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text by Junnosuke Amai

Interview with Aldous Harding about “Designer”/オルダス・ハーディングインタビュー



名門〈4AD〉からリリースされ、2作目にしてオルダス・ハーディングの名前を広く知らしめた『Party』から2年。再びジョン・パリッシュ(PJハーヴェイ、スパークルホース)と制作された最新アルバム『Designer』で、彼女は自らの内奥を凝視するようにして、その不可思議で奇想めいた世界を大胆に押し広げてみせている。ピアノやメロトロン、アコースティック・ギターが奏でる厳かでサイケデリックな音色と、美しいハーモニーを交えた甘い歌声を伴いながら。「私は自分が本当にエキセントリックな人間だと思っていない」。そう断り、自身と音楽、アートとの関わりについて思うところをありのまま話してくれたハーディング。12月には初めての来日公演が行われる。彼女が語るところの“音楽という言語”を体感できる、きっと素晴らしい機会となるはずだ。(→ in English

――最新作『Designer』の楽曲は、100公演以上行われたというツアーの最中に書かれたそうですね。その過程を振り返ったとき、思い出されるのはどんな出来事でしょうか。


Aldous「思い出すのは、アメリカに初めて行って、 私が今までに行ったことのある場所のどこよりも、いかにアメリカが温かくて広大な所かと感じたこと。空も違った。全てが大きかった。作曲の過程に関しては、“Heaven Is Empty”を作っていた時、私は電車に乗っていて、ビールを4本飲み終えたところだった。私は電車でビールを飲みながら、窓に向かって歌を口ずさんでいた。まどろみながら。そして電話を使ってヴォイスレコーダーに歌を録音して。翌朝、目が覚めて『これは何だろう?』と思った」


――覚えていなかったのですか?


Aldous「録音を聴いたら、思い出した。そういうちょっとしたストーリーならあるの」


――前作の『Party』は、ロマンスの終わりについて描かれた、リアルで、重々しく悲痛な感情であふれた作品でした。あのアルバムを作ったことでもたらされた変化、あなたの中での気づきみたいなものがありましたら教えていただけますか。


Aldous「あのアルバムを作ったことで、私は変わることができるんだと気付いた。少なくとも私はそう感じたんです。私は変われる、と。自信という言葉を使うのは抵抗があるけれど、譲り渡すと同時に、主導権を握るという感じ。わかりますか? この先どうなるかわからなかったから、自分が持っているもの全てを使って、あの作品を作った。これが最後、そして唯一の機会だと思って。私は、それと同じことを、彼との関係性に対して行なっていたのかもしれない。特定の出来事は思い出すのが難しいの。まるでタオルに付いた砂みたいに。砂は確かに付いているけど、どのようにしてそこに付いたかよくわからない」



――では、今回の『Designer』の楽曲を制作している間、あなたを満たしていたフィーリングとはどのようなものだったのでしょうか。前作『Party』を作ることで得たものが今作の制作に影響を与えたことなどありましたか。


Aldous「このインタビューで私はなるべく自分をさらけ出して、あなたが求めていると思うような答えが出来るように努力しているんだけど、私が正直に答えるとしたら……別に正直に答えていないというわけではないのだけれど、私は頭の中のノイズを処理して、自分が本当に言いたいことにたどり着くまで時間がかかる人なの。だから沈黙が“気まずいことも”わかっているし、あまり時間がないということもわかっている。けれど自分が本当に思っていないことや、自分に合っていないことを言いたくないから、今回は少し時間がかかるかもしれない」


――大丈夫です。


Aldous「私は自分が本当にエキセントリックな人間だと思っていない。だから、『何を考えていたのですか?』とか『どう感じていたのですか?』という質問をされると、その答えを呼び起こさないといけないのか、すでにあって、この仕事をこなすために、また、人の期待に応えるために、その答えを直視させられているのかがわからなくなる。人の期待がなければ、私は何もしないだろうから、期待されるのは嫌いじゃないわ。もし私が決めてよいことなら、私は全く動かないだろうから」


――はい。


Aldous「『Designer』を作ったのは、それが私の仕事だから。どうやって作ったかというのは、緩んだ感覚からだった。強烈さという感覚には頼りたくなかった。強烈さは出せるけど……。そして人々に、自分も含まれている、という気持ちになってもらいたかった。柔らかくて、祝福された形で含まれていると感じてもらいたかった」


――ジョン・パリッシュとの作業は前作に続いて2度目になりますが、今回のレコーディングやミキシングではどんなことを大事にされていましたか。


Aldous「全てがとても大事だった」


――今作はこれまでの作品と比べても、あなたの歌声や楽器一つひとつの響きがとてもクリアに聴こえて感じられるように思います。


Aldous「ああ、そうです」





――「Amish Sci-fi」とも謳われている“The Barrel”ですが、MVもミステリアスな雰囲気があって魅力的です。撮影時のエピソードなどあれば教えてください。


Aldous「あのトンネルみたいなのは……こういうインタビューをやって、後で気付いたことなんだけど、私が幼い頃、父と遊園地に行ったの。3歳くらいの時。そこには、布でできた大きなテントの中で、おとぎ話をしている女の人がいた。テントの中に入るには、トンネルをしゃがんで通り抜けないといけなくて、シルクに包まれた産道を抜けて開けた場所に行くような感じだった。そしてそこを抜けると女の人がおとぎ話をしていたの。ビデオのヴィジュアルはそのイメージが元になっていると思う。目を閉じてあの曲を聴くと、そのイメージがすぐ浮かび上がったから。衣装に関しては、インターネットから見つけた画像を参考にしたの。ビデオに出演して、どうせただ立っているだけなら、素敵な衣装にしようと思った」

――“Damn”はタイトルも痛快ですが、この曲はどのようにして生まれたのでしょうか。


Aldous「どうやって生まれたか……(それを思い出すのは)変な行為ね。私とジョンはスタジオに入ったんだけど、何曲完成しているかということに対して、私は正直でいなかった。ジョンには、曲は十分あると伝えていた。曲数が足りていないとジョンが気付いた時、ジョンは私にもう何曲か書くように言った。バックアップという意味も兼ねてね。私はRockfield Studioにいたのだけど、すでに書き上げた曲から一度離れて、また再びそれを作り上げるのは大変だったし、その後に、また別の曲を作るのも大変だった。毎日、私は敗北感とともに帰宅した。ジョンには「明日には何か出来るから」と毎回言いながら。けれど、私はその後、気が散って何か別のことをしてしまう。次の日スタジオに行くとジョンは私に「今日は曲に取りかかれるかな?」と聞くけれど、私は「あともう少しでできるわ」と言う。それは全くの嘘だった。最終日の前日、私はようやく曲を作らなければいけないと思い、丸一日かけてあの曲を作った。私のお気に入りの曲の一つなのよ。そういう経緯があるからかもしれない」





――今回、レーベルから送られた試聴リンクを通じて『Designer』を聴いたのですが、一巡して二巡目に入る時、つまり最後の曲の“Pilot”から最初の曲の“Fixture Picture”に戻る時、その歌声の印象がまるで違うことに驚かされました。「オルダス・ハーディング」の歌声には様々なキャラクターが同居していると思うのですが、シンガーとしてのあなたを構成したミュージシャンを挙げるとしたら誰になりますか。


Aldous「それはできないです。私は物事に影響を受ける。私がやることは、確かに何かしらが起源になっているけれど、自分と他人を比較することはしたくない。私にヒーロー的存在がいないというわけではないのよ。でも創造的なことをする際に、他の誰かみたいになろうと思わないの。そう思う時もあるけれど、実際にはそうしない。ここで名前を挙げるようなやり方を私はしたくない。でも私にとって最も魅力的なミュージシャンはニール・ヤング。それは昔からそうだったし、今でもそう。その点に関してはオープンにしているわ。でも私は全てのものに影響を受けるし、その一部が私の音楽に反映されていると思う」


――わかります。それは歌詞に関する影響についても同様ですか。


Aldous「そう。ごめんなさい、というか別に悪くも思っていないのだけれど、私は全てに影響を受けているから。他の多くの人も私と同じことを言うと思うし、他のアーティストの多くも、何か答えを言った後に、「何でさっきあんなことを言ったのかわからない」と思うと思う。もしくは、みんな、自分が受けている影響をきちんと把握しているのね。ただ、私はそうじゃない。私は他の人みたいに作詞しようとしないし、他の人と違ったように作詞しようともしない。ただ作詞するだけ。」


――わかりました。では、カジュアルな質問になります。最近聴いた音楽の中で心を打たれたものなどありましたら教えてください。あるいは小説や映画でも構いません。


Aldous「リチャード・ブローティガンは大好き。彼は最高。『巨匠とマルガリータ』(※ミハイル・ブルガーコフ)は素晴らしい小説だと思う。ジョーン・アズ・ポリス・ウーマンにはとても心を打たれる。彼女は非常に興味深く、とても強い女性だと思う。最近の音楽には正直、あまり注目していないから、よく分からない。最近、注目しているのはジョーン・アズ・ポリス・ウーマン」


――ちなみに、今回のアルバムを制作中、よく聴いていた音楽などありましたか。


Aldous「よく聴いていたのは……私は記憶力が本当に悪くて。記憶と記憶の間に巨大な欠落部分があったりするの。インタビューに答えないといけない状況になると、真実を伝えようとして、パニックに陥ってしまう。だから実際のところ覚えていないのよ」


――アルバムのリリースに合わせて衣装なりメイクなりといったヴィジュアルのイメージを変えられると思いますが、今回の『Designer』に関してあなたが考えていたコンセプトやアイデアなどありましたら教えてください。


Aldous「“The Barrel”を公開してから、その後のビデオなどに継続性があっても悪くないなと思った。壮大な計画があったわけではないけれど、全く無計画というわけでもなかったから、直感みたいなものがあったのだと思う。どうやってそうなったのかはわからないけれど、ヴィジュアルにある程度の統一感はあると思うから。アートワークに関しては、シンプルでエレガントなものにしたくて、自分の顔と『Designer』という言葉がそこにあればいいと思った。あの言葉のデザインは完璧だと思う。あの時、どのようにして全てがまとまって出来上がったのかを思い出すのは難しい。私はその行為をしていたから。私が撮っていない、携帯電話にある写真を見せてと言われているような感じがする。私はその時、それをやっていたから。分かる?」

――“Heaven is Empty”という楽曲のタイトルも目を引きますが、今作『Designer』の中にあなたの過去の人生経験や体験、宗教観や哲学など、自身のパーソナリティがとくに反映されているものがあれば教えてください。


Aldous「私の過去の人生経験は、私がその後に行う全てのことに多少なりとも関わってくるのは当然のこと。それは他の誰にとってもそう。“Heaven is Empty”は読んで字のとおり(=天国は空っぽ)だと思うけれど、この主人公は目的というものがあると納得していない。たとえあったとしても、それに興味を抱いていないか、見つけようとする意欲がないのだと思う。普通の人が求め、期待するものが、自らの手をすり抜けて落ちて行ってしまった。だから、目を背ける。つまり、何かに対して180度向きを変えてしまう。その人は、もうこれ以上見たくないと思ったのでしょうね。私に、目を背けるような理由がなければ、こんな曲は書かなかった」


――ボブ・ディランの有名な言葉に「今の時代に何が起きているのか知りたければ音楽を聴く必要がある」というのがありますよね。もしもあなたの音楽にも同じことが当てはまるのだとするなら、今回の『Designer』というアルバムには今の時代の何が映し出されていると思いますか。


Aldous「それはいい質問ですね。今の時代には、全ての人に対して、自分が何者であるかを理解していなければいけない、というプレッシャーがあると思う。つまり、自分が何を支持して、何かしらの目的を掲げていなければいけないというプレッシャー。私たちに主導権がほとんどないという状況で、それはものすごいプレッシャーだと思うの。その人の意図が善意的なものであるならば、その行為をいちいち説明する必要はないと思う。これは、多数派の意見とは違うかもしれない。意図が善意的なものであるならば……それもプレッシャーをかけすぎているわね。『Designer』は完全停止を意味しているの。それだけであって、それ以上のものでも、それ以下のものでもない。そうでなければいけない。オープンで、悪びれない、努力。それだけ」


――12月に初めての来日公演が控えています。楽しみにしていること、日本でやりたいことは何かありますか。


Aldous「ずっと日本に行きたいと思っていた。誰かが私を日本に連れて行ってくれるなんて信じられない。日本には4日間しか滞在しないから、多くを経験できても嬉しいし、少しだけしか経験できなくても嬉しいわ。予定はまだわからないから。やりたいことを全てやる時間は絶対にないけれど、日本の人たちに会って、アルバムやバンドに対する反応を見るのが楽しみ。私の小さな夢が叶ったと思っている」


――私たちもあなたの来日を楽しみにしています。


Aldous「こんな内容のインタビューの後に誰がライブに来てくれるかわからないけれどね。日本の人たちとはこれから新しい関係性を築いていくから、私はこういう形ではあまりよいものを提供できないけれど、その代わりに、日本に行ったらその分も埋め合わせするということを、時間が経つにつれて、みんな理解してくれると思う。それが私の言語だから。私は“音楽”を言語として使用することを選んだ。魅力的なものを作ったら、それに対して人々がさらに詳しく知りたかったり、質問したいと思ったりするのは、私も理解できるの。でも私はインタビューというものが昔から苦手だったの。自分自身を説明するという行為が昔から苦手だった。だから他の手段の方が上手くいくの。その手段についても私はよく分かっていないけれど、その不確実性に対しては、多くの人が共感できるのだと思う」





Aldous Harding
『Designer』
発売中
BEATINK.COM:
http://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10124
Tower Record: https://tower.jp/item/4867275/
HMV: http://www.hmv.co.jp/product/detail/9640595
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07NS8W22R

iTunes: https://apple.co/2SN4cYf
Apple Music: https://apple.co/2DUYiKs
Spotify: https://spoti.fi/2VdXZS3


Aldous Harding 来日公演
東京 12/15(日) SHIBUYA WWW X
open18:00/ start 19:00 ¥6,000(前売/1ドリンク別)



・ e+ (pre:6/12 12:00〜6/16 23:59)
・ ぴあ (P:154-592)/英語販売あり
・ ローソン (L:71637)
・ 岩盤 ganban.net


協力:BEATINK
お問合わせ:SMASH:03-3444-6751
smash-jpn.com



text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara




This interview is available in English

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