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将軍家の「御文庫」を巡る江戸情緒あふれる連作集




本屋が庶民にも身近な場所となったのは江戸時代の頃。戦国時代が終わり、娯楽を求める庶民のニーズと木版などの印刷技術の発達により本屋は江戸や京都などを中心に急速に広まった。扱われた本は江戸初期こそ教養本が多かったが、その後、絵草紙や人情本、滑稽本、狂歌本、枕絵など、様々なジャンルが生まれ、町民を楽しませていたという。


一方で、徳川幕府も将軍のための政務・故実・教養の参考図書を用意すべく、医学や詩文などの漢籍から戯曲・通俗小説までを収蔵する「御文庫」を設置。「書物奉行」という専門の役職を置き、その膨大な蔵書の蒐集・管理・補修・貸借および鑑定を行なっていた。


そんな御文庫を舞台とした小説が『御書物同心日記』シリーズだ。


本書は天下の稀本・珍本を集めた将軍家の御文庫に勤める、新米同心の東雲丈太郎が、稀覯本の流出、幽霊など本を巡る様々な出来事に遭遇するという物語。


目の覚めるような謎や大きな事件はないが、一連の出来事を通して垣間見える江戸町人の暮らしや心情が、当時の風俗や言葉を巧みに織り込みながら細やかに描写されており、江戸情緒を存分に感じられる一作となっている。また、実在の稀覯本や本にまつわる知識・専門用語が随所に登場するので、古書が好きな方にもオススメ!


『御書物同心日記』
出久根達郎
講談社
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