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『日々ロック』入江悠監督インタビュー

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──リアルさで言えば、二階堂ふみさん演じるカリスマアイドル・宇田川咲のライブシーンも圧巻でした。幕張のコンサートホールを借り切り、何千人規模のエキストラを前に堂々たるパフォーマンスで…。

入江「彼女は彼女で、クランクインのかなり前から振り付けの先生について、ダンスレッスンを重ねていて。当日も完璧でしたね。撮りながら、本物のアイドルのライブに立ち合ってる感じがしたくらい。二階堂と組むのは実は今回が2回目なんですけど、実はものすごい努力家なんですよ。外には見せないし弱音も吐かないけれど、まだ19歳(撮影当時)だっていうのが信じられないくらい、プロ意識が高い。しかも、登場しただけでパッと人の心を束ねてしまう力がある。セリフを喋ってなくても見ていたくなるっていうか…間違いなく、あの世代では世界に通用する女優だと思います」

──野村さんのなりふり構わぬ熱演もすごかった。ナイーヴなイケメン若手俳優というイメージが一変しました(笑)。

入江「ですよね(笑)。めちゃくちゃ熱いヤツなんで。こっちが「もっともっと、もっと見せてくれよ」という空気を出すと、ちゃんと食らいついてくる。撮影しながら、どんどん成長していったというか。最後の方は顔付きまで変わって、ほとんど日々沼になりきってましたね(笑)。そこは僕自身、演出いていて楽しかったです」

──入江監督からはどんな演技指導を?

入江「とりあえず『虫っぽい感じで』ってことは言ったかな(笑)。彼はイケメンで手足も長いし、普通にすっと立つと、どんなに変なパーマをかけてダサイ服を着させてもかっこよく見えちゃうんですよ。なので、劇中では背中を曲げて、なるべく地べたに近い感じで……虫っぽく這いずり回っていてほしいというのはありました。実際、器用にやんない方が撮ってて面白いんですよね。それこそ日々沼じゃないけど、負荷が大きければ大きいほどギューッと溜め込んでバーンとはじけて、予想もしなかったものが出てくる」

──物語の中盤、ライバルバンドとの負けられない勝負で「スーパースター」という曲を歌うシーンは、まさにそんな感じでした。

入江「あそこは日々沼が初めてお客と正面から向き合い、自分の思いを届けるシーンで。物語上のターニングポイントにもなってるんですね。撮影的にも、全期間を通して一番粘ったところかもしれません。野村君にも数えきれないほど繰り返し歌ってもらって。それを『もっとこんな感じで』『今度はこっちのアングルから』と何度も撮り直して…。カメラマンさんから『もうこれ以上は撮りようがねえぞ』と言われました。野村君もバンドのメンバーも、ゴールが見えない状態でよく頑張ってくれた。後で聞いたら、夢にそのシーンが出てきてうなされたそうですが(笑)」

──劇中にはその「スーパースター」を始め、「脳みそ」「今夜いますぐに」「いっぱい」とザ・ロックンロール・ブラザーズの楽曲が4つ登場し、それぞれを滝 善充(9mm Parabellum Bullet)、細身のシャイボーイ、忘れらんねえよ、爆弾ジョニーという現役アーティストが提供しています。音楽プロデュースは元SUPERCARのいしわたり淳治さん。その他にもThe SALOVERS、DECO*27、ミサルカなどエッジーなミュージシャンが参加していますが、このセレクションもいしわたりさん?

入江「そうです。いしわたりさんって、泥臭い『日々ロック』の世界とはややかけ離れたイメージがあるかもしれないですけど、実はティーンエイジャーのみを対象にしたロック・フェス『閃光ライオット』の審査員もやられていて。今の若手バンドをものすごく見てらっしゃる。それもあって、こちらが求めてる『稚拙なんだけど胸にグッと響く曲』とか『バンド結成直後の勢い』みたいなものが体感的に分かってるんですね。もともとこの話は、日々沼が演奏する曲の歌詞が命だったりもするので。ミュージシャンとのやりとりも含め、僕にはコントロールできない音楽的な部分ですごく助けていただきました」

──監督といしわたりさんの間で、具体的にはどういうやりとりを?

入江「基本的には榎屋先生が(マンガの中に)書かれた詞にミュージシャンが曲を付けてくれるんですけど、実際メロディーに乗せてみると、当然うまくハマらない部分も出てくるわけですよね。そういう細かい調整なり作り込みを、いしわたりさんが全てディレクションしてくれています。たぶん僕のところに持ってきてくれる前に、何度もダメ出しをしてるんじゃないかと(笑)。そうやって仕上がったデモ音源を一緒に聴いて、今度は演出的な観点から『ここはもう少しこんな感じになりませんか』と希望を伝える感じですね。観客の心にちゃんと歌詞が残るように抽象的な表現はなるべく避け、1つひとつの言葉を映像とリンクさせたり…。あとはザ・ロックンロール・ブラザーズの音楽的な見せ方にも、いしわたりさんのアイデアが相当入ってます」

──音楽的な見せ方というと、例えばどういった部分ですか?

入江「一番大きいのは、楽曲を通して彼らの成長をどう伝えるかという部分ですね。たとえば歌詞にしても、最初の『脳みそ』ではどこかから借りてきたような言葉使いだったのが、2曲目、3曲目と進むにつれてだんだん拓郎らしさが出てくるようにしたい。でも、あくまで同じバンドが演ってるというリアリティは必要なわけで、そのバランスが難しかったんです。そういうテクニカルな部分は、僕は漠然としたイメージでしか語れないので。実際にはいしわたりさんがミュージシャンと会って話したり、ときには長い手紙を書いたりして、細かくディレクションしてくれました。さっき話に出た『スーパースター』という曲も、最初はわりと高度なアレンジだったのをあえてシンプルなロックンロールに直したりして、そうとう粘って作りました」

──そういう具体的なビジョンと細かい戦略があればこそ、映画版『日々ロック』は原作の持っているエモーションを再現できたんでしょうね。最後に監督としての手応えを聞かせてください。

入江「いやー、正直、分かんないですね(笑)。観てもらった人からどんな反応が返ってくるのか予想がつかない。ただ『SR サイタマノラッパー』から一貫して、僕の作る音楽映画というのは1つしかないとは思っていて。結局のところ、地を這うように泥臭く生きてるヤツが好きなんですね、僕は(笑)。スマートに生きてる人たちのバンド・ストーリーとかは興味ないし、そもそも作れない。そういう意味ではやりたかったことができたし、このちょっと不器用すぎるヤツらの話がどう受け止められるのか、楽しみではありますね」

 

文 大谷隆之/text  Takayuki Otani

編集 桑原亮子/edit  Ryoko Kuwahara

 

入江悠

1979年、埼玉県出身。埼玉でくすぶるヒップホップグループの青春をリアルに描いた『SR サイタマノラッパー』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門グランプリなど数多くの賞を受賞。2009年、映画監督協会新人賞を受賞。シリーズ第3弾の『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』は、徹底的な1カット撮影とインディーズ映画としては最大規模のフェス撮影で話題となる。テレビドラマやミュージックビデオなど、活躍の場を広げている。来年の公開待機作に『ジョーカーゲーム』がある。

 

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『日々ロック』

【ストーリー】

金なし風呂なし彼女なし。童貞ヘタレロッカー・日々沼拓郎(野村周平)。そんな拓郎が友人の草壁(前野朋哉)、依田(岡本啓佑)とともに結成した名前からして猛烈ダサいバンド“ザ・ロックンロールブラザーズ”は、知る人ぞ知るライブハウス「モンスターGOGO」に住み込みで働いていた。鬼より怖いオーナー・松本(竹中直人)に「家賃も払えねえゴミくずども!」と罵られつつ、ステージに立たせてもらうどん底な日々。拓郎は全裸でギターを抱え、魂を奮いたたせて歌うが、客は毎回数えるほどだった。ある晩、ライブをしていた三人の前に酔っぱらった女が乱入してきた。「お前、童貞だろ?生の女抱いてからロックしな!」。拓郎の頭をビール瓶でぶん殴り、強引にギターを奪った女は名曲の「雨あがりの夜空に」を熱唱し、観客の心を鷲づかみにしてしまう。松本の姪っ子だという彼女の名前は、宇田川咲(二階堂ふみ)。斬新なスタイルでカリスマ的な人気を誇るデジタル系トップアイドルだ。フロアは大混乱、咲と三人は血とゲロにまみれた大乱闘。だが迎えのリムジンに飛び乗る直前、彼女はこう言い残して去っていく。「お前らダセーけど、けっこー良かったぞ!」少しずつ距離を縮めていく咲と拓郎たちだったが・・・。“史上最強のロックバカ”と“凶暴なアイドル”の運命は!?拓郎の叫び=『日々ロック』は本当に、世界を変えることができるのか!?

 

原作:榎屋克優

監督:入江悠

音楽プロデューサー:いしわたり淳治

共同脚本:吹原幸太

出演:野村周平 二階堂ふみ 前野朋哉 落合モトキ 岡本啓佑 古舘佑太郎

喜多陽子 / 毬谷友子 蛭子能収 竹中直人

劇中曲提供:黒猫チェルシー、The SALOVERS、滝 善充(9mm Parabellum Bullet)、DECO*27、爆弾ジョニー、細身のシャイボーイ、ミサルカ、忘れらんねえよ(五十音順)

制作・配給:松竹

 

11月22日(土) 全国ロードショー

(C)2014「日々ロック」製作委員会 (C)榎屋克優/集英社

 

公式サイト:http://hibirock.jp/

公式Twitter:https://twitter.com/hibirock_movie

公式Facebook:https://www.facebook.com/hibirock.movie

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