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「演技をしながら、これまで感じたことのなかった自由を感じた」ホン・サンス監督作『あなたの顔の前に』イ・ヘヨンインタビュー





2022年ベルリン国際映画祭で、長編27作目の最新作『小説家の映画(仮題)』が銀熊賞(審査員大賞)を受賞し、3年連続銀熊賞受賞の快挙を果たしたホン・サンス監督。ポン・ジュノ監督、パク・チャヌク監督など世界を席巻する韓国映画界でひときわユニークな映画作家として、揺るぎない国際的評価を築き上げてきた。そんな名匠ホン・サンス監督の『逃げた女』に続く待望の新作2本『イントロダクション』と『あなたの顔の前に』が、遂に6月24日(金)に日本公開を迎える。
2021年カンヌ国際映画祭プレミア部門招待作となる『あなたの顔の前に』は、長いアメリカ暮らしから突如、韓国に帰国した元俳優サンオクが過ごす一日の出来事を通して、一人の中年女性の心の深淵に迫ったホン監督の新境地がうかがえるドラマ作品。「ホン・サンスの最も感動的な作品の一つ」と評され、監督の公私にわたるパートナーのキム・ミニがプロダクション・マネージャーを務めたことでも話題の一作となる。
本作でホン・サンス作品へ初出演にして主演を飾った40年のキャリアを誇る大女優イ・ヘヨンが、監督との初めての出会いや、本作への出演に至るまでの裏話、監督の驚くべき演出方法など、貴重なエピソードを語ったインタビューが到着。イ・ヘヨンは、1960年代に韓国映画界に多大なる影響を与えた巨匠イ・マンヒ監督の娘にして、多数の演劇、ドラマの他、巨匠イム・グォンテクをはじめ錚々たる映画監督たちの作品に出演。ミステリアスで複雑な主人公を見事に体現した本作での圧巻のパフォーマンスで、2022年に国際シネフィル協会賞の最優秀女優賞、第58回百想芸術大賞の女性最優秀演技賞(映画部門)を見事受賞。ホン監督の最新作『小説家の映画(仮題)』でも主演を務め、新たなホン・サンス作品の“顔”として世界にその実力を証明した。以下、イ・ヘヨンのインタビューを送る。



ーーホン・サンス監督の映画に出演した理由は?


イ・ヘヨン「とてもシンプルでした。ホン監督からテキストメッセージが届いたんです。『映画を作っているホン・サンスです』って。わたしはこう返しました。『準備はできています。お会いしましょ』。そんなふうにして映画を撮り始めました。なぜわたしにこの役を、とか、たずねたりはしなかったし、そんなことには興味なかった。ただ監督にお会いしたかったし、お友達になって、いっしょにお酒を飲みたかった。残念ながら、ホン監督はお酒をやめていらしたから飲めなかったけど、彼の映画や、映画の撮影に、わたしはすっかり魅了されました」





ーーホン・サンス監督は撮影もユニークですね。撮影当日にその日の脚本を受け取って、その場で演じるとか。そんな撮影の仕方にとまどいませんでしたか?


イ・ヘヨン「ありえません! ホン監督の映画の撮影を通して、わたしは『これが俳優』と言えそうな立ち位置をついに見つけたと感じました。撮影初日のことは今も鮮明に覚えています。40年間の私のキャリアの中で、嘘っぽい演技を一度もしなかったと思えたのはそれが初めてだった。ホン監督と仕事しながら『これまでのわたしの演技ってみんな嘘だったのだろうか?』と思いました。彼との仕事は新しい発見の連続だったし、それぞれの場面に熱意を持って入りこむことができたと思います。演技をしながら、これまで感じたことのなかった自由を感じました」


ーー40年のキャリアを持つベテランがその演技を通して「初めて感じた自由」とは、どのようなものでしょう?


イ・ヘヨン「ホン監督にはA4サイズの台本を一部、毎日その場で渡されました。撮影が終わったら台本は回収されるんです(笑)。わたしはアントン・チェーホフの大ファンですが、ホン監督の台本はチェーホフを思わせるようでした。よくある映画の台本は具体的です。わかりやすく描写してあって、絵コンテにちょっとした顔の表情まで描かれている。そんな台本を見ると、それに囚われて、台本に忠実に演技しなくてはならないと思ってしまいます。でも、ホン・サンスの台本にはそんな『落とし穴』がなかった。撮影の日に台本を受け取って、その場でただ演技すればいい。翌日の演技に気を散らすこともないし、ストレスを感じなくていい。メイクしないでそのままセットに来て、と言われて、朝起きて、顔を洗ってセットに行けばそれでよかったんです。その日の環境の中でただ演じるだけ。そんな仕事のしかたはとても興味深かったし、信じられないほど自由でした」





ーーこの映画の仕事で初めてホン・サンス監督と会ったのですか?


イ・ヘヨン「わたしの父、イ・マンヒが70年代半ばに亡くなったあと、ホン・サンス監督のお母様のチョン・オクスクさんにお会いしたのが始まりです。彼女は父の1968年の映画『休日』のプロデューサーでした。ホン監督とはチョン・オクスクさんの葬儀で2015年に初めてお会いして。正直に言うと、2015年までホン監督の映画は観たことがなかったんです(笑)。テレビで目にした彼の映画は、さりげなくて、現実っぽくて、だから不親切だと思っていました。誠実でない、と思うほどに。わたしには「映画のファンタジー」こそが、リアルだった。だからホン監督の映画のリアリティは、わたしにとってはリアルではなかったんです。


ーーでは、リアルでなかったホン・サンス監督の映画に主演したことは、あまり映画的な体験ではなかったと?


イ・ヘヨン「わたしはホン監督にちょっぴり嫉妬していたんでしょう(笑)。メッセージを受け取ったあと、ホン監督の映画を観はじめて、びっくりしました。『みんなが知っている天才に今ごろになって出会うなんて、わたしくらいだ』と思いました。彼の映画をみんなまとめて観ながら感激しました。昔みたいにまたドキドキしながら気持ちをたかぶらせて、毎日、夜通し眠らずに映画を観続けました」





ーー『あなたの顔の前に』の他にも、2021年には韓国で『アンカー』と『ハッピーニューイヤー』と公開作が続きました。「イ・へヨン映画の時代」の再来を楽しみに待っても良いですか。


イ・ヘヨン「調子のいいことはいつも聞かされています。『この映画の、この役はあなたにしかできない。あなただけが演じられる!』(笑)。わたしにとって新作映画を選ぶということは、俳優イ・へヨンにふさわしいイメージをわたしが思い描ける役を探している過程か、すでにそれを見つけて、もう探すのをやめた時でしょう」


ーー近頃では海外の映画ファンたちが韓国映画や、韓国の俳優に興味を持つようになりました。『あなたの顔の前に』は「俳優イ・へヨン」を海外の映画ファンに売り込む良い機会ですね。


イ・ヘヨン「ポン・ジュノ監督と俳優のユン・ヨジュンさんは韓国の映画産業にとって、とても大事な仕事をしたと思います。お二人ともデビュー以来、素晴らしい仕事を積み重ねてこられた世界的な映画人です。これからは、さらに多くの韓国のフィルムメイカーや俳優たちが世界を舞台に活躍するでしょう。『あなたの顔の前に』も海外でたくさんの方に観ていただきたいです」


text Park Hyeeun(text from Kofic KoBiz)




『あなたの顔の前に』
2022年6月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開


【STORY】長いアメリカ暮らしから突然、妹ジョンオクの元を訪ねて韓国へ帰国した元俳優のサンオク。母親が亡くなって以来、久しぶりに家族と再会を果たすが、帰国の理由を妹には明らかにしない。彼女に出演オファーを申し出る映画監督との約束を控えていたが、その内面には深い葛藤が渦巻いていた。サンオクはなぜ自分が捨てたはずの母国に戻り、思い出の地を訪ね歩くのか?捨て去った過去や後悔と向き合いながら、かけがえのない心のよりどころを見出していく、たった一日の出来事が描かれていく。


【公式サイト】:http://mimosafilms.com/hongsangsoo/
監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:イ・ヘヨン、チョ・ユニ、クォン・ヘヒョ、シン・ソクホ、キム・セビョク、ハ・ソングク、ソ・ヨンファ、イ・ユンミ、カン・イソ、キム・シハ
2021年/韓国/韓国語/85分/カラー/1.78:1/モノラル
原題:당신 얼굴 앞에서 英題:In Front of Your Face 字幕:根本理恵 配給:ミモザフィルムズ
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イ・ヘヨン(Lee Hyeyoung)
1962年11月25日、韓国、ソウル特別市生まれ。父は、『黒髪』(64)、『晩秋』(66)など1960年代の韓国映画に多大なる影響を与えた巨匠イ・マンヒ監督。1981年、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」で俳優としてデビュー。その後、多数の演劇作品に出演。テレビドラマでは『ごめん、愛してる』(04)、『花より男子』(08)、『私の心が聞こえる?』(11)、『無法弁護士~最高のパートナー』(18)などに出演。1982年に映画デビューを果たし、イム・グォンテク、チョン・ジヨン、チャン・ソヌ、イ・ジャンホ、ソン・キュンシクなど1980年代の韓国を代表する監督たちの作品に出演してきた。その他にも、チャン・ソヌ監督『成功時代』(90)、青龍映画祭助演女優賞を受賞した『ミョンジャ・明子・ソーニャ』(92/ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭)、リュ・スンワン監督『血も涙もなく』(02)、ユン・イノ監督『ザ・ゲーム』(08)など出演作多数。本作『あなたの顔の前に』で初めてホン・サンス監督作品に出演し主演を飾り、2022年国際シネフィル協会賞主演女優賞、2022年百想芸術大賞で女性最優秀演技賞(映画部門)を見事受賞した。最新作『小説家の映画(仮題)』(22)でも主人公の小説家を演じている。

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