NeoL

開く
text by Junnosuke Amai

「人々に痛みを伴いながら成長しているのは良いことなんだと伝えるため、そして皆が自分の感情を受け入れられるように曲にしたかった」Interview with Indigo De Souza about “Any Shape You Take”




9月にリリースされた2枚目のアルバム『Any Shape You Take』が好評を得ているインディゴ・デ・ソウザ。ヴィジュアル・アーティストだった母親の熱心な勧めで音楽を始め、いくつかの作品をへて、3年前に自主制作したデビュー・アルバム『I Love My Mom』で注目を浴びたノースカロライナ州アシュビルのシンガー・ソングライターだ。
ポップやネオ・ソウル、グランジ・ロックなどがスムースに溶け合ったサウンドは、そのアートワークが伝えるようにじつにカラフルで、時に毒々しくもサイケデリック。そして、彼女が歌うさまざまな感情の表現には、苦悩と喜びの間で引き裂かれるような揺らぎがあり、そのコントラストが大きな魅力となっている。“Real Pain”を包み込む絶叫にも似たコーラスの混沌、あるいは “Hold U”のMVに収められた、森の中の教会で踊るクィアたちの祝祭的なダンス・パーティーは鮮烈でとても印象的だ。そんな彼女のルーツ、音楽との出会い、アルバムについて話を聞いてみた。



――『Any Shape You Take』は2枚目のアルバムですが、今回の制作はどんな経験になりましたか。


Indigo De Souza「素晴らしい経験だった。すごくエモーショナルで、美しくて、カタルシスを感じる経験だったと思う。制作期間中は気持ちにも人生にも色々とアップダウンがあったから(笑)。今回は、以前よりも色々な楽器のパートを書くことがすごく自然にできた。とにかく自分の直感に従って、時間がかかったとしても自分のアイデアを形にしようと頑張った。アルバムに参加してくれているミュージシャンたちやプロデューサー、エンジニアからも作業を通して多くを学んだし、この作品は本当に努力が報われて出来上がった作品。アルバムが完成して、すごく興奮してる」


――制作中の出来事で印象に残っていることはありますか。


Indigo De Souza「どうだろう……今回は、Teenage EngineeringのOP-1っていうすごく小さなシンセを使ったんだけど、私はあのシンセに惚れ込んでしまって、自分用にもゲットしたくらいだった。今回のレコーディングで始めて使って、それがあまりにも楽しかったから」


――あなたの作品では、家族、とくに母親の存在が大きなモチーフの一つになっているように思います。母親はヴィジュアル・アーティストで、また父親はボサノヴァのギタリストだったそうですが、そうした環境に育ったことは、今の自分が作る音楽、アートに対する理解や姿勢にどんな影響を与えましたか。


Indigo De Souza「前回と今回のアルバム・カバーのアートワークを手がけてくれているのは私の母。私は母が大好き。自分の音楽にその環境が影響しているかどうかは私自身にはわからないけど、母が常に私がクリエイティブで芸術的でいられるよう、表現者としての私の背中を押してくれていることは確か。母のおかげでアートは常に私の一部だったし、母は私が音楽活動をしたいことがわかっていたから、大学へ行かなくてもいいとも言ってくれた。そのおかげで、曲を書き、さまざまな人々と演奏をすることができ、それが今の私を作っている。自分のゴールに向かうことに集中できているのは母のサポートのおかげだと思う」





――その母親の勧めで音楽を作り始めたのは9歳の時だったそうですね。


Indigo De Souza「ギターを9歳の時に始めて、11歳までには曲を書くようになっていた。フォークにインスパイアされた音楽っていうのが一番近いかな。当時はレジーナ・スペクターとか、ジャック・ジョンソンとか、ルシンダ・ウィリアムスを沢山聴いていたから。あと、南部に住んでいたからブルーグラスにも囲まれて育ったの。だから、ポップなフォークソングっぽいものをたくさん書いていたと思う」
 

――生まれ育ったスプルースパインは保守的な町だったそうですが、その後、高校時代に移住したアッシュビルは芸術にあふれる多様性に富んだ環境だったと聞きます。今作には“17”という曲もありますけど、そこで過ごした日々はあなたにとって非常に大きなものだったそうですが、その経験はあなたをどんな風に変えたと言えますか。


Indigo De Souza「私はこれまでの大部分をスプルースパインで過ごしたけど、あの街は私にはちょっと窮屈で、人々もあまり多くを受け入れない感じだった。その後、16歳の時にアッシュビルに引っ越したんだけど、母と暮らしていた家を出て、20代の姉と一緒に暮らし始めた。当時は母も祖父の看病があって家の中もいっぱいいっぱいだったし、私の音楽活動にも音楽コミュニティがあるアッシュビルの方がいいということで、その決断をした。それは大正解で、アッシュビルに引っ越してから私の全てが変わった。あの場所にはクリエイティブな人々がたくさんいるし、孤独を感じなかった。自分を表現していて、芸術的なゴールを持っている人たちばかりだったから。あと、たくさんのアンダーグラウンド・ミュージックを聴いている人たちに出会えたことも大きかったと思う。私にとっては新しかったし、それによって自分のソングライティングに対する視点が変化したから」





――“17”という曲はその時に書いたのですか。


Indigo De Souza「覚えてないんだ。すっごく前に書いた曲ではあるんだけど、あの曲を書いていた時の状況がどんな状況だったかは忘れちゃった(笑)。17歳の時、私は自分より年上の恋人と一緒に住むようになったんだけど、私にとってそれはすごく大きな転換期だった。その経験でたくさんのことを学んだから。その時の様子があの曲になったのかもしれない」


――その当時、多感だったティーンの頃のあなたにとって大事だった音楽、アーティスト、あるいはアートはどんなものでしたか。


Indigo De Souza「どうだったかな。私がティーンの頃から変わらずずっと好きなのは、アーサー・ラッセル。彼の作品は未だにリリースされているし、ジャンルを大きく超えていると思う。彼の全ての作品がスペシャルだと思うし、私にとっては一番コネクションを感じる作品が彼の作品なんだ」


――どうやって彼の音楽に出会ったのでしょうか。


Indigo De Souza「当時付き合っていた彼が聴いていたから。彼は本当にたくさんの音楽を私に聴かせてくれた。それは私の人生を変えたと思うし、私のソングライティングもそれで変わってきたと思う。彼も素晴らしいソングライターだったから、影響を受けたよ」





――今回の『Any Shape You Take』は、前作『I Love My Mom』と比べて音楽的にも大きな広がりを見せていますが、サウンド面でのアイデアやコンセプトについて教えてください。


Indigo De Souza「ロックとポップが混ざったようなサウンドを作りたいというのは頭の中にあったかもしれない。あと、ハッピーで生き生きとしながらも、どこか痛みやノスタルジックさを感じるようなサウンド。その二つの面の間をシフトするような作品を意識していたと思う。インスピレーションは、私自身の感情の景観。私自身が幸福と悲しみの間を行ったり来たりしているから、それを音楽で表現したかった」


――ブラッド・クック(ボン・イヴェール、スネイル・メイル)をエグゼクティヴ・プロデューサーに起用した理由は?


Indigo De Souza「ブラッドを選んだのは、電話でたくさんのプロデューサーと話したんだけど、彼のエナジーがすごくよかったから。彼は不屈の精神と強いパーソナリティを持ってるし、プロデューサーと一緒に作業をしても、彼とだったら自由に安らぎを感じながら作業が出来そうだと感じた。実際に彼は素晴らしかった。常に私を励ましてくれたし。彼に限らず、このレコードに参加してくれた全てのアーティストが最高だった。彼らと作品を作ることができて、すごく誇りに思っている」





――“Hold U”のMVでは熱狂的なダンス・パーティーのシーンが印象的です。パンデミック下の孤独や喪失感を振り払うようなポジティヴなメッセージが感じられましたが、この曲のバックグラウンドについて教えてください。


Indigo De Souza「シンプルな愛を閉じ込めたような曲を書きたかった。ロマンティックとかプラトニックなものじゃなくて、愛とは何かというコアの部分に触れたかった。誰かと出会って、その人の素晴らしさに気づき、その人々のことを大切に思うこと。人を愛すること、コニュニティの大切さ、お互いの存在の祝福は人生における大切な要素。それを表現したのが“Hold U”。」


――“Real Pain”では、悲しみの中で自分を慈しみ、愛することが歌われています。あなた自身にとって、音楽を作ったり表現活動をすることが、悲しみや痛みを克服するための対処療法になっている部分もありますか。


Indigo De Souza「この曲の歌詞を書いている時は、すごく興奮していた。あの曲の歌詞を書き始めたのは、痛みを乗り越え、それを受け入れて成長するということを学んだ直後だったから。人々に痛みを伴いながら成長しているのは良いことなんだというのを伝えるため、そして皆が自分の感情を受け入れられるように、そのことを曲にしたかった。そこで、ファンとリスナーの皆に叫びや何でも自分たちが好きなことを表現したボイスメモを送って欲しいとお願いした。それを使って、一つの流れを作ってみたんだ。すごく激しく聞こえるかもしれないけど、その中には大切な感情がたくさん詰まってる。作っていてカタルシスを感じることができた曲だったと思う。結果すごく美しいものが出来たと思うし、皆がこの曲を聴いて自分たちの気持ちを素直に受け入れられるようになることを願ってる」


――漠然とした質問になりますが、あなたが音楽を作る上で一番大事にしていることはなんですか。


Indigo De Souza「完全に正直であることと、自分の本当に思うことを伝えること。曲を書いている時は、自分のことしか考えていない。自分のためだけに曲を書いてる。そうすることで、自分にすごく正直になれている状態で曲が書けるから。他の人が聴くということは考えないで書くようにしている。アルバムは、そうやって出来上がった曲の中から私がリアルだと感じる曲が選ばれ、それが集められたコンピレーションみたいなもの。だから、曲を書いている時はそれがリリースされて人に聴かれるというプレッシャーはあまりない」





――“Die/Cry”では、「あなたの泣き顔を見るくらいなら死んだほうがマシ(I’d rather die than see you cry)」というフレーズが目を引きます。


Indigo De Souza「この曲を書いたのは、遠距離恋愛のことを考えていた時。誰かにずっと会えていなくて、何をしてでもその人に会いたいという気持ち。何時間かかろうが車を飛ばすとか。あともう一つは、自分が愛する人より長く生きるのと、愛する人が自分より長く生きるのはどちらがいいのかも考えたりしてた。考えても、どうせ自分で選べることではないんだけどね(笑)。その両方とも、考えただけで辛かった」


―― 一方、プロレスをテーマにした“Kill Me”のMVもユニークです。お尻でケーキを潰すパフォーマンスが強烈で。


Indigo De Souza「あのビデオ撮影はすごく楽しかった。どんどんグチャグチャに、ワイルドになっていくのが(笑)。ケーキをお尻で潰すシーンの時は、私が大好きなティルザの“Style”を大音量でガンガンかけてた(笑)。あのプロジェクトは本当に楽しかったし、すごくエキサイティングだったな。ケーキをお尻で潰すのは、撮影の前の日の夜に練習したんだ(笑)。自分のアパートの中で、いくつかケーキの上に座って、潰し方の動きを研究したり(笑)。あの曲を書いた時は、何も意識していなかった。書いた時のことさえ覚えてないくらい(笑)。あの曲を書いてる自分が映ったビデオを、曲を書いた一年後に見たんだけど、そのビデオを見るまで曲を書いていたことを忘れていた。あの時は、ダークで渦を巻くような恋愛をしていたんだと思う」





――現在はツアーの真っ最中だと思いますが、パンデミックがもたらした暗い状況にもわずかばかり光が射し始めたように感じられます。この先やりたいこと、新たに始めたいこと、何か展望があれば教えてください。


Indigo De Souza「バンドと一緒にツアーができるのはすごく楽しみ。私とバンド・メンバーの皆はまるでファミリーのような関係だから、一緒に時間を過ごすのが大好き。ツアーもだし、次のアルバムを作るのも楽しみ。もうすでにアルバムができるくらい沢山曲は揃っているから(笑)。この先やりたいことは、これからもずっと音楽を作り続けていくこと。それは変わらないと思う」


――新たに挑戦したいことはありますか。


Indigo De Souza「特にないかな。もっとキーボードを上手く弾けるようになることくらい」


text Junnosuke Amai



Indigo De Souza
『ANY SHAPE YOU TAKE』
Now on Sale
(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)
■収録曲目:
1. 17
2. Darker Than Death
3. Die/Cry
4. Pretty Pictures
5. Real Pain
6. Bad Dream
7. Late Night Crawler
8. Hold U
9. Way Out
10. Kill Me

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS