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text by Junnosuke Amai

Interview with The Japanese House about “Good at Falling”/ジャパニーズ・ハウス『Good at Falling』来日インタビュー




ロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ジャパニーズ・ハウスことアンバー・ベイン。The 1975のマシュー・ヒーリーに見出され、ペール・ウェーヴスやノー・ロームを擁するレーベル〈Dirty Hit〉からデビューを飾って4年。今春リリースされた待望の1stアルバム『Good at Falling』は、初期のシングルからプロデュースを手がけてきたThe 1975のジョージ・ダニエルに加えて、ボン・イヴェールやフランシス&ザ・ライツの作品で知られるBJ・バートンが制作に参加。シンセやギター、そしてエフェクト処理されたヴォーカルが織りなすドリーミーでメランコリックなサウンドはそのままに、ライヴの経験を反映したというアップビートな楽曲が魅力だ。ちなみに、ベインはLGBTQであることをオープンにしていて、今作にはマリカ・ハックマンとの関係を歌った “Marika Is Sleeping”も収録されている。去る9月、初めてのジャパン・ツアーで来日したベインに話を聞いた。(→ in English



ーー『Good at Falling』がリリースされてからツアーの日々が続いていますが、何か印象に残った出来事などありますか。


アンバー「一番印象に残ってるのは、何日か前にインドネシアのジャカルタでやったときのこと……なんかもう衝撃っていうか、こんなにたくさんの人が集まってくれるなんて!っていうのと、私の歌に対して一緒に歌って返してくれるのに、びっくりして感動しちゃって。しかも、英語もちょっとインドネシア訛りが入ってるから、すごい遠いところまで来ちゃったんだなあって。それがアジアで初めてのステージだったから」


ーー春にアルバムがリリースされてしばらく経ちますが、ツアーを通じて改めて消化できた部分だったり、再発見したことってありますか。


アンバー「ツアーでアルバムの曲に対してリアクションが返ってくるまで時間がかかると思ってたし、最初はEPの曲中心に盛り上がるのかなって思ってたけど、実際はそんなことなくて。アルバムの曲をステージで演奏することで、曲がより生き生きしてきたし、新曲が加わったことでライヴのエネルギー自体が変わったって感じがしてる。今回のアルバムってわりとアップビートな曲が多いから、ライヴ全体がダイナミックな感じで底上げされた感じがしてる」


ーーアルバムの曲に対するリアクションが大きいのは、それだけファンがアルバムを待ち望んでいたっていうのもあるのでは?


アンバー「それもあるのかも。思ったよりも(制作に)時間がかかっちゃったからね。EPの合間にツアーに出てたりもしてたから、足がけ(制作期間は)1年ぐらいになっちゃってたのかなあ……それで余計にライヴでのリアクションが良いっていうのもあるのかも」


ーー資料によると、今回のアルバムはライヴでの経験が反映されているそうですね。


アンバー「うん。ライヴの数をこなしていくと、オーディエンスと空気を作っていくみたいな、ペースを合わせてくみたいなところがあるじゃない? それで自然とアップビートな曲が増えていったり。ただ同時に、いったんステージに立って演奏を始めたら、お客さんがその曲に対してどう反応するかコントロールすることはできないものだから。だから、自分からアップビートなものを作ろうって意識してたわけじゃないけど、無意識のうちにそっちのライヴ寄りの方向に引っ張られていったってとこもあるのかもしれない」





ーーただ、アンバーさんの作るビートって、いかにもダンス・ミュージック的なスクエアなテイストっていうよりは、もうちょっとアブストラクトでブロークンな実験的なテイストがあると思っていて。たとえばワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとかアルカにも通じる部分があるというか。


アンバー「うん、新しい音楽を漁って聴きまくる時期と、まったく音楽を全然聴かない時期があって。最近だと何を聴いてるかなあ……でも、ジャンル関係なしにいろいろ聴いてるよ。昔の音楽も好きだしね……フリートウッド・マックとか、アバとか(笑)。あと、新しい音楽も好き。同じ音楽業界で友達ができたから、友達の音楽を聴いたりしてる。ムナとか、アメリカのバンドだけど、めちゃくちゃ仲良くて、新作(『Saves The World』)をよく聴いてる。あと、アート・スクール・ガールフレンドとか、すごく実験的なエレクトロニック・ミュージックで。うん、たくさんありすぎて今パッとは思い出せないけど、他にもいろいろあるよ」


ーービートメイキングやプロダクションの部分で刺激を受けているアーティストはいますか。


アンバー「というか、むしろ自分から意識して誰の影響も受けないようにしてるっていう感じかなあ……他の誰とも違う自分だけのサウンドにしたいから。ただ、そうは言っても、自分でも知らないうちに何かしらの影響は受けてるんだろうし、全部シャットアウトすることは難しいんだろうけど。曲とかビートって、自分でも予測できないランダムな形でできたりするもので、作ってみて初めて、どういう音なのか気づくってものだったりするから」


ーーですよね。今回の制作にはThe 1975のジョージとBJバートンが共同プロデューサーとして関わっていますが、かれらとの間でシェアしていたアイデアやコンセプトは?


アンバー「今回のアルバムって2段階に分けて作ってるんだよね。最初はウィスコンシンでBJと一緒にひたすら曲を作って……でまあ、曲を作りつつ、いろいろ実験しつつっていうフェーズをへて、そのあとジョージとオックスフォードで作品を仕上げたっていう。そこでジョージの個人的なテイストやインプットも取り入れていったと思うし。だから、同じ作品を2人のプロデューサーと違う時期に仕上げて、最後に自分で2つを1つにまとめたっていうね。ただ、ジョージとはもう7、8年の付き合いなるし、これまでにも何度か一緒に仕事をしてるしね。BJも今ではそれなりに付き合いが長いし、すごくやりやすくて。今のところはその2人以外と一緒に仕事をするのは想像つかないかなあ」





ーーBJの起用はサプライズだったんですが、かれが手がけた作品についてはどんな印象を持っていましたか。


アンバー「そうね、今回、BJっていう新たなインプットが作品に加わったのが自分にとっても新鮮だったし。ただ、そもそも今回BJと一緒にやってみようと思ったのは、ジョージとスケジュールが合わない感じだったんで、ボン・イヴェールとかジェームス・ブレイクとか、自分が好きな作品をグーグルでサーチしたときにBJの名前が浮上したってわけ。ただ、まったくの偶然なんだけど、ちょうど同時期にBJのほうからもコンタクトしてくれたんだよね。それが縁で今回BJと組むことになったんだよね。BJとはまた一緒に作品を作りたいと思ってる」


ーー楽しみです。ちなみにBJがプロデュースしたロウのアルバム『Double Negative』って聴かれましたか。個人的に去年のBJのベスト・ワークだと思っていて。


アンバー「うん、聴いた聴いた。スタジオでBJがよくかけてくれてたんだよね。あれもすごくよかった。BJもすごく気に入ってる作品みたいで」


ーーそういえば、この前リリースされたばかりのThe 1975の新曲ってどうでしたか。ノイジーでインダストリアルなサウンドで、とても反響が大きかったんですけど。


アンバー「ああ、“People”のことね。うん、あれには私もびっくりした。ありとあらゆるジャンルを真っ向から否定するような感じで、ジャンルなんて軽々と飛び越えてるところが、めちゃくちゃカッコいいし凄いなって思った。ああやって音楽ファンやリスナーに衝撃を与えるって、すごく大事だよなあって思って」


ーーああいうインダストリアルだったりゴシックな音楽っていうのは、アンバーさん自身のテイストとしてあったりしますか。


アンバー「うーん、自分では正直そんなに好みじゃないんだけど(笑)。ただ、だからって、あの曲の雰囲気や伝えようとしてることが理解できないっていうわけじゃないし、むしろすごくいいなって思ってる。あの曲ってサウンドよりも、むしろメッセージのほうが重要なんじゃないかと思ってて……サウンドはあくまでも最初に衝撃を与えておいて、そこからリスナーの関心を曲の方に向けるための役割を果たしてるような。ただ、そういうハード・ロック系が個人的に趣味かって言われると、たまたま自分の場合はそうじゃないってだけで」





ーーなるほど。メッセージというところでいうと、あなたは自分のセクシャリティについてオープンにされていて、インタヴューの場でもそうした話題について聞かれることが多いかと思うのですが。そこに関しては、自分の意見を積極的に発信したいというところもあなたの中であったりするのでしょうか。


アンバー「自分自身のジェンダーについて、自分から公言した記憶はないんだけど……ただ、世間から中性的なイメージというか、いわゆるノンバイナリー的な見られ方をしてるのは自覚してるし、自分のセクシュアリティについて訊かれたらオープンに発言するようにはしてる。それって大事だと思うから。自分みたいな若い子のファンが多い場合はとくにね。自分もそれぐらいの年代のときに同じように悩んでたから。自分の好きなアーティストで、正式にカミングアウトしたわけではないけど、あきらかにそうだってことを示している姿を見て、『あ、自分は自分のままいいんだ』って、すごく共感して救われたっていう経験があったから。だから、ジェンダーについて語ることも、自分は全然イヤじゃないし、訊かれたら普通に答えるよって感じ」

ーーちなみに、ちょうど先日来日したガールプールのメンバーも、トランスジェンダーであることをオープンにしていて。


アンバー「あー、うんうん」


ーーかれ自身は、自分たちの音楽がトランスジェンダーっていう話題と紐づけて語られることが不本意だってことを言っていて。それはもっともな話で、あなたも、自分の書いた曲がそうした文脈の中で語られてしまうことに対して居心地の悪さを感じたりすることはありますか。


アンバー「うーん、私個人に関して言えばそこまででは……もちろん、ただ純粋に音楽のことだけ取り上げてほしいっていう気持ちもあるんだけど。ただ、自分のセクシュアリティについて積極的に話すことについてもとくに抵抗は感じない。ただ、たしかに最初から色眼鏡で見られるのは面倒臭いなあと思うけど。私がいつもTシャツにジーンズ姿だからっていうんで、最初から『ノンバイナリーだからでしょ?』みたいな態度で来られると、ちょっとね(笑)。だって、そういうことじゃないからさ。自分のまわりにいるノンバイナリーの友達が普段からそういうとこで苦労してるのを知ってるんで。ただ、自分のセクシャリティについては訊かれたら積極的に話したい。そのほうが人間にとって自然で健康的だと思うから」




ーーThe 1975のマット・ヒーリーが今年のブリット・アウォーズの授賞式で、音楽業界にはびこっているミソジニーやジェンダー・ギャップについてのスピーチをして話題になりましたけど、ご覧になりましたか。


アンバー「うん、観たんじゃないかな。マットのスピーチは何度も観てるから、自分が観たのがブリット・アウォーズのやつだったかどうか正確には覚えてないけど(笑)」


ーーさっき話してくれたノンバイナリーっていう決めつけだったり、実際、マットがスピーチで語ったような音楽業界における不平等をあなた自身が感じる場面はありましたか。


アンバー「この業界に入るか入らないかっていう頃に、最初にマネージャーとしたミーティングで……ちなみに今のマネージャーじゃなくて、別の人ね。その人が『へえー、女の子なのに自分でプロデュースまでできるんだ、すごいね』みたいな感じで、さすがにムカッとしたけど(笑)。ただ、ミソジニーの問題とか女性が軽く扱われる場面とか、普通に日常レベルで起こってることで、それが音楽業界特有のものか世間一般で行われてることなのか区別がつかなくなってるっていう感じかなあ……そういう意味では、自分はすごくラッキーだとは思うけどね。少なくとも、自分はまわりの人だちからそういうことでイヤな目に合ったっていう経験はほとんどないし、〈Dirty Hit〉の人とか、そういう態度に対してすごく厳しいんだよね」



ーーええ。


アンバー「ただ、昔は女性に対して差別的だった人が、今は人間的に成長して考えを改めたってケースもあるから、期待している部分もあるし。女性に対する差別って日常的に行われているものだし、現代社会における女性の扱いってとこに関しては、まだまだ改善の余地があると思ってる。たとえ自分はそういう場面に遭遇することが比較的少ないとしても、まわりで実際にそういうケースをたくさん見てきてるから……って、具体的な例を言ってよって感じかもしれないけど(笑)、なんかもう、具体的な例も思いつかないくらい(笑)、普通に、日常的にそういうことで溢れてるんで」




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『Good at Falling』
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text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara

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