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text by Ryoko Kuwahara

マンソン・ファミリーの女性メンバーが辿った洗脳とその後を、『アメリカン・サイコ』の女性監督と女性脚本家タッグが描いた『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』




1969年8月にハリウッドを震撼させた<シャロン・テート/ラビアンカ夫妻殺害事件>を起こしたカルト集団の首領チャールズ・マンソンとその配下であるファミリーを描いた『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』のBlu-rayとDVDが2020年1月8日に発売される。
1969年8月9日未明、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)で知られる鬼才ロマン・ポランスキー監督の夫人であり女優のシャロン・テートが妊娠八か月の体をズタズタに切り裂かれ、ハリウッドの自宅で友人4人とともに惨殺された。玄関のドアにはテートの血液で“Pig”(ブタ)の文字が残され、5人の死体の合計の刺し傷は102を数えた。翌日にはロサンゼルスに住むラビアンカ夫妻が残忍な手口で殺害され、現場には血で書かれた“Death to pigs”(ブタに死を)“Healter Skelter”( 綴りを間違えてしまっている)の文字が。1969年末に逮捕されたのはチャールズ・マンソンとその信者=ファミリー約20人。マンソンは自らをキリストの復活、悪魔とも称してコミューンを形成していたカルト集団の首領。ビートルズに心酔し、楽曲“ヘルター・スケルター”をもとにした独自の終末論を展開、やがて地球上に黒人が白人を皆殺しにする人種戦争が勃発、その間地底王国に身を潜めていたマンソン軍団が満を持して姿をあらわし、自身が世界の王となって黒人を自由自在に操るというもの。この人種戦争の決行が<ヘルター・スケルター>であり、ブラックパンサー党の仕業に見せかけ、くだんの事件で戦争を引き起こそうとしたという。その殺人の実行犯はマンソンに盲従する20歳前後の女たちを中心としたファミリーのメンバーだった。








アメリカでは誰もが知る歴史的事件であるため、過去にはマンソンの裁判の模様を描いた『ヘルター・スケルター』(1976年)、ファミリーと殺人事件を現代とミックスさせた『チャールズ・マンソン』(2003年)のほか、マンソン・ファミリーを題材にしたテレビシリーズ『アクエリアス 刑事サム・ホディアック』(2015年~)など、いままで数多くのマンソン映像作品が作られている。
2019年はこの凄惨な事件からちょうど50年となる節目の年であり、クエンティン・タランティーノ監督の話題作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も公開されるなど、マンソン・ファミリーとは一体何だったのか、そしてそれらを生み出した背景は何だったのか改めて注目が集まっている。








メアリー・ハロン監督と脚本のグィネヴィア・ターナーの『アメリカン・サイコ』(2000年)の女性コンビが生み出した『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』は、実際に起こったマンソン・ファミリーによる無差別連続殺人を題材に、女性メンバーがいかにしてマンソンと出会い、洗脳と狂信の果ての殺人、逮捕、収監という負のスパイラルに堕ちていったかを描いている。原作はエド・サンダースによる「ファミリー-シャロン・テート殺人事件」。平和的なヒッピー集団が戦闘的殺人結社と化するまでを綴った原作を基に、新たな視点を盛り込むために実行犯の一人であるレスリー・ヴァン・ホーテンの長きにわたる獄中生活の記録の要素も取り入れられた。








本作では、無差別殺人事件において3人の若い女性たち(レスリー、パトリシア、スーザン)が死刑宣告を受けたものの、その後カリフォルニア州で死刑が廃止となったことを受けて終身刑となり、大学院に通うカーリーンが教育係として刑務所に派遣されたところからスタートする。カーリーンを通して、3人がいかにしてマンソンと出会ったか、ファミリー内の人間関係から生活ぶりなど、ファミリー形成の過程を深く理解できる内容となっている。そこで丁寧に描かれるのは、現在でも多く起こっている“洗脳”の軌跡。女性たちは、これまでの生活や人格を「否定」され、その後に、コンプレックスや傷など全てを「肯定」されることでマンソンに心を惹かれていく。周囲から孤立した“理想郷”では聖書以外の読書は禁止され、名前も新たに授けられる。「名前」「知識」「思想」という、自らが何者であるかというアイデンティティを手放し、「家族」「友人」という絆を断たれたことで、彼女たちは極めてフルイドな存在となり、彼が描く「自由」や「理想」を自らも望むものとしていともたやすく同化していくのだ。DVや虐待などにも用いられるこの洗脳手段を本作で疑似体験することは、翻って、“自己”の脆さと強さを確認する作業として極めて有効に思える。それが今のこの不穏な時代に、マンソン事件が着目される理由ではないだろうか。








マンソン・ファミリー役には、TVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のジリ役ハンナ・マリー、ケヴィン・ベーコンの娘でTVドラマシリーズ「13の理由」のスカイ役ソシー・ベーコン、そして新鋭のマリアンヌ・レンドンが扮し、チャールズ・マンソンをイギリスTVシリーズ「ドクター・フー」や11代目のドクターで知られるマット・スミスが演じるなど、注目俳優の出演も見どころだ。


text Ryoko Kuwahara



『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』
Blu-ray&DVD 2020年1月8日 発売 R15 Blu-ray:KIXF-651|¥4,800+税|本編約110分|カラー|1080p Hi-Def|1層 音声:本編英語(DTS-HD Master Audio/5.1ch )|字幕:本編日本語 DVD:KIBF-1676|¥3,800+税|本編約110分|カラー|16:9LB|片面2層 音声:本編英語(ドルビーデジタル/5.1ch )|字幕:本編日本語
※ジャケットデザイン、仕様は変更となる場合がございます。





出演:ハンナ・マリー、ソシー・ベーコン、マリアンヌ・レンドン、メリット・ウェヴァー、スキ・ウォーターハウス、チェイス・クロフォード、アナベス・ギッシュ、ケイリー・カーター、グレイス・ ヴァン・ディーン、マット・スミス、ジェイムズ・トレヴェナ・ブラウン、ブライアン・エイドリアン
監督:メアリー・ハロン「I SHOT ANDY WARHOL」「アメリカン・サイコ」 製作総指揮:マイケル・ゲリン、エド・サンダース、デヴィッド・ヒラリー 製作:ダナ・ゲリン、シンディ・ライス、ジェレミー・ローゼン、ジョン・フランク・ローゼンブラム 原作:エド・サンダース(「ファミリー-シャロン・テート殺人事件」) 脚本:グィネヴィア・ターナー「アメリカン・サイコ」 音楽:キーガン・デウィット「ケイト・プレイズ・クリスティーン」 美術:ディンズ・ダニエルセン衣装:エリザベス・ウォーン 撮影:クリル・フォースバーグ編集:アンドリュー・ハフィッツ「BULLYブリー」
© 2018 SQUEAKY FILMS, LLC 発売・販売:キングレコード

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