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text by Aki Yamamoto

Interview with Shygirl about “Nymph”




ロンドンを拠点に活動するシンガー/ラッパー/DJのShygirl。ラップやポップスからレフトフィールドなダンスミュージックまでを取り入れた色鮮やかな楽曲で知られる彼女は、その独自のポップセンスと煌びやかな存在感から、今やLady GagaとBLACKPINKによるシングルのリミックスを手がけるなど、活動の幅を大きく拡大している。昨年リリースされた初のフルアルバム『Nymph』では主宰するコレクティブ「NUXXE」のSega Bodegaをはじめ、ArcaやMura Masaらと共に幻想的で不穏ながらロマンチックな世界を、彼女ならではのキャッチーさでまとめ上げていた。ここでは来日中の彼女に、自身のクリエイティビティの核となる感覚や『Nymph』の制作過程、ディーバとしてのアイデンティティを確立するに至るまでの道のりについて話を訊くことが出来た。


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――昨年リリースされた『Nymph』はあなたにとって初のフルレングスアルバムということもあり、キャリアにおいても重要なポイントになったかと思います。リリースからやや時間が経ちましたが、リリース後の反応を振り返って、現在の心境はいかがですか?


Shygirl「1月と2月はアルバムの世界からちょっと距離を置いた期間だったから、制作時ほどアルバムのことを考えてはいなくて。今は、皆がそれぞれ自由に作品を受け取り、反応してもらって、そのフィードバックを自分自身でどう整理するか、それについて考えてみたいと思ってる。アルバムって自分で作るものだけど、リリースすると自分の元から離れて行ってしまうから面白いよね。そして、そのプロセスを通して、まるで自分が外からアルバムを見ているような感覚になる。『Nymph』は、私があの作品を作っていたときに感じたことがそのまま形になっている。まだあのアルバムが自分にとってどんな作品なのか明確な答えは出ていないけど、今は、その情報を集めている感じ。そして、それによって違う視点を得る、という時期なんじゃないかな。私自身はこれも制作の一部だと思っているから、そのプロセスを楽しんでいる。アルバムをリリースすることで、私と他の人たちの間で会話が始まった、みたいな感じ」


――『Nymph』ではあなたのパーソナルな恋愛関係やセクシャルなトピックが非常にオープンな形で歌われていますが、そのようなトピックをアルバムの大きなテーマに据えた理由は何ですか?


Shygirl「女性としての恋愛やセクシュアリティは、自分自身で作り上げる前に、本質的に自分のアイデンティティの中に組み込まれているものだと思う。女性に関する典型的な話は外部が作り、そこから派生するもの。だから私にとっては、成長する過程で、女性に対するステレオタイプに違和感を覚えることがあった。若いうちは、女性であることの意味や、自分がどんなタイプの女性なのか、よくわからないと思う。そして、いざ自分が歳を重ねて女性になったとき、そのうちどれくらいが自分の選択によるもので、どれくらいが他者のステレオタイプによるものなのかに気づく。私が『Nymph』で表現したかったのは、私たちが存在するずっと前から女性に対するステレオタイプは存在していたけれど、男性の視線を通してだけでなく、自分自身をどう見るか、そういう考え方にしがみつくことが大切だということ。そうすることで、人間らしい何かが生まれてくる。私自身も自分が何者であるのかを旅の中で発見したいんだと思う。そして、私にとってはそれを音楽を使いながら行うことが理にかなっている。自分自身と調和し、それを音楽で表現することで人にも影響を与えることができるなんて素晴らしいことだよね」





――『Nymph』の制作期間中に触れた音楽やアートで、あなたにインスピレーションを与えたものはありますか?また、それらから受けた影響は作品にどのようにフィードバックされていますか?


Shygirl「今回は、私が14、15歳のときにインスパイアされていた視覚的な世界やストーリーに引き寄せられていて。例えば、『ダーバヴィル家のテス』とか。ロマンチシズムだったり、愛に対する残忍なアプローチだったり、そして愛の無駄遣いだったり、トーマス・ハーディの作品や世界観にはすごく惹かれた。ロマンティックな表現の中にも、現実的な部分が描かれている部分にね。曲を作っていると、たまに少し華美な表現をしてしまうこともあるから、そこにいくつか現実的な要素を何らかの形で追加する必要があるんだよね。今まではちょっと虚勢を張っていたと思うけど、今回は私が感受性が豊かな人間であること、繊細な人間であることを素直に表現したいと思った。そして、そんな自分を認めることが自信につながるんだっていうことを。だから今回は最初から人に理解してもらおうとは思わずに、ただアルバムを作っていること自体に誇りを持ちたかった。そしてその結果、人々がその部分を理解してくれて、良い反応をもらうことが出来たんだと思うんだよね」


――『Nymph』にはこれまで共に制作を行ってきたSega Bodegaをはじめ、arca、Mura Masa、Vegyn、BloodPopなど様々なプロデューサーがクレジットされています。彼らとはどのようなやりとりを重ねて楽曲を作っていったのでしょうか?


Shygirl「彼らとは全員友達なんだ。彼らに出会えて、友達になれたことは本当にラッキーだったと思う。自分以外の人と作業することで、歌詞を考える時に、自分の世界だけにとらわれず、外の世界と同じような環境を作り出すことができる。そしてそれは、自分のメッセージを増幅させるのに役立つから。今回のアルバムでは50/50のコラボというより私の方向性のアイデアがしっかり決まっているものもあったから、彼らがそのプロセスをしっかりと信頼してくれていることがすごく大切だったんだよね。私は技術的な音楽の訓練を受けていないから、感情的に自分を理解してくれる人々と仕事をすることが必要だった。でも、相手が彼らだったからこそ、色々なことを実験できた。そんな風に一緒に働く仲間がいるのって最高だと思う」





――あなたの楽曲にはラップやポップスからテクノ、レゲトン、デコンストラクテッド・クラブまで様々な音楽が内包されています。音楽に惹かれた原体験はどのようなものだったのでしょうか?また、今のあなたの折衷的なスタイルはどのようにして形成されたのでしょうか?


Shygirl「ロンドンはとにかく多彩な街で、長い間ずっとその環境で音楽を聴いてきた。父はエイフェックス・ツインやビョークなんかが好きで、母はミッシー・エリオットやアイズレー・ブラザーズが好きだったんだけど、後から自分自身が惹かれる音楽というものが出てきて。まず夢中になったのはポップミュージック。学生時代にはグライムやラップが周りに沢山あったけど、その頃は視界の片隅にあった感じ。でももう少し後になってラップに詳しい友人たちに影響されて、基本を学んだ。あと、私はDJもやっていたし、その時期にクィアな空間を持ったクラブに行き始めて、そこで流れる特定のジャンルにとらわれない、折衷的な音楽を聴くようになったんだ。そういう空間に身を置いたおかげで、私はボーカリストとして全てをつなぐ糸のような存在になれた。ボーカルの周りにある音楽は変わっても、ボーカルという共通点で一つのストーリーを作り上げることができる。私は様々なタイプの音楽に囲まれていることが好きなんだと思う。ハードな音楽や実験的な音楽は他のサウンドの足りない部分を補ってくれるアートのパズルのピースにもなりうるし、そういうものを組み合わせることで、色々なジャンルを味わってもらいたい」


――キャリアを重ねる中で、あなたはレフトフィールドなダンスミュージックのシーンだけでなく、例えばLady GagaとBLACKPINKのようなメインストリームのポップアーティストとコラボするまで活動の範囲を広げています。世界的にメジャーなアーティストたちとのコラボはあなたにとってどのような体験でしたか?


Shygirl「すごく面白い経験だった。オンラインでのやりとりだったから、相手が何を望んでいるのか推測しなければならなくて。でも向こうからオファーが来たということは、私が望んで作るものを彼らも望んでいるということだから、敢えて率先して何も考えずに音源を作った。もしそれを彼らが好きじゃなかったら、それはそれで仕方がないし。それに、彼らが何を望んでいるのか、よい良いアイディアを得るためにはとりあえず何かを見せる必要もあると思う。自分の音楽では出来ないこと、やらないことの中で”自分だったらどうするだろう”と想像できるのも面白かったし、そこから新しいインスピレーションを得ることも貴重だった。Lady GagaやBlack Pinkのようなアーティストたちとコラボするのは、もちろんプレッシャーでもあったけど、同時に、それに立ち向かいたいという気持ちもあって。そして、それを経験できたことをすごく誇りに思ってる。そして、ビョークとのコラボは、それとはまた違う経験になった。彼女とは仕事だけじゃなくて個人的な時間も過ごすようになったから。彼女は私にとってメンターのような存在。いつもメールしているんだけど、彼女はいつでも刺激になる答えをくれる。自分にインスピレーションを与えてくれる人に出会ったり、自分の音楽を聴いてくれたり、彼らの仕事に一緒に取り組んで欲しいと思ってくれる人に出会うことは、毎回本当に貴重。自分が尊敬するアーティストに”こちらの世界に入ってきて”と言われたら、すごく嬉しい」





――あなたのライブパフォーマンスや存在感には、いわゆるディーバと呼ばれるような女性のポップアイコンたちと通ずるような強度を感じます。そうした女性アーティストたちの中で影響を受けた人はいますか?


Shygirl「マライア・キャリーのライブに行ったんだけど、その時の彼女の観客との距離の取り方を見た時は、本当にインスピレーションを受けた。観客には当然パフォーマーと繋がっていたい気持ちがあると思うけど、その存在に完全には近づけないという感覚があることで、特別な体験を得られることができると思う。やっぱりパフォーマーは観客とは別の存在である必要があると思ったんだよね。マライアのショーを見た時はショーの全てが彼女のデザインによるものであることを深く感じたし、彼女のスペースを侵害してはいけない気がした。今はアーティストにアクセスするためにインスタグラムや多くの手段があるけど、その前から活躍している歌姫たちは、生活の様子を逐一投稿することなんてなかったわけだよね。だからこそ、あの魅力的なパフォーマンスができるのかもしれない。だから私も、一人でステージに立つことで、”自分だけの空間にいる”というプレッシャーを感じながら、大きな力を発揮したい。ダンサーが沢山登場しても、私一人で観客の注意を引くくらい。今の私のパフォーマンスは、落ち着いていてすごく生き生きしていると思う。最初はステージに立つのはあまり好きではなかったけど、今は自分を奮い立たせ、ステージに立てるようになった。自分だけの空間で、自分自身になることができる。経験を重ねるうちに洗練されていくのを感じているし、良くなっているのを感じているよ」


――例えばBurberryのキャンペーンなどを経て、ファッションアイコンとしてあなたに注目し、影響を受けているファンも多くいると思います。普段のスタイリングではどのようなことを意識していますか?


Shygirl「自分自身の気持ちを大切にすることかな。自分が素敵だと思えて、本当の自分でいられる服を選んでいると思う。時にはセクシュアリティだったり質感みたいなものを強調させるのも好き。それから、コスチュームジュエリーも大好きだから、今回は日本でジュエリーを次から次にゲットしてる(笑)。ファッションで自分を表現するのは大好き。自分を表現できていたり、何かを感じられていたら着心地はあまり関係ない。着心地が良くなくても、例えばキツキツで息ができないコルセットを着てたら、これを身につけてる私は強いんだ!って感じられるし(笑)。私自身もファッションにインスパイアされているし、現実を超えた自分自身の世界を作り出すことができるのは素晴らしいことだと思う。日本では友達のために服を沢山買った。私っていつも、“あなたは絶対これを着るべき!”みたいな感じで人に勧めてしまうんだよね(笑)」


ーー最後に、もうすぐ新しい楽曲のリリースがあると聞きましたが、その内容について教えてもらえますか?


Shygirl「アルバムの曲のリミックスなんだけど、どの曲かはまだ秘密。アルバムでは自分が言いたいことが沢山ありすぎて他のボーカリストは一人もフィーチャーしなかったんだけど、今は誰かに入ってもらう余裕ができたから、Tinasheに参加してもらうことにしたんだ。彼女に歌ってもらったのを聴いた時、これは運命だったんだなと思った。この曲では、どうしても女性をフィーチャーしたかったんだよね。心をむしばむ恋愛関係にとらわれない強い意志を歌った曲だから。パートナーと別れても一週間後にはその人とまた出かけるようになったりして、全て忘れて寄りを戻したくなる瞬間があると思うけど、この曲はそれにノーと言っている。だから、私がこの曲に求めているのは強い女性のポップアーティストだったんだけど、彼女はそれにピッタリだった。リリースされるのが本当に楽しみ」





text Aki Yamamoto(IG



デラックス・エディション『Nymph_o』
2023年4月14日発売予定
試聴/予約リンク:https://shygirl.lnk.to/nymph_oyo
昨年9月、待望のデビュー・アルバム『Nymph』をリリースし、早くも、本作を更にパワーアップさせたデラックス・エディション『Nymph_o』を4月14日にリリースすることを発表した。そのデラックス・エディションから第一弾として、デビュー作『Nymph』に収録されていた「Heaven」をティナーシェとドリーミーな新しいバージョンがこの度ミュージック・ビデオと共に解禁された。ミュージック・ビデオの監督はActual Objectsが手掛けており、ユートピア的な別世界を描いている。

「Heaven feat. Tinashe」はShygirlにとって、今年リリースされた、ビョークの「Ovule feat. Shygirl」(Sega Bodega Remix)に次ぐ曲となっており、また、Shygirlのデラックス・エディション『Nymph_o』でも、ビョークがリミックスにて参加しており、ティナーシェの他にArcaやErika de Casierも名を連ねている。



アルバム『Nymph』
2022年9月30日発売
試聴/購入リンク:https://virginmusic.lnk.to/ShygirlNYMPH



シングル
2023年2月9日発売
試聴/購入リンク:https://shygirl.lnk.to/heavenyo

<デラックス・エディション『Nymph_o』収録予定楽曲>
1. Angel – Shygirl x Fatima Al Qadiri
2. Heaven Feat. Tinashe
3. Crush Feat. Erika de Casier
4. Woe (I See It From Your Side) (Bjork Remix)
5. Shlut Feat. Sevdaliza
6. Nike Feat. Deto Black
7. Playboy / Positions
8. Poison (Club Shy mix)
9. Firefly (Kingdom Edit)
10. Wildfire (Eartheater Remix)
11. Unconditional – Shygirl x Arca


<バイオグラフィー>
ロンドンを拠点に活動するアーティスト。英アンダーグランドのシーンで最も重要な集団の1つである新鋭クラブ・レーベル〈NUXXE〉の創設者の1人でもある。2016年発表のデビュー・シングル「Want More」を皮切りに、ダブル・シングル『MSRYNVR』やEP『Cruel Practice』など毎年コンスタントに作品を発表。オーディエンスの心を掴むライブ・パフォーマンスで世界各地でカルト的な人気を博し、2019年には〈NUXXE〉の共同主宰者でもあるcoucou chloeと共に初来日を果たした。2020年には、Arcaの最新アルバム『KiCk i』収録曲「Watch」に参加し、後にコラボ・シングル「unconditional」をBandcampでリリースし収益の全てを寄付した。2020年11月、新EP『ALIAS』をリリース。2021年6月、 英ラッパーslowthaiがフィーチャリング参加した新曲「BDE」をリリース。2022年9月、待望のデビュー・アルバム『Nymph』をリリース。


<アーティスト日本公式サイト>
https://www.virginmusic.jp/shygirl/

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