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text by Junnosuke Amai

「絆は深まったし、大人になった。そして、自分たちの個性を見つけ、それを通して全体を強くしていると思う」Interview with Warpaint about 『Radiate Like This』




ロサンゼルスの4人組、ウォーペイントが4作目となる最新アルバム『Radiate Like This』をリリースする。COVID‑19の影響を受けて、リモートでの作業を余儀なくされた今回のレコーディング。楽曲のベースとなるセッションはパンデミック以前に終えていたそうだが(※トム・ヨークやフランク・オーシャンを手がけるサム・ペッツ・ディヴィスが共同プロデュースを担当)、結果これまでとは全く異なる方法で制作された今作は、ライヴ・フィールが際立った近作と比べるとアンビエンスや内省的なムードが色濃く感じられるのが印象的だ。前作『Heads Up』から6年の間に、各メンバーはソロ・プロジェクトや客演などで精力的に活動し、またエミリー(Vo/G)は出産を経験。このけっして短くない、濃密な時間の経過は彼女たちにどんな影響や変化をもたらしたのか。バンドを代表してテレサ(Vo/G)がメール・インタヴューに答えてくれた。(→ in English)

――今回のアルバム『Radiate Like This』は、メンバーそれぞれが自身のパートを個別に録⾳し、それらをミックスして楽曲を完成させていく方法がとられたそうですね。初めての試みで大変なことが多かったと思いますが、逆に、その楽しさはどんなところにありましたか? 新たな発見や気づかされたことがあれば教えてください。


テレサ「幸い、私たちはパンデミックまでにいくらかレコーディングを終えていました。砂漠の中にある〈Rancho De La Luna〉というスタジオで制作をした後、ハイランド・パークの〈64 Sound〉というスタジオに入ったんです。1月の終わり頃にエミリーの出産もあって一度制作をストップしたんだけど、その後ですよね、パンデミックが起こって“全てが変わった”のは」


――現在のアルバムの形になるまでには、パンデミック前に一旦出来上がっていた楽曲に「構築と再構築」を加えるプロセスがあったそうですが、その過程におけるポイントはどんなところにあったのでしょうか? どのような変化を経て現在のアルバムの形になったのか興味があります。


テレサ「私たちはみんな別々の国・場所にいたから、リモートでアルバムを完成させないといけなかった。とても困難なことではあったけど、一方で普段はできない“個人的な”楽曲の探求に時間を充てることができました。エミリーはジョシュア・ツリーにいたから彼女と一緒に作業することができたけど、直接会って作業したのはそれだけでした。ミックス作業もリモートで挑戦したんです。でも、それはとても難しくて、結局(コロナの)状況が良くなってから誰かと一緒にミックスすることになりました。それらのプロセスを通じて最終的には良いものが仕上がったと思うけれど、二度とこの方法ではやりたくない! 一緒にいる方がずっと充実しています!」





――今回のアルバムを聴いて、ウォーペイントらしいドリーミーでムーディーなアンビエンスと、エレクトロニックなアレンジが有機的な形で融合しているところに強く惹かれました。改めて、今作の音楽的なアイデアやコンセプトについて教えてください。


テレサ「個別にデモがいくつかできあがっていて、色々付け足しながら制作に入っていきました。それが制作の最初の段階。それからスタジオ入りしてさらに付け足したり、いくつかのパートは作り直してみて。それが制作の二つ目の段階で、私たちの友達であり今回共同プロデュースしてくれたサムが加わった時期ですね。その後はパンデミックで一度止まって、制作途中のデモをじっくりアレンジしていました。ハーモニーやシンセ、ギターに関してはすごく細かいところまで重なりを意識して。完成したこともあれば、未完成のまま進んでいったこともありましたね」


――メンバー個々で、ソングライティングや音作りにおいて意識を置いた点、新たに試してみたアプローチ、機材などあれば教えてください。


テレサ「私は反対の関係にあるものを組み合わせることが好きなんです。どこか尖っていて、形にとらわれない私たちのことも好きなんだけど、それと同時に、自分たちのソフトでドリーミーな一面があるということも大好き。また、オーガニックなものをエレクトロニックな何かと組み合わせるのも好き。エレクトロニックなものがオーガニックに聴こえるようにするのも好きですね。こういった探求は私の創造性にインスピレーションを与えてくれるし燃料となるんです。
私はいつでも自分のソングライティングや音に対して、直接的にアプローチするよう意識しています。このアルバムでもそれを目指しました。エフェクトの後ろに隠れず、意図を持ってやることは気持ち良い。今回はギターの音色とヴォーカルをよりクリアにしてみました。その透明感がもたらす即効性と力強さが欲しかった」





――今作のブレイクスルーになった曲はどれですか? その制作の背景、その時掴んだ手応えも併せて教えていただければ。


テレサ「ブレイクスルーになった曲はたくさんあります。個人的に“Champion”は歌詞の面において大成功だったと思う。あと、“Hips”と“Stevie”はクラシックで抽象的な曲ができたという点で良かった。


“Champion”はある晩、私が部屋に一人でいた時に書き始めた曲。その時はただの遊びのつもり曲を書いたりものを作ったりしていて、次のアルバムについての具体的なことは何も考えていませんでした。何も考えなかったことが逆に新しいインスピレーションを生み出すきっかけになって。新しいアイデアをひらめく瞬間はとても幸せだし、私たちが常に書き続けるべき理由はまさにそのような瞬間があるからなんです」


――個人的に印象に残った曲について聞かせてください。まずは“Hips”。アブストラクトな電子音のビート、ジャジーなドラム、ループやヴォーカル・コーラスがミニマルで有機的なグルーヴを作り上げていて、個人的にフローティング・ポインツや、最近のレディオヘッドも連想しました。“Altar”にも似た印象を受けましたが、この曲はどんなインスピレーションから生まれたのでしょうか?


テレサ「レディオヘッドは直接的にインスピレーションを受けたわけではないけれど、あれほど世界的に名のあるバンドから影響を“全く受けない”ということはそうそうないですよね。でも、私たちが彼らを好きなのは、同じような本能を持っているからだと思います。“電子”と“生”の要素を掛け合わせることはとても心を満たしてくれる。そして何か特別なフィーリングを生み出す。そして、それは意図的な重なりのようにも見えるんだけど実はそうではないんです」


――“Proof”も不思議な曲です。打ち込みのトラックも交えたビートの上で、エフェクトをかけられたりループ状に加工されたヴォーカル、ブラス・アレンジに聞こえるような音が自在に舞い、けれどウォーペイントらしいムーディーなアンビエンスが全体のトーンを特徴付けている。この曲が生まれたプロセス、背景を教えてください。


テレサ「この曲はエミリーが始めました。ダウンタウンのリハーサル・スペースでコンピューターに取り込んでアレンジしたり付け加えたりして。その後、スタジオ・セッションでさらに録音し、さらにアレンジに磨きをかけました。エミリーと私はパンデミックの間、彼女の家でギターを仕上げ、彼女はヴォーカルを調整しました。私は彼女が作ったハーモニーが大好き。ジャジーでクールでピカイチなんです」


――“Send Nudes”でも、アコースティックな弾き語りとエレクトロニックなアレンジとが独特な折衷感覚でブレンドされています。単にジャンルレスという意味ではなく、楽曲によって同じ楽器でも音色やアレンジが異なり、多彩な表情を見せるところは今作に共通した魅力だと思います。その点も踏まえて、この曲が生まれた背景、インスピレーションとなったものを教えて欲しいです。


テレサ「この曲は私が家族と一緒にキャンプに行った際にギターで書きました。コードを捻り出しながら意味のない言葉を歌っていて。誰かがカップのヌードル(麺)を食べていて、そこから“カップル、ヌード (couple nudes)”って言葉に変わって、最終的に“センド、カップル、ヌード (send a couple nudes)”になりました。その(フレーズに込めた)想いは、愛する人を手放すこと。そして自分を探究し、自分らしく生き、共有する愛を信じようという歌になったんです。
『冒険してください、でもあなたの思い出を私に送ってほしい。そうすればあなたが私たちの間にあるものを忘れないと思うから』。そんなことを歌っています。


最初のギターとボーカルを録音した後、シンセのパートを重ね始めました。そしたらそれが物凄く合っているように感じて。曲のコアとなる部分よりもずっとオーガニックではない音だったけど、それがとてもしっくりきたんです。
それからジェニー(・リー、リンドバーグ、Vo/B)がベースを加えていきました。彼女は少しふざけた感じで。私はヴァース(サビ以外のAメロやBメロなどを指す)の部分は緩く、サビはソリッドにするのが好きでした。あと、そこにはサックスも遊びで少し入っています!」


――ありきたりな質問で恐縮ですが、今作の曲作りに良い影響や刺激を与えてくれた音楽、インスピレーションとなったレコード、単純に曲作りやレコーディング中によく聴いていたもの、個人的にハマっていた音楽など教えてもらえると嬉しいです。


テレサ「作曲プロセスはとても長かったんです。だから影響を受けたものを一つに絞るのは難しいですね。私たちはいつも様々なものから同時に複数の要素を引っ張り出すんです。曲を作った後に、それがある種の要素を持っていることに気づいて、それからそこに傾倒していくという感じ。でも全ての曲は全然違うから、インスピレーションは一つではない。そんなの(=影響源が一つ)ウォーペイントらしくない!」





――今作はウォーペイントして6年ぶりのアルバムになります。この間、メンバー個々にミュージシャンとして、あるいはプライベートの上でも様々な出来事や変化を経験されてきたと思います。アルバムを完成させたいま、この6年という時間の長さ、重みについてはどう捉えていますか?


テレサ「実際にはコロナで2年間は“失った”ようなものだから、4年ぶりが正しいかな。普段はアルバムをリリースして3年ほどツアーをして、それから作曲モードへと移るんです。当然ながら今回はたくさんの変化を経験しました。エミリーは母親になったしね。メンバーは皆違う街に住んでいるし、それぞれの人生において何を求めるのかという考えも持ち始めている。再び一緒に音楽を作って演奏できるのはとても嬉しいです。私たちが大好きでやまないものが何なのかを再認識できるし、これからも前に進んでいかないとと思えるから」


――端的にいって、この6年間という時間、その中での個々の経験は、ウォーペイントをどう変化させたと言えると思いますか?


テレサ「もっと良い人間になったと思います。絆は深まったし、大人になった。そして、自分たちの個性を見つけ、それを通して全体を強くしていると思う。ウォーペイントであることは、これまで以上に素晴らしいことだと感じています」


――この6年という時間が、今作の歌詞のテーマや、作品の背景にあるストーリーに与えた影響について教えてください。


テレサ「これまで以上に歌詞に時間をかけました。直感的かつ遠くまで届くことを意識して。私はバンドとしてもっと普遍的な魅力を持ちたいと思っています。同時に、新しい表現方法を探りながら抽象的になりすぎないようにしたい。そうして、シンプルでありながら、意味の中心と繋がっていたい」


――『Radiate Like This』というタイトルはどう経緯でつけられたのですか? このフレーズはあなた達のどんなモードやフィーリングを反映したものなのでしょうか?


テレサ「これは“Melting”という曲の歌詞から取りました。タイトルは存在感を示しつつ、個人に開かれたものである方が良いと思って。思考はオープンなままにね。
ウォーペイントにとって、このタイトルは私たちがみんなに見られる準備ができたということ、そしてこれまでにはない輝き方をするという想いを映し出していると思います」


Text Junnosuke Amai



Warpaint
『Radiate Like This』
2022年5月6日(金) 発売
再生/購入リンク:https://virginmusic.lnk.to/RadiateLikeThisPR

1. Champion
2. Hips
3. Hard To Tell You
4. Stevie
5. Like Sweetness
6. Trouble
7. Proof
8. Altar
9. Melting
10. Send Nudes


Warpaint
米ロサンゼルス出身の4人組女性アートロック・バンド。2009年に自主制作のEP『Exquisite Corpse』を発表し、大きな話題となり、英名門レーベル<Rough Trade>と契約。2010年にデビュー・アルバム『The Fool』をリリースし、2011年にフジロックで初来日。2014年にはセルフ・タイトルの2ndアルバム『Warpaint』をリリースした。2016年には3rdアルバムとなる『Heads Up』をリリースし、初のジャパン・ツアーを開催。2018年にはハリー・スタイルズの来日公演のスペシャル・ゲストとしと再来日。2022年5月、6年ぶりとなる待望の4thアルバム『Radiate Like This』をリリースする。
メンバーはEmily Kokal(ギター、ボーカル)、Jenny Lee Lindberg(ベース、ボーカル)、Stella Mozgawa(ドラム、ボーカル)、Theresa Wayman(ギター、ボーカル)

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