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text by Ayana Waki

.nl Issue: ひとつのカテゴリやコミュニティにおさまらない人々が集まり、飲み、踊り、生活をするるつぼMONOアートディクターShirin Mirachor/Interview with Shirin Mirachor, artistic director of MONO


Photo by Koen Bouman


オランダのクリエティヴ業界を盛り上げているアーティスト11人を取り上げる「.nl Issue」特集。近年、多くの国が国境を閉鎖しナショナリズムが高まり、世界共通の言語でもあるアートを通して団結することが以前よりも重要となってきている。NeoLでは、現在の状況と予測不可能な未来のために、議論ができる空間を様々な形で人々に提供するアーティストやアクティビストへのインタビューに取り組み続けている。本特集では、限界に挑み続け、フロントランナーとして走るオランダに在住するアーティストを紹介し、国の魅力についてはもちろん、今現在の環境、社会構成、政治などの問題を乗り越えるために必要とされる緊急性と行動力を喚起したい。
MONOのアートディレクターであるShirin Mirachorは、ドバイに旅した際に、その都市が持つ芸術と文化のシーンでの魅惑的な可能性を改めて認識。かくして彼女は、4日間のフェスティバルで中東と北アフリカのデジタルアートの分野での新しいアーティストをオランダに紹介するというNew Radicalismを誕生させた。イラク・クルド人のバックグラウンドを持ち、文化的な分野で10年以上働いてきた彼女は、 1つのカテゴリやコミュニティにおさまらない人々のための場所としてMONOを作り、そこはさまざまな文化や民族の人々が集まり、飲み、踊り、生活をするるつぼとなっている。
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ーーNew Radicalismは中東と北アフリカのデジタルアートの分野における新しいアーティストを4日間のフェスティバルで紹介するというものですが、このアイデアはどうやって思いついたんですか。

Shirin「5年前にHIPSTER/MUSLIMというプロジェクトを開始しました。これは、ムスリムをめぐるステレオタイプと偏見に関するもので、ヒップスターとイスラム教徒が同じような髭を生やしていることから、両者を隣り合わせに紹介することで、他人へ抱く恐怖についての議論を広げようとたのです。彼らは服を交換し、その前後の写真を見ると、誰が誰だか見分けるのが難しくなります。非常に遊び心のあるプロジェクトであり、それを通じて私は普段ニュースでネガティヴな何かに関連して紹介されがちなイスラム教徒のコミュニティにとって新しい何かが必要であると認識することになりました。
東と西の間にあるこの権力構造に出会い、プロジェクトの展示のためにドバイに行って、そこのクリエイティヴシーンがどのような感じか興味があったのでインスタグラムに飛び込んでみたのですが非常に驚きました。全く知らなかった多くのコレクティヴやアーティストの作品を見ましたが、とても新鮮で進歩的だったのです。インスタを見ている間に、うっすらと不安を感じていたのは中東と北アフリカで何が起こっているのか手がかりがなかったからなのだと気づきました。このため、私はニューラディカリズムについてより深く考え、その多くが宗教的なものである常にネガティヴなニュースについて考えました。私にとって、急進主義とは、枠の外で考えることです。さらに、デジタル文化の中の中東と北アフリカでは、何かをするために金銭的手段を必要とせず、多くの制限的な境界がないので、アイデアを提示することをより楽しめています。それらをまとめ上げたのがNew Radicalismです」



ーー4日間に渡るフェスティバルで印象深い出来事はありますか?

Shirin「同じような精神を持った人々が1か所で出会ったことですね。私は普段はあまり詩的なほうではありませんが、本当にマジックが起こったのです。学問と実践、知的分野とより多くの都市文化の間で常に1つを選ばねばらないような状態で、私はいつも少し寂しく感じていました。しかし、こうやってクラブナイトと展示会、文化プログラムを1つにまとめあげ、話し合いをしたり、話したりすることは興味深かったです。スピーカーと連絡を取り、クラブで夜にその人に会うのはとても簡単なんです。あと、はっきりとではないものの、北アフリカ出身の人々の新しいロールモデルをここで見つけたいということも言及していました。モロッコのルーツを持っているために常にちょっと「もう一方」としてのけものの気分を味わっていた人は、その日の文化的なリファレンスのすべてが東洋由来のものであり、そこで奏でられている歌がすべて知っているものだったというスペシャルな経験をしました。 1週間半後、女の子が私のところに来て、とても感動して日曜日の間中泣いたと言ってくれました。彼女は初めてモロッコ人であることを誇りに思ったと言ってくれたのです。そういう声を聞いて、とにかくこのイベントを継続し続けたいと願うようになりました」

ーーアーティストはどのように選んでいるんですか。あなたの友人や関係者が主ですか?

Shirin「まずは友人と話すことから始めました。最初は『アラブ人のアーティストを探しているんだよね』という漠然としていて単純な会話で、『アラブのアーティストって一体どういうこと?』という返しがくるような感じで。それは純粋なアジアのアーティストを探しているというのと同じで、本当に意味をなさないものだと気づいたんです。それで中東が実際にどういうものであるかについて非常に多くの考えがあることを受けて、アラブとは一体何なのかを議論することにしたんです。その後、それらの地域全体でただ1人のキュレーターと仕事をするのはばかげていることに気付きました。これらの場所で何が起こっているのか実際には誰も知らないので、代表させるようなキュレーターを見つけることができないんです。そこで最初は4つの国を選び、それぞれの国から最高のアーティストを選ぼうとしたのですが、またしても国境で分けて考えるのは間違っていると思ったので、4人の異なるキュレーターがそれぞれにアーティストを選ぶことにしたのです。たとえば、イスラエルについて、この国を含めるべきかどうかについても議論しました。どちらの選択も政治的に非常に繊細であるため、キュレーターに最良と思われるものを決定させ、彼らに任せることが最善であると判断したのです。音楽や教育プログラムにとってもその方が有効でした。私たちの役割は、自分自身のやり方で決定するのではなく、もっと謙虚であるべきだと思ったのです。だって何がうまく機能し、何が機能しないかを知らないんですからね。ただ、特にコンテンツプログラムについてはとても密接に関与していて、どうやったらオランダでうまくハマるかは知っていたので、その部分は意見を反映させました。ロッテルダムは労働者階級の都市だと知っているので、教育的なレクチャーがベストかどうかはわからないですし、そことのバランスを見つけることも私たちの役割です」



ーーフェスティバルは、ロッテルダム中心部でありながら人の少ないZohoエリアで開催されましたが、フェスティバルとクラブの拠点をここに置いたのはなぜですか?

Shirin「この地域はマイナールーツを持つことで知られていることが主な理由です。私たちにとってはアートをオーディエンスに届けることが重要であり、その逆は重要ではないのです。このために、近隣の18〜25歳の近所の子供たちが一度すべての作品に自由にアクセスでき、セッションにフィードバックする教育プログラムを設けたのですが、そのセッションは非常に活発なものでした。拡張現実を通じてアプリを作成しなければならなかったことが一度ありました。高い教育を受けた人がMONOに来て、あまり快適に感じないというのが理想なんですよ。だってここはホワイトキューブとは大きく異なりますから。近隣の子供達はとてもリラックスしていて、キュレーターと話をし、たくさんの質問をしています。完璧でしょう?」

ーーあなたは文化の分野で10年以上のキャリアがありますが、これまでの経験はMONOのコンセプトを形づくるのにどのように役立ちましたか?

Shirin「私は芸術と経済学のバックグラウンドを持っていますが、それはつまりアートのマネジメントができるということでもあります。私は常に若者の文化とカウンターカルチャーに興味があり、特にクラブに焦点を当てていました。ナイトライフはミステリアスさがあり、夜のクラブでは非常に多くのムーヴメントとカウンターカルチャーが生まれています。だからこれらのシーンとブランドを関連づける『クラブで幸せになるには』という卒業論文を書いたんです。それからある時、私はロンドンの『VICE』でストラデジストとして働く機会を得ました。夢が叶ったのですが、彼らがプレゼンしたミレニアル世代の像はちょっと表面的に感じたのです。そこで自分のプラットフォームを『Get Me』にしようと決め、それが現在に繋がっています」

ーー元々はオンラインプラットフォームであったMONOのバックボーンであり独創的なエージェントであるGet Me。これらのイニシアチブがどのように相互にリンクされているのか、そして設立の理由を教えてください。

Shirin「Get Meはオンラインのプラットフォームとしてスタートしましたが、オフラインイベントの人気が高まりました。私たちを取り巻くクリエイティヴのこの動き全体が大きくなり、Get Meのフィジカルなスペースを継ぐ存在としてMONOができました。その後、実験を行うために基盤を形成する必要があり、(A)WAKEが形成されました。Get Meはエージェントであり、ビジネスのためのものですが、MONOはすべてが集まる場所です。(A)WAKEは消費者と実験のためのものです。 MONOでは物理的なスペースを使うので流動的になれない。だから常に注意が必要ですし、怖かったです。しかしそれは、ショウケースでコレクティヴの作品を提示し、それらを持続可能なものにする機会を与えます。Get Me、(A)WAKE、MONOでは、New Radicalismのようなフェスティバルでアーティストを見つけた場合、その作品をGET MEと(A)WAKEでもディストリビュートすることができるので、ビジネスモデルとしてとても良かった。これは、Dazedやi-D、VICEと同じビジネスモデルです。一方はコンテンツに焦点を当て、他方はその知識と才能をビジネスで売り込むことに焦点を合わせています。これらの要素を組み合わせたら完なんです璧。私たちは多くのことをやっていますが、適切なバランスを見つけるためでもあります」



ーーイラクとクルドのバックグラウンドを持っていますが、ロッテルダムで育ったことは、あなたのバックグラウンドに由来する世界の考え方や認識にどのように影響したのですか?

Shirin「その狭間の感覚だけでなく、知識層と労働者階級の領域の間で働いたことで多くを学びましたし、多くの意味がありました。私はイスラム教徒を謙虚さ、あたたかさ、そして超社会的であると捉えています。9.11があり、そのためにイスラム教徒が受けた扱いの後、私は彼らのために異なるサウンドとプラットフォームを作る必要性を感じました。バックグラウンドは私に多くの動機をもたらしているし、それが故の特権もわかっています。自分のアイデンティティを切り替えることができるので、特定の文脈ではオランダ人の女の子に簡単になり、政策の立案者と話してプロジェクトの資金を得ることができるんですよ。その狭間であるという立ち位置をうまく長く使おうと思います。また、ある若い女性は私に、女性がこのプロジェクトのイニシアチブをとっていることに触発されたと言ってくれました。意識したことは一度もありませんでしたが、そのことで私もより意識的にもっと活用しようと思いました。男性しかいない状態で考えるには難しいこともあるんです。だから、これらの特権とスペースを活用することはとても重要ですね」

ーーロッテルダムは、アンダーグラウンドの音楽シーンが有名です。アムステルダムと比較して、芸術と文化のシーンは商業的ではなく実験的だとか。なぜこの都市は前衛的なアーティストやさまざまなサブカルチャーの人々を惹きつけると思いますか?

Shirin「スペースがあるからだと思いますね。ここでは市内の安い場所を借りることができるんですよ。ロンドンのような場所を見ていると、家賃が高すぎるので実験的なことをするのは難しい。失敗できる余裕がないので、ベタな成功が約束された計画が必要なんです。ロッテルダムは魅力的ですが、同時にお金がない人、特に若者が多いのが難点にもなります。金銭にアクセスする手段を持っていない場合、彼らはどのように起業するのでしょうか? 外からの人々に投資する前に、市はまずロッテルダムベースの先駆け的な人々に投資してほしい。今は正式な芸術教育を受けていない人々に焦点を当てた才能を発掘する夜のイベントがあり、多くの経済援助が受けられているのですが、これは本当に重要だと思います。このところ、人々はお金よりもムーヴメントとイニシアチブに関心が高まっているのが、とても嬉しいです」


Photo by Khalid Amakran Vers Beton

text Ayana Waki

MONO ROTTERDAM
Vijverhofstraat 15 3032 SB, Rotterdam
www.a-wake.world
https://www.instagram.com/mono_rotterdam/

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