整った眉、大きな胸。何一つ持っていなかったし、持ちたいとも思わなかった。むしろみんなの追い求める「女らしさ」の呪縛から解き放たれたかった。それとは別の、自分だけが放つ光みたいなものが欲しくて欲しくてたまらなかったのだ。美の基準はやっぱりそれぞれの国で違って、それにも振り回されてしまった。「綺麗だね」と言われていた黒髪をベリーショートにし、男の子の洋服を着てゴスっぽいメイクをしたりした。日本では顔が小さいことがスタイルのよさに繋がると思われているが、その認識で「顔小さいよね。」と友人を褒めたつもりがなぜかその子は不機嫌になってしまった。私のアジア人特有の丸くて低い鼻を羨ましがられたこともある。子供の頃ドイツで鼻の形をバカにされたこともあって、信じられなかった。
思春期特有の体型の変化でついた肉は全て削ぎ落としたかったし、性別も、国籍も捨ててしまいたかった。


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肉体改造は計画的に行われなければいけない。そんなことも知らない私が自分に課したルールはかなり厳しいものだったと思う。必死だった。
小麦はダメ。小さなおにぎりだけ学校に持っていった。甘いものなんて食べないし、間食は野菜のみ。家に帰ると森に2時間ほど歩きに行き、夕飯前にはスクワットをする。食べたものは毎日記録した。一見健康的なプログラムに見えるかもしれないけど、私はこれに取り憑かれていた。一つでもルールが守れなければ自分が自分でなくなってしまうような気がした。恒例の親友との放課後フライドポテトも行かなくなった。食べることを放棄すればするほど、食べ物のことを考えるようになった。まだケータイも持っていなかったしInstagramもやっていなかったから、Tumblrに並ぶ美しい食べ物の写真を「いつか食べたいものシリーズ」フォルダに保存した。
語学の習得と違って、肉体の改造は割とすぐ目に見える変化が起きる。一ヶ月ほどで5キロ以上痩せた。最初のうちは減っていく数字を見るのが楽しみだったけど、それも長くは続かなかった。
自信をつけるどころか私は以前に増して泣き虫になり、寒がりになり、しまいには生理が止まった。



どこで闘い方を間違えてしまったのだろうか。
誰かに自分のことを相談するのが恐ろしいほど下手くそな私は(今でもそう)、ただ呆然としていた。今日の自分のことが好きになれないまま明日を迎えることが辛かった。
とりあえず生理が止まった、とだけ祖母に伝えると病院に連れていかれた。
医者には年齢の割に子宮が小さいことと、あとは恋愛小説でも読んだらいいんじゃない、青春しなさいと言われた。今思い出してもとんちんかんなアドバイスだ。恋愛して子宮に信号を送れとでもいうのか。そんなんじゃない。彼氏もいたことないし、セックスだってしたことがなかったけどそんなのは自分にとって重要ではなかった。自分を愛せない人間の人生に他人が入り込む余地などないのだ。
私は過剰なストレスと食事制限でホルモンのバランスが乱れ、心は疲れ果てていた。本当は自分が一番わかっていた。間違った闘い方をしていたことを認めるのが怖くて、悲しくて、一日だけ学校を休んでひたすら泣いた。



本来の自分を取り戻すために、まずは森へ行くのをやめた。
サンタの形をしたチョコレートを食べてしまう自分を責めるのをやめた。
リスが食べるようなサイズのおにぎりを人間仕様にしてお弁当を再開した。二個食べたっていいのよ、と自分に言い聞かせて。ちゃんとしたおにぎり。
体重は徐々に戻り、いつしか生理も来るようになった。



今ではこの話を他人にできるまでになった。まだ私がZINEをつくる以前のストーリー。
もう二度と戻りたくないと強く願うから、ここにアーカイブとして残しておく。
私だけじゃない。似たような苦しみや痛みを感じていた、もしくは現在も感じている子達を私は知っている。
世界に自分の存在を確立する過程にある複雑な感情の渋滞や苦しみ、涙を思い返すのは楽なことではない。でも、痛みに向き合わないことの代償は思っているよりも大きい。
私は気付いてしまったから、今日も闘う。



そして、食べる。


「何を食べたのか、どうやって出したのか。
結局のところ、それがすべてなのかもしれない。」
イ・ランさんの『悲しくてかっこいい人』から抜粋。


シンプル。
この「シンプルをする」ことが自分を含め、どれだけの人にとって難しいことになってしまっているのか。ちゃんと生きるってもっと簡単にできていいはずだ。


今朝は朝食にお茶漬けを食べた。
今日のハルに拍手。



画面越しのあなたは、どんな一日を過ごしたのかしら。
今日のあなたに拍手。


一息でも二息でもつきましょう。
明日なんて勝手にやってくるのだから。


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MOVIE – produce Reita Tanaka(TORIHADA) direction / casting haru. camera / edit Kazuki Ikegami title graphic Mariko Kobayashi
STILL – direction & text haru. photography Mariko Kobayashi

haru.
1995年生まれ HIGH(er)magazine 編集長 

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