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「永遠に繰り返す楽しい日常」からの脱出。鬼才・押井守が描く新しい『うる星やつら』




『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』は高橋留美子原作の漫画『うる星やつら』の劇場版アニメ第2弾。監督は『劇場版機動警察パトレイバー』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』など、独自の世界観で物語を再定義することに定評のあるアニメーション界の鬼才・押井守。


諸星あたるとあたるを愛する異星人、ラムの通う友引高校は学園祭の前日。あたる達の教室は同級生・メガネ発案の「純喫茶 第三帝国」の準備に大忙し。連日連夜の泊まり込みを愚痴る同級生・しのぶに、ラムは「毎日キャンプみたいでウチ楽しっちゃ」と答える。


一方で、あたるたちに振り回される高校教員、温泉マークの精神は限界に達していた。保健医のサクラから薬をもらい、家に帰る温泉マーク。薬の渡し間違いに気づいたサクラが向かった温泉マークの部屋は尋常でないほどのカビに覆われていた。カビの中から救出された温泉マークはサクラに問いかける。「昨日も一昨日も、いや、それ以前から、わたしらは学園祭前日という同じ一日の同じドタバタをくり返えしとるんじゃなかろうかと……」。妄想だと即座に否定するサクラ。しかし、その周りでは学園祭が行われる冬には聞こえるはずのない蝉の声が響いていた……。


今回と同様に監督を務めた、劇場版1作目『うる星やつら オンリー・ユー』では自分の意見を通せず後悔した押井が、その「リターンマッチ」として望んだという本作。それゆえ「押井節」が全面に出ており、メディアミックスで展開されてきたうる星やつらシリーズの中でも異色作となっている。日常系作品に共通する「永遠に続く楽しい日常」と言うお約束をある種のディストピアであるかのように描き、ラムとあたるの関係性の核心を明らかにしてしまうなど、原作者である高橋留美子でさえ「『ビューティフル・ドリーマー』は)押井さんの『うる星やつら』です。」と釘を刺したほどだ。


しかし、うる星やつらの世界観を逆手に取ったストーリーと、美しくもどこか不安を煽る映像美から、本作を今なおSF映画の傑作として推す声も多い。以後の作品に与えた影響も大きく、実際にSF作家の笹本祐一や演出家の堤幸彦をはじめ、数多くのクリエイターが影響を受けたと公言している。


ある意味、「うる星やつら」を全く知らなくても十分に楽しめる本作。原作者の意向はどうあれ、見ておくべき作品なのは間違いない。


うる星やつら2 ビューティフルドリーマー
監督:押井守
1984年公開

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