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text by Yui Horiuchi / Ryoko Kuwahara
photo by Riku Ikeya

Interview with Jaz Karis “どんなこともリラックスして楽しむこと、どうしてこういうアートをやっているのかという原点を忘れないようにすること”




サウス・ロンドン出身、アデルやエイミー・ワインハウス、トム・ミッシュらを輩出したブリット・スクールが送り出した次なる歌姫として注目を集めるJaz Karisがクリエイターズスタジオ「ORPCT」で初来日公演を果たした。ゴスペルやソウルにルーツを持ちながらも変化を恐れない姿勢とその豊潤な歌声で日本のオーディエンスを沸かせた彼女に、その音楽の背景やインスピレーション、セルフケアについてなどを聞いた。(→ in English


ーーお母さんの影響で幼少期からたくさんのゴスペルに触れてきたとあなたにとって、ゴスペルは子守唄のようなものですか?


Jaz 「ええ、私にとってゴスペルはどこか別の場所へ連れて行ってくれるような力を持つものです。子守唄というのはとても素敵な表現ですね」


ーーゴスペルに関して何か忘れられないエピソードはありますか?


Jaz「小さい頃は、立ち返るというよりも私の人生の一部という感覚でした。聖歌隊に入っていたんです。”プリンス・オブ・エジプト”はお気に入りのハーモニーとフィーリング。今でもそのBGMがとても好きです。ゴスペルはゾクゾクと震えがくるような、そういう音楽だと思う』


ーー故郷であるサウスロンドンには歴史あるミュージックバーやクラブがたくさんありますが、この街ならではというような音楽的な違いはありますか?


Jaz「なぜだかわからないけど、その人がサウスロンドン出身だとはっきりわかるんです。ロンドンにはエリアごとに違う言葉や訛りがあるからかも。例えばサウスの曲にはイーストやノースで使われていない言葉が入ってるし、そうやって自分たちの出身地をタグのように曲に入れることができるんです。みんなそれぞれの出身地に誇りを持っている。だからどこか一つのエリアに慣れ親しんでいれば、他のエリアの違いがはっきりとわかるはず」


ーー幼少期に過ごした背景が、作曲にインスピレーションを与えているのですね。


Jaz「そう。サウスの曲の多くがとてもアーバンなもの。R&Bやソウルもどんどん新しい音楽が生まれていて、サウスの音楽シーンは大きくなっていっています。いつもノースから音楽は生まれていたんだけどね」


ーーあなたはまさにそのサウス・ロンドンのスタイルを体現していますね。


Jaz「今度の週末にサウス・ロンドンで初の大きな音楽フェスがあって私もそこでショーを行います。Damien Marleyのような大物やWizkidも出るんです。“The Ends Festival”と呼ばれていて、それは私たちの街という意味。自分の家の周りを歩いてて自分の名前が載ったポスターを見るのは変な感じ(笑)」


ーーあなたの曲は変わることを恐れない姿勢を持ちながらも、ただ斬新というのではなく、クラシックなソウルやジャズを深く解釈したうえで新しい要素を入れていると感じます。自分の曲として、最初から今に至るまでずっと変わらず守っていることや気をつけていることがあれば教えてください。


Jaz「すべての曲はその時々の感情そのもので、それはいつも違っています。私は何かするときはいつも携帯電話かノートにそのとき思ったことを書いています。電車の中にいるときも、プロデューサーと会っている時も。そして作詞するときに見返すんです。すぐに言葉にできるように」


――その感情や記録をまっすぐに曲にしているんですね。


Jaz「すごくランダムだから絶対使えそうにないものもあれば使えそうなものもあって。でもその書いたものを見ることで何を言いたかったか繋がっていったりします」


ーーもし、携帯電話がなくなったら?


Jaz「頭の中に書き残してるから大丈夫。携帯電話の中の内容は参考にしてるだけだから」





ーー2017のEP” Into the wildness”はいまだに世界中で流されているけど、そこから二年はあっという間でしたか。環境も変わったと思いますが、どんな2年でした?


Jaz「2年がとても早く感じました。デビューEPを発売したと思ったら、休む間もなく次の作品に取り掛かって。初めてのことだったので、目まぐるしい日々を過ごしました。二年経っても、たくさんの人が自分の曲を覚えていてくれるのはとても嬉しいです」


ーー制作は一種の戦いですよね。


Jaz「経済的にも時間的にもハードでしたが、素晴らしい経験でしたし、自分の作品を誇りに思います」


ーー初めて公共の場で自分の曲が流れるのを聴いたときどうでしたか?


Jaz「すっごく興奮しました。たくさんの日本のダンサーがタグ付けしてくれて、私にとっては初めてのプロジェクトだったからびっくりたしすごく嬉しかった」


ーー”Sugar don’t be sweet”はパウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』からインスピレーションを受け作られたそうですが、現在、読んでいる本はありますか?


Jaz「あります。タイトルを思い出せないんだけど、自己啓発本ではないです。小説が好きなんです」


ーーアルケミストにはどうやって出会いましたか?


Jaz「当時のボーイフレンドに勧められて読んだら恋に落ちました。彼は普段、私に自己啓発本ばかり勧めてきて、それが嫌だったんです。でもこの本にはストーリーがありました。自己啓発本はあなたがどうしたらよいかはっきりと道筋を示してくれるし、何が起こるか教えてくれる。それはそれでいいことだけど、みんな違ったやり方でいいと思うんです。
私はいつも書いたり、読んだりしていて、最近はGabrielle Unionという女優の本を読んでいます。彼女は『Bring It On』『Think like a Man』に出ていて、自分の本も出しているんですがそこには彼女の苦悩、努力、業界での立ち位置の維持などについて書かれているんです。読むとモチベーションが上がるんですよね」


ーー小さい頃から読書家だったんですね。アートやカルチャーにも興味を持っていました?


Jaz「アートはまるきりダメです。見るけのはいいけどやるのはダメ。ファッションも見るのは好きだけどそんなに得意じゃない。でも小説はとても好きで、読むのも書くのもとても好き」


ーーいつか本を出版したい?


Jaz「もちろん。音楽は私にとって他のたくさんのことをやるための第一歩なんです」


ーー次のステップへ進むために、現在インスピレーションを受けているものはありますか?


Jaz「曲に? 音楽全体に?」


ーー曲やあなた自身。『アルケミスト』があなたを次のレベルに導いてくれたような。


Jaz「周りにいる人たちからインスピレーションを受けることが多い。小さなことから大きなものまで。政治にはそんなにインスパイアされたりしないんだけど、人々はいつも変わり続けていてすごく刺激的だと思います」


――日本人に刺激を受けることもありますか?


Jaz「ええ、“ラストラムライ”はよく観ました。昔の日本が好きなんです。あと渋谷もすごいですね。フライト後にシャワーを浴びてジェットラグのまま渋谷の交差点を歩いていたんですけど、まるで映画のようでした」




ーーあそこはいつも人通りがすごいですよね。少し身体のことについても聞かせてください。ヴォーカルという肉体をアートとして使っているあなたにとって、自分の身体との付き合い方で気をつけていることは?


Jaz「どのくらいショーから近いかに寄るけど、食事に気を配っています。私はあまり厳しくないから、もっと厳しくした方がいいかも。禁煙をしたり、喉の調子が悪かったらラテは飲まないようにしています。緑茶など温かい飲み物はいいし、はちみつもね! あとは、エアコンを切って眠ること」


ーーメンタル面のケアも教えてください。


Jaz「ひとつ言えることは、悪いことを考えないようにすること。影響が出る前にその考えを遮断してしまうのがいいですね。あと、歌うことや歌詞について考えすぎないこと。一旦ステージに立ったなら、頭の中でのように好きにはできないんだから、そこから出てクールに振る舞うべきなんです」


ーーそのために静かな場所に行ったりします?


Jaz「昔はよくそうしていました、きっと考えすぎていたんだと思います。今はただ頭の外に追い出してシャットダウンしています。プレッシャーの中ではうまくパフォーマンスできないから、どんなこともリラックスして楽しむことと、どうしてこういうアートをやっているのかという原点を忘れないようにしています」


ーー最後の質問です。自分のケアという意味で、日本では生理や性を含む身体や自分との付き合い方に対する教育があまりなされていなくて、未知がゆえに自分を大切にできていない人もいる気がします。そんな中アラバマで中絶禁止法が制定されたことは非常にショックでしたし、いよいよ自分を大切にすることや自分の選択を守ることを真剣に考える時がきていると思います。自分を大切にするということでなにかアドバイスがあれば教えてください。

                            
Jaz「法案を決定したのはほとんどが男性だったと読みました。どうして、レイプをされても中絶を認めないというような法案が通ってしまったのか。それってまるでレイプがそんな大きな問題じゃないと言ってるようなものじゃないですか。私はそういった体験はないんですが、知人の体験を聞くととても悲しくなります。被害者の50パーセントは誰にレイプされたか気づいているという統計がありますが、レイプ犯と再び顔を合わるかもしれないなんてひどすぎるし、前に進むにも容易ではありません。誰かに言ってもそれが認められないこともあって、心が砕かれるような思いをすることもあります。でも決して自分を責めないでください。何を着ていても、たとえ裸だったとしても、被害者が責められるべきではない。たくさんの女の子が自分のせいだと思ってしまっているけど、決してそんなことはないんです。そのことを誰かに話すのも話さないのもその人の選択で、他の人がとやかく言うことじゃないし、どう対応するかもその人が決めることで、ああしろこうしろと言われる筋合いはないはず。社会がそれを決定するなんて一番あってはならないことです。必ず一人ひとりがそれぞれの選択を見つけるべきです」

photography Riku Ikeya
interview Yui Horiuchi
text & edit Ryoko Kawahara



Jaz Karis
『Jaz Karis』
https://sweetsoulshop.com/products/jaz-karis-jaz-karis
https://itunes.apple.com/jp/artist/jaz-karis/1296766819
https://open.spotify.com/artist/4rDcfb3TEWyx0BKdzKG24I



Jaz Karis
NAOなど注目の女性シンガーを輩出するUKシーンのホットスポット、サウス・ロンドン出身のシンガー/ソングライター。AdeleやAmy Winehouseも輩出した名門BRIT Schoolの卒業生でもあり、2017年にデビューEP『Into The Wilderness』、2018年にはライブ音源からなる『Live At The Dairy』とシングルを発表。現代的なジャンルに固執しないスタイルと生命力のある歌声はすぐさま世界の音楽ファンたちの知るところとなり、ベルリンの音楽プラットフォーム「COLORS」が持つYouTubeの人気コンテンツ「A COLORS SHOW」に出演して450万回を超える再生回数を記録。Tom Mischのアルバムにもその名がクレジットされ、Jorja Smith、Mahaliaに続く新たな才能の持ち主として注目を集める若き才能だ。
https://sweetsoulrecords.com/artists/jaz-karis/


This interview is available in English

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