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Fashion/Reborn:「幾度となく繰り返されてきた実験が私のフォトグラフィーの基盤を形成している」Interview with Tarek Mawad

NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara



誰もが経験したことのないニューノーマルの時代に突入している中、クリエイティヴ業界では、アート/コマーシャルの垣根を超えて新たな側面から制作に取り組む姿勢が見受けられる。今回は、様々なバックグラウンドを持つフォトグラファーたちの創造力・技術への向き合い方を探りながら、華美な物語からストリートで巻き起こるファッションフォトグラフィーの過去・現在・未来においてどのような変遷が起きているのか掘り下げていく。
ドイツを拠点とするフォトグラファーで、3Dアニメーション、プロジェクションマッピング、インスタレーションなど多方面で活躍するマルチアーティスト Tarek Mawad。自然体の中、プロジェクターを用いて文章、コードやカラーブロックを映し出し、映画『アバター』のような異質な世界観を醸し出している。高度な技法だけに留まらず、身近にあるものを使って実験的な試みを繰り返す彼のデジタルとアナログフィルムを融合させたオリジナリティー溢れる作品に誰もが引き込まれていくだろう。彼がクリエイトする際にどのようなプロセスを踏むのかについて掘り下げながら、彼のスタイルがどういう風に形成されていったのかについて迫る。
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ーー自己紹介をお願い致します。フォトグラファーになった経緯など。

Tarek「ドイツの小さな町にある学校で、メディア・デザインを専攻し、3Dアニメーションについて学んでいました。それがフォトグラフィーを始めたきっかけです。3Dの風景を作り上げていく上で、レファレンスのため、実際に外に出て、光がどのように機能し、異なる物体の間をどのように反射し、色を映し出しているのかを観察していました。このように色を読むというのは3Dアニメーションにとって欠かせない要素です。そこからのめり込んで行きました。
大抵3Dアニメーションをする際、コンピュータの前に座ることが多いですよね?それはもううんざりだと思い、同僚のFriedrich van Schoorとともに3hundという会社を設立。外での時間を増やし、プロジェクションマッピングや3Dアニメーションに着手しました。プロジェクションマッピングを用いたユニークな作品“Bioluminescent Forest”や“Lucid”は多くの反響を呼び、バイラルヒット。それらの作品では、プロジェクターやジェネレーターを森の中で映し出し、オーガニックマッシュルームなどの物体にライトを当て、アバターのような世界観を創り上げていました。その後、ライトインスタレーションに焦点を当て、クリエイティヴな発想をシンプルな技法を用いて実現しようと試みました。例えば、IKEAのランプやシンプルなLEDライトの光を当て、物体や風景に反射させたりするなど。
そして去年から独立して、本格的にフォトグラフィーに集中するようになりました。それは様々な方面を追求していたことを強みにここ数年間で培ったノウハウや経験をフォトグラフィーに落とし込んでいきたいと思ったからです」

ーーどのようなプロセスを経て、現在のスタイルに至ったのかお聞かせください。

Tarek「最初はドキュメンタリーフォトグラフィーを撮っていました。空間や光の使い方などといった自分が磨き上げた技術を駆使しているという面に関しては、それが常に私のスタイルの一部として定着していました。ですが、去年からよりアーティスティックな工夫を加えようと、プロジェクションマッピングとライトインスタレーションで培った技術を応用し、それをアナログフォトグラフィーと組み合わせた作品を撮るようになりました。プロジェクションマッピングは一種のデジタルメディアであり、私はそこまでデジタルで撮りたいわけでもなかったので、バランスを心がけました。これらの組み合わせで撮る人はほとんどいないと思ったので、プロジェクションマッピングの強みを最大限に活かしながら、アナログフィルムと組み合わせてユニークな作品を創り出そうと思いました。フォトショップで編集したでしょと言われたら“ほら、このネガフィルムを見て。本物でしょ”と証拠を見せつけれますしね」

ーーインスピレーション源はどこから湧いてきますか。

Tarek「私のスタイルはフィルムやミュージックビデオのようなムーヴメントがあるものからとてもインスパイアされています」


NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara




NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara



ーー作品をクリエイトする際、どのようなプロセスを踏んでいますか。

Tarek「時に、イメージが自分の中にあり、その写真でいこうという風になります。その意味合いや目的を考えずに、自分の直感に従い、自然な流れで創り出していきます。コンセプトを考え込むこともありますが、普段は自分が感じていることやその場の感情にしたがって、創造していきます。そのため、イメージを思い描くために、わざとその状態になるよう自分を追い込むこともあります。コンセプトを描く際には、自分の世界に入り込み、いろんなことを試してみます。撮影でも同じく。自然とそういう風になります。時には撮影時までイメージが沸かないこともあるので、アーティスティックなアプローチとよりオープンで実験に対して寛容であるよう心がけています。時には、正反対の時もありますが」

ーー現代の流れに影響されることはありますか。また、どういう風にトレンドと自身のスタイルのバランスをとっていますか。

Tarek「トレンドに影響されているとは思いません。なぜなら、トレンドは一時的なものであり、私はタイムレスなものを創り出したいからです。50年経っても、素晴らしい作品で、素晴らしいアイデアだと言えるようなものを。一つトレンドに従うとしたら、スタイリングですね。スタイルは常に変化を遂げており、私はタイムレスなスタイルを追求しているので、1960年代、1970年代、1980年代のスタイルからたくさんインスパイアされています」

ーー撮影の際、ライティングなどこだわっている点がありましたら、教えてください。

Tarek「一番大事なのはライティングのセッティングだと思います。良いムードを醸し出すにも。毎回、これは私にとって重要かつ楽しい過程であり、ライティングでイメージが全て決まります。綺麗な写真を撮ろうとしているのではなく、アーティスティックな工夫を加えたいのです。プロジェクションマッピングでは、異なる色を選択したり、モデルの顔に映し出したり、特定の場所に照らしたり(ある特定の部分に光を発したり)することができます。なので、これはとても大事な過程です。オーケストラの全ての楽器が一つになるようなイメージで、フォトグラフィーのテクニックで可能性を模索しています」


NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara



ーーロケーションの選び方でこだわっている点は何でしょうか。

Tarek「ジョギングやサイクリングをする際に、ロケーションを探しによく行きます。時には、ホワイトの背景のみの場合も。メインのイメージに焦点を当てながら異なる形や色を試行錯誤しながら、重ね合わせたりして結果がどのようになるのか実験します」

ーーロケーションを決める際、その背景と服の色合いも考慮した上で決めているのでしょうか。

Tarek「時と場合によりますね。もし、服装と背景を同じ色合いで統一したいと思ったらそうします。ですが、多くの場合、シンプルなスタジオや外の綺麗な背景で撮影します。デザインなどがない無地な背景で。同じロケーションを見てきているので、よりシンプルで洗練された場所を選びます」

ーーSocial isolation(外出自粛)の期間が長引いていた中、自身のクリエーションに対する捉え方などに変化はありましたか。

Tarek「30平方メートルのアパートメントの部屋で自分のスタジオを組み立て、プロジェクターを設置しました。様々なことを試し、家にあるもので実際に使えるものは何か再確認していました。また、新たなイメージを創り出すためにネガフィルムを切って貼り合わせるという作業もしていました。それはとても自分にとってためになる作業でした。新しいことに挑戦するというモチベーションにもつながり、全力を尽くすことができました。あとは、クリエイティヴツールとしてスキャンナーを用い、コラージュを作ったり、液体をネガフィルムに乗せるなど異なる資材を使ってみたり。私の親友でルームメイトのモデル Hanna Goldfischは発想力がとても豊かなので、外出自粛中は共にクリエイティヴなコンセプトを創り上げていました。よくイメージを創り上げるのに、巨大なカメラや高度なテクニックを用いる必要があると思われがちですが、そうではありません。なので、シンプルな道具を駆使し、狭い空間の中、同じ仕事量で同じ完成度になるよう心がけています。とても大変ではありますが、そうすることが好きです。なぜなら私は挑戦するのが好きなので。50人アシスタントがいればもちろん素晴らしい作品は作れますが、挑戦意欲は湧きません」

ーーご自身のフォトグラフィーにおいて“実験”が全てであるということですね。

Tarek「私は実験をするのがすごい好きで、時間を取り、幾度となく繰り返されてきた実験が私のフォトグラフィーの基盤を形成しています。例えば、ホイルをネガフィルムの間に挟み、色を変えたり。普段、ありのままの完璧な状態をカメラで収めたいので、普段はコラージュやネガフィルムを組み合わせたり、色相・彩度を少し調整する以外は編集やリタッチはしません。その時の最高な瞬間を私が一番わかっているのでそのままカメラで捉えたいのです」


NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara




NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara



ーー今後、新たにチャレンジしてみたいことはありますか。

Tarek「とてもわざとらしく聞こえるかもしれませんが、私のゴールはフォトグラフィーの世界でユニークな作品を届けていくことです。ギャラリーで作品を展示した際、人々が私の作品であることを認識できるよう。
キャンペーンの撮り下ろしをした際に、人々が“彼自身のスタイルが反映されているキャンペーンで、それ自体が彼のフォトグラフィー”と反応してくれたらとても嬉しいですね。そうでなければ、フォトグラフィーを稼ぎにしているそこら辺のフォトグラファーの一人にすぎないから。私はただアートを創りたいのです。目標は毎日挑戦に挑むこと」

ーーこの事態が収束した後、これからどのようにファッションフォトグラフィーは変化していくとお考えですか。

Tarek「ファッションフォトグラフィーにおいて求められるものが徐々に変化してくると思います。最近は、より多様性を尊重する環境づくりが促進されているものの、これはただの始まりに過ぎない。私は、美しさの標準とされている若い綺麗なモデルより様々な特徴を持った幅広い年齢層のモデルを採用して欲しいです。
未来について、どうなるかは予測できないものの、格差の無い“真”の多様性の実現を願います。いまだに多くのブランドは多様性の問題について軽視している部分があるので、その価値観に変化がもたらされるのを願っています。



NeoL Magazine JP | Photo: Tarek Mawad Text: Mayu Uchida | Edit: Ryoko Kuwahara



Fashion Photographer: Tarek Mawad
IG @tarekmawad
HP tarekmawadphoto.com


Text: Mayu Uchida

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