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text by Shiki Sugawara

雨の日のための映画たち/Movies in the rain

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なぜだか心が躍る、雨の休日。まるで家に籠ることがゆるされたような気がする日だ。外に出れないからこそ、心に恵みの雨を降らせよう。今回は、室内にいながら心の旅に誘ってくれる5本の映画を紹介。


1.Rain レイン





ロシアの劇作家アントン・チェーホフの代表短編をもとにした本作は、雨が降る近未来のクリーブランドを舞台として6人の男女の苦悩が錯綜する。雨によって流れることのない、悩み、やるせなさ。しかし、雨上がりの風景はいつもと違って私たちの目に映って見えるものだ。劇中、WLOH(ジャズ専門ラジオ放送局)から流れるジャズの名曲たちは、音楽への徹底したこだわりでお馴染みのドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース製作総指揮作品とあり流石のチョイス。心地よくもどこか憂いに帯びた調べが流れ、鑑賞中はカーラジオをお供に独り行く当てもないドライブをしているような気分になれる。車窓に打ち付ける一つの雨粒が、風に流されやがて別の雨粒と一緒になっていく様子は、本作の6人が織りなす群像劇そのものだ。


2.パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻





雨の日が続くと気持ちも落ち込みがちになってしまうもの。本作でも子パンダが”雨降り、やだな”とぼやきミミ子が”大丈夫よ、明日はきっといいお天気になるわ”、パパンダが”大丈夫、雨は生き物に力を与える大切なものです”と諭すシーンがある……突如喋るパンダの話をされて驚いた方もいるかもしれないが、この『パンダコパンダ』は少女ミミ子のもとにやってきた子パンダとパパンダが一つ屋根の下で暮らす模様を描いたジブリでお馴染み高畑勲・宮崎駿コンビによる中編アニメーション作品シリーズである。ミミ子たちの町にサーカス団がやってくる『雨ふりサーカスの巻』では、その晩の大雨で大洪水となりサーカスの動物たちが立ち往生してしまう。
サーカスの動物たちを救うべく、ベッドをいかだに(!)洪水に沈んだ町へと繰り出すミミ子たちのなんとも愛らしくも奇天烈な冒険は、雨の日の憂鬱な気分なんてすぐに吹き飛ばしてくれるだろう。子供のころに観た遊び心にあふれる雨と洪水のシーンは、大人になった今でも大雨のたびふと思い出す。


3.マグノリア





雨と群像劇には強いつながりがあるのだろうか。先ほど紹介した『Rain レイン』と同じく、本作も雨にまつわる群像劇。しかし、この『マグノリア』で空から降るのは普通の雨ではない。恐らく誰しもが想像し得ない”あるモノ”が降るラストシーンで呆気にとられた人は数えきれないだろう。『マグノリア』に登場する人々は皆、予期せぬ雨に降られたような思いでながら生きている。それぞれが雨宿りのため駆け込んだ”因果”という一つの屋根の下でめぐり合うのだ。10人以上のキャラクターの人生を濃密に、その上コミカルに描き絶妙のテンポ感で小気味よく仕上げた当時若干29歳のポール・トーマス・アンダーソン監督による群像劇の怪作。映画の中で降るのは雨だけではないように、人生では何が起こるか誰にも分からない。特に登場人物の一人、セックスに憑かれた過激なカルト教祖を演じオスカーを獲得したトム・クルーズのエキセントリックな怪演は狂気全開でもう最高!


4.サスペリア(1977)





冒頭から吹きすさぶ風雨、本作において雨は一人の登場人物としての役割を果たしている。バレエ留学のためアメリカからドイツに降り立ったばかりの主人公スージーが乗り込んだタクシーの車窓からは、大雨による濁流とさかんに降りしきる雨がネオンを浴びて色光を放つのが見える。雨は針を連ねたように、輝きながら降り続ける。やがて目的地・バレエアカデミーに到着したスージーは、”惨劇”が待ち受けることも知らぬままに激しい雨の中その館へ向かっていく。伝説的なイタリアホラー界の巨匠ダリオ・アルジェントによる『サスペリア』は”決して一人では見ないでください”のキャッチコピーとともに、今でも語り継がれる不朽の名作。最大の特徴は、次々押し寄せる恐怖演出とは裏腹に、まるで絵画を見ているかのような圧倒的美しさを持つビジュアルである。恐ろしくもどこか耽美さを感じさせる惨劇は、物語が進むごとに容赦なくエスカレートしていく。館に打ち付ける雨だけが変わることがない存在、というのもゾッとさせる。なお、本作から40年以上の年月を経て制作されたリメイクが公開中。『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督によるオリジナルからの大胆かつ創造的な再構築が楽しく、リメイク作の新たな可能性を開拓した。


5.雨の日は会えない、晴れの日は君を想う




「悲しみを乗り越える」とはよく言うが、では”乗り越えられない悲しみ”と人はどう向き合えばいいのだろう。人は悲しみを乗り越えなければいけないのだろうか。本作の主人公デイヴィスも乗り越えられない悲しみに直面している者の一人。突然の事故で妻を失った彼を悲しませるのは、妻の死そのものではなく悲しみすら感じていない自分の気持ちの分からなさだった。一滴の涙を流すこともできない自分は、実は妻のことを愛してはいなかったのではないか?そんな出口の見えない迷路のような命題を解くべく、彼がとったある行動は……。
自分自身ですらも分かりきることが出来ない自分の気持ちとの向き合い方を問いかける、デイヴィスの痛いほどむき出しの姿。人生の雨上がりを迎え、彼が辿り着いた彼なりの答え。鑑賞後、『雨の日は会えない、晴れの日は君を想う』という詩的なタイトルに隠された意味がやさしい余韻を残す。



text by Shiki Sugawara



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