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text by Ryoko Kuwahara
photo by Tammy Volpe

Our Body Issue : Interview with Tammy Volpe “自分に対して良い悪いというジャッジをしない意識を持てば、色んな状況に対しても良し悪しの決めつけをせず優しくなれる、そういうことに気づけたのは大きかった”







学生時代より身の回りの人々や生活のふとした瞬間を落とし込んだ写真で注目を集め、多くのメディアで活躍するTammy Volpe。現在インドネシア・バリでパートナーと8ヶ月の子どもと暮らす彼女は、写真作品だけでなく、自身の妊娠や出産に伴う変化を肯定的に受け入れ楽しむ姿やメンタルケアや正しい知識を持つことの大切さを伝えるポストを通し、女性として、クリエイターとして、個として、生き方や社会との向き合い方について考える機会をシェアしてくれている。今の作品とともに、身体や性、ライフイベントに関して、自身の体験や考察を改めて聞かせてもらった。(→ in English


――今回の特集ではみなさんに身体や性に対する知識があったかなども聞いているのですが、Tammyさんはご家庭で性教育を受けたりしましたか。


Tammy Volpe「私は厳格な母方の祖父母と一緒に住んでいたので、家庭では一切そういう知識に触れることはなかったです。短いスカートはダメ、男の子と遊ぶのもダメ、女の子はそんな座り方をしてはいけないという、私の世代では珍しいのではないかというくらい厳しく育てられていて、性の話なんてとてもできない雰囲気でした」


――では、学校での性教育で初めてそういった知識に触れた?


Tammy Volpe「そうですね。ただとても田舎の小学校でヤンチャな子も多くて、性教育のときは授業にならないほどみんなが騒いでいたので全然内容を覚えていないです(笑)。先生も生徒が騒ぐからサッと終わらせたかったみたいです(笑)。ナプキンも配られなかったし、難しい単語だけ教わって、リアルな知識は一切知ることができませんでした」


――そういった知識が与えられていない中でご自身に生理が来たときはどう感じられました?


Tammy Volpe「お母さんの生理を見ていたから“自分も大人になったら来るんだなあ”とは思っていたんですけど、実際に来たときは“女性になったんだ”と感じて、なんだか恥ずかしい気持ちもあり、家族にも言いたくなかった。友達には言えたんですけどね」


――なぜ恥ずかしいと感じるものなのか、不思議ですよね。


Tammy Volpe 「なんでだろう……私の家庭は少しでもセクシーな恰好をすると“はしたない!”って制されたりしていたから、なんとなく女性になるのがいけないことだという感覚でいたんだと思います。だから、生理が来たときに“女性になってしまった”と恥ずかしくなったのかもしれません」








――性に関する知識はどのように得ていたかもお聞きしたいのですが、これもまたセンシティヴな質問なのでもちろんお答えいただかなくても大丈夫です。


Tammy Volpe「ありがとうございます。でも事前に内容を聞いたうえで取材していただいているので大丈夫です。私の場合は携帯小説や漫画で性行為についての知識を得ていたから、偏った情報しか入ってこなくて、たくさんの間違いをおかしてからやっと気づきました。自分みたいに間違った情報を鵜呑みにしないように正しい性の知識を発信するべきだと思います」


――どういう情報があればよかったと思いますか。


Tammy Volpe「例えば、私は性行為は悪いものとか汚いものだというイメージを持っていたんです。家庭ではそんなことはしたないと言われていたし、携帯小説や漫画ではレイプや近親相姦が頻繁に描かれていたから、そういう環境で間違った知識を得ている若い子は多いと思うんですよね。日本の少女漫画って結構エグくて、レイプされたり性で大変な想いをしている人が主人公になっていることも多いので、感情移入した読者が“可哀そうなのが格好いいんだ”と思いかねない。大人って、どういう気持ちでああいう物語を作って売っていたんだろう。ちゃんと性行為の良い部分や肯定的な向き合い方を教えてもらっていたら、もっと自分を大切にするし、相手も大切にできる。回り道しなくて済んだんじゃないかと思うんです」



――本当にちゃんとした性教育は必要ですよね。Tammyさんは今は愛するということと性行為が結びついているということがわかったとブログでも書かれていました。現在はそのパートナーとの間にお子さんがいらっしゃいますが、大きく身体が変化する妊娠に対して、どのように知識を得て変化への受け入れ態勢を築いていきましたか。


Tammy Volpe「最初はインターネットで調べました。ただ、ネット上ではネガティヴな情報も多いので、情報リテラシーがない人は危険かもしれません。私も自分にあったものを見つけて行って、自然派のお母さんたちのブログやインスタグラムを見たり、ママ友からきいたり、本を読んで知識を得たりしました。個人差があるので、情報を絶対視しないことが重要だと思います。同じ人でも一人目と二人目の妊娠でも違いますし、そこは臨機応変に対応して自分で自分を見つめることが大事ですね。
身体の変化はたくさんあるけど、驚いたのは毛深くなること、身体中がむくむこと、夜中に足が攣ったりすること。でもお腹が大きくなるのと同様に、そのままに受け入れていきました。受け入れるためにはメンタルケアが必要だと思うのですが、私は妊娠して最初の数カ月は日本にいたのですが、日本だとメンタルケアが病院で直接受けられないことが多いことに気づいて。体重や睡眠といった身体に関することは病院で教えてくれるのですが、メンタルケアを受けるなら病院が紹介するクラスに行ってくださいという感じなんです。そういうことがわかった後に“モーハウス”という授乳服を売っているお店に行く機会があって、そこに妊娠中の女性の裸の写真がいっぱい飾られているのを見たんです。興味を持ってどういうものか尋ねたら、 “これを撮ったフォトグラファーさんは、日本の妊婦さんが自分の身体に自信が持てなくなって鬱になるケースが多いので、そういった妊婦さんをサポートしている”とお店の方がおっしゃっていて。調べてみたら、確かに日本では妊婦さんが鬱になることが多く、カウンセリングに通っている方も大勢いてショックを受けました。なぜ鬱になるかと言うと、旦那さんだったり周りの人から知識のなさゆえに配慮に欠ける言葉をかけられたりするからなんです。“毛深くなったね”とか“病気じゃないんだから家事をしろ”とかね。それまで妊娠に対してピースフルなイメージを抱いていたから、その実態にビックリしました」


――そういう出来事があって自分の大きなお腹のお写真と共に「変化は当然で恥じることじゃない、心ない声に悩まず自信を持って」というポストをされたんですね。


Tammy Volpe「そう、変化は当たり前のことだとみんなが理解していたら心ない声なんて出ない。正しい情報が必要だし、環境も大事だと思う。私が今いるバリでは妊婦さんは神様みたいな存在なんです。見知らぬ人もとても親切だし、妊婦や子連れが守られている環境だと感じます。でも日本では妊婦さんたちから悲しい話を聞くことが多い。マタニティマークをつけていたらわざとぶつかられたという友人もいます。私自身も福岡にマタニティマークをつけてバスに乗っていて嫌な目にあいました。目的地が終点で大きな荷物もあったから最後に降りてバスの運転手さんに手伝ってもらおうと思っていたら、後ろに座っていた女性が私のバッジを見て“、あら、この外人さんは妊娠マークをつけていたら荷物を運ぶのを手伝ってもらえるとでも思っているのかしら?”と大きな声で言い始めたんです。突然の悪意に驚いたし、すごく怖くなって。でも大事な命がいるんだから自分の身体を守らなきゃいけない、ストレスを受けて身体に差し支えてはいけないと強く思っていたから、悪意を受け流して、運転手さんにお願いをして普通に荷物を運んでもらいました。あと、東京にいたときはマタニティマークをつけていてもまだお腹が大きくない時は席を譲ってくれない人が多かったですね。妊娠3カ月までが一番流産のリスクが高いのに、そのことを知らない人が多いゆえだと思います。バリにいると平和で世の中がどんどん良くなっていっている気がしてきてしまうんですけれど、日本にいると胸が痛くなるようなことを街中で目にする出来事が多いかもしれません」








――自分よりも周りに合わせることが優先される日本の社会では、自分を大切にすることができなくて、他の人にもそういう態度をとる人が多い気がします。身体のことや性のことだけでなく、自己表現や自己愛の持ち方なども含めて様々な教育が追いついていないことがリテラシーの低下に結びついているのかなと個人的には思います。出産は自然分娩でしたか。


Tammy Volpe「はい。できるだけ薬品を使いたくなかったのと、無痛分娩がどれだけ赤ちゃんに影響を与えるかという記事を読んだことで自然分娩にしました。赤ちゃんの生まれてくる力、そして自分は生む身体を持っていると信じていたんです。私は病院ではなく、ジャングルの中にあるクリニックで産んだんですけれど、そこはお母さんと赤ちゃんのことを一番に考えてくれるところなんですね。生まれてすぐにはへその緒と胎盤を切り離さないんです。そこからずっと栄養が与えられていたので、すぐに切ってしまうと赤ちゃんが不安になってしまうし、胎盤に残っている栄養が全て行ききってから切ろうという方針で、生まれてからも赤ちゃんはお母さんと一度も離されない。私は自分に合っていると思ってそうしたけど、出産も個人差があるから自分に合った方法を見つけることが大切じゃないでしょうか。お母さんの不安を取り除けるのであれば薬を入れる選択も悪いと思わないです」


――そうですね、自分が納得いく方法に決めるのが良いと思います。出産後は身体に大きな負担がかかっているし、赤ちゃんのケアも24時間体制で必要というハードな状況ですよね。出産後の身体や状況の変化に対してケアはどのように?


Tammy Volpe「出産後、走ると子宮を重く感じるようになったんです。たぶん腹筋がついてないからだと思うんですが、子宮が下に下がっている感覚がして前みたいに軽く走れなくなった。これは鍛えなきゃと思いました。ずっと赤ちゃんを抱っこしているから体重はすぐに戻ったけれど、やっぱりお腹はトレーニングしないと戻らないですね。あと、妊娠中と産後直後は乳首の色が変わることも驚きでした。赤ちゃんが探しやすいような色になるんだと知って人間の身体はすごいなと思いました。ケアとしては、瞑想したり、フラワーレメディを飲んだり、玄米菜食にしたり、休みたいときに休むということを徹底しましたね。罪悪感も無しに休みたいだけ休むことがメンタルケアにも繋がるから、赤ちゃんのためにも自分のことを大切にしようと心がけました。でもそれもすぐにできたわけじゃないです。出産後は1日で退院したのでおっしゃるように身体もおぼつかない中で赤ちゃんの面倒をみるのはとても大変で。旦那も仕事で出ていたので、一人では無理だと判断してヘルパーさんにお願いして3カ月間一緒にいてもらったんです。ちゃんと頼ることも大事だなと本当に身に沁みました。ホルモンが急激に元に戻ったこともあるけれど、出産後は泣いてばかりで精神的にもかなりきちゃって。あの時期が一番大変でしたね。夜でも赤ちゃんは関係なしに起きるので“めっちゃ起きるじゃん!”って本当に驚いて(笑)。自分のタイミングでは何もできないので、バランスを見つけるまでにかなり時間がかかりました。2カ月くらいになってようやく慣れてきた感じで、子どももしっかり寝てくれるようになったし、私も睡眠がとれるようになっています」











―― Tammyさんが自分をケアできていることがお子さんの安心にも繋がっている気もします。Tammyさんは妊娠以前からセルフケアを心がけていたイメージなんですが、そのきっかけは?


Tammy Volpe「私は昔から妖精や魔女が大好きで、お父さんも結構そういうことを信じていて(笑)。母は真逆で全く信じないんですけれどね。実家は仏教だったので、おじいちゃんおばあちゃんが毎日お祈りをしている環境だったし、生活の中に自然にそういうものがありました。具体的なセルフケアやヒーリングを教えてくれたのは旦那です。彼はヒーラーになりたくて哲学や心理学、瞑想などを勉強していたので、生活の中での取り入れ方も教わりましたし、ヒーリングにも連れていってもらったり、色々な体験を通して気づくものがあったし、大切さを実感しました」


――セルフケアを取り入れてよかったことはどんなことがありますか。


Tammy Volpe「ありのままを受け入れる意識を持てたことですね。自分に対して良い悪いというジャッジをしない意識を持てば、色んな状況に対しても良し悪しの決めつけをせず優しくなれる、そういうことに気づけたのは大きかったです。他人からのイメージを考えて自分をどう見せるか考えたりすると自己嫌悪に陥って落ち込んでしまうんですよね。それより、ありのままに生きている私の人生を通した作品を作りたいと思いました」











――まさに今のTammyさんの写真にはそんな気持ちが表れていますよね。改めてクリエイティヴについてもお聞きしたいのですが、写真を撮るというのは肉体と精神が結びついた行為だと思います。そこのバランスをどのように考え、ご自身を磨いていったのでしょうか。


Tammy Volpe「精神と肉体の結びつきって、まさにその通りですね。私が今撮っている写真は100%感覚で捉えていて、日常で美しいと感じた瞬間があれば身体が勝手に動いて撮影しているといった感じで。カメラもいつも持っていて、身体の一部になっています。“この角度が……”といったようにコンセプチュアルなものは撮らなくなりましたね。以前はそういうリクエストも多かったし、自分でも求められている写真を撮ろうと思っていた部分があったんですが、自然でいたいと意識が変わりました」


――アクセサリー作りという手を動かす創作も始められていますね。


Tammy Volpe「私が赤ちゃんを産んだクリニックにドネーションをしたいと思ったことがきっかけで始めました。“私に何ができるかな”と考えていたときに、たまたま趣味で作っていたビーズのアクセサリーを着けていたら友達や友達の友達が“買いたい”と言ってくれて、もしこれを欲しいと言ってくれる人がいるんだったらもっと作ってドネーションしたらいい循環になるかもと考えたんですよね。素材にも気を使って、ヴィンテージビーズや貝、天然石といった環境に優しいものを使い、インスピレーションも生命の移り変わりや自然の織りなす形から得ています。小さいころから絵を描いたり、ぬいぐるみの洋服を作ったりして育ったので、新しく始めたというよりは手を動かすことは自分の人生の一部だと思いますし、精神的にも良い作用があって、メディテーションと同じように捉えています」


――なるほど。学生時代に身の回りの写真を撮り始めたこともあり、女性が被写体になった作品も多いですが、始めた当時と比べて今の女性の在り方や権利に関して社会の中での捉えられ方に変化はあったと感じますか?


Tammy Volpe「はい。良いか悪いかは置いておくとしても、昔よりは話し合う場面が増えたんじゃないかなと思います。より多くの人がフェミニズムという言葉を知るようになりましたし、意識は変化しているんじゃないかな。私自身の意識にも変化はあります。幼少期から女性というだけじゃなく“ハーフ”というカテゴライズもされていたので、そういうロールを押し付けられてきたことを他の人にはしないようにと昔から意識はしていました。例えば撮影相手に向き合う時は、若い女性という記号性ではなく絶対に個々でのコミュニケーションを大事にしようと思うのもそういうことで。以前はそのレッテルに対して舐められたくないと強気でいたし、“なんで?なんで?”と怒っていたけれど、考えたり調べ尽くした結果、権利は人間が作り出したものだし誰しも生まれたときから持っているものなのに、そのことを理解していない人がいるから差別が起こるのだということに行き着いたんです。だからこそ、私もみんなも権利は持っているんだからってあまり今は気にならなくなりました。考え方がシンプルになって“誰がなんと言おうと権利はある”と考えるようになったんです。そう考えたら楽になったけど、道程は辛かったし、ストレスも大きかった。でもこれって、多くの女性が通る道ですよね。通る必要がない道なのに」





――その権利にも通じる話ですが、アラバマの中絶禁止法に対しては率直にどう思いましたか。


Tammy Volpe「“え? なんで?”ですね。自分の身体や人生にまつわる選択は誰にも奪う権利はないですし、行き過ぎたコントロールは人の生きる力を奪い取ると思います。人はお互いのありのままを受け入れるべきなのに、赤ちゃんは神からの授かりものだからという大義でもって個を無視してコントロールしようなんて怖いし、怒っています。自分が母親になって、レイプなどの性犯罪で無理に妊娠させられて授かった赤ちゃんに対するお母さんの気持ちに想いが及び、とても辛い。その妊娠を乗り越えられるのか、産んだ後に虐待してしまうのではないか、そんなメンタリティで育てられた子どもたちも本当に心配です」


――こうしたバックラッシュもありますが、Tammyさんはご自分の作品を通して社会にどんな影響を与えていきたいと考えられていますか。また、次の世代にはどんな世界を生きてほしいと思いますか。


Tammy Volpe「正しい知識の溢れる世界であってほしい。自分の感情のコントロールの仕方など、そういうことが学べる機会がもっと増えてほしいと思います。あとは繰り返しになりますが、ありのままの自分を受け入れられる環境であってほしい。私は、私がありのままで生きている人生を写真を通して届けることで、誰かのために飾らなくてもこのままでいいんだと思ってもらえるようなインスピレーションを与えられる作品づくりをしていきたい。そして、特別でもなんでもない、どんなありふれた平凡な日常にある美を追求していきたいです」





photography Tammy Volpe
text & edit Ryoko Kuwahara


Tammy Volpe/タミー・ボルピ
1994年生まれ。10代から独学でフィルムカメラを始め、「Dazed UK」「Numéro 」、「VOUGE JAPAN」など多くのメディアで活躍。2016年カンヌ国際映画祭出展ショートフィルム作品「LOST YOUTH」の日英共同制作クルーに抜擢されるなど注目を集める。現在はインドネシア・バリ在住。
http://tammyvolpe.com

This interview is available in English

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