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2019年8月の出来事:「20年間の映画監督禁止令」を受けた映画監督の衝撃作から考える「表現の自由」




2019年8月、あいちトリエンナーレ2019内の企画展「表現の不自由展・その後」が開催から3日間で中止に追い込まれた。同企画展はさまざまな理由から国内の美術館での展示が許されなかった作品を集めたもの。展示作品の中には慰安婦問題のシンボルである「平和の少女像」や天皇をモチーフとした作品などが含まれており、その是非についてインターネットを中心に議論が沸騰。「安全を確保できない」と判断した主催者側が中止を決定した。その後も、多くの著名人や政治家が作品について言及し、果ては補助金の不交付にも発展するなど、表現の自由のあり方について物議を呼んだことは記憶に新しい。


そしてこの映画『人生タクシー』は、イラン・イスラム共和国で作られた作品。同国ではあらゆるメディアが政府の監視下に置かれており、反体制的なジャーナリストや宗教的規範に沿わない人間が投獄されるなど表現の自由が強く制限された状況となっている。


本作の監督であるジャファル・パナヒも、自身の作品である『オフサイド・ガールズ』などが反体制的と政府から評された結果、「20年間の映画監督禁止令」を受けた身だ。しかし、パナヒ監督はこれに屈することなく、自宅軟禁中の生活を撮影したドキュメンタリー作品『これは映画ではない』など、束縛の間を縫うように活動を続けている。


2017年に発表された『人生タクシー』も、パナヒ監督自身が運転手としてテヘランの街中にタクシーを走らせ、ダッシュボード上のカメラから乗客とのやりとりを撮影するという野心的な作品だ。教師と路上強盗、海賊版DVD業者、大学生、交通事故にあった夫妻など様々な人々が監督と会話を交わす中で浮かび上がってくるのは、生身のイランそのもの。生き生きとしたテヘランの街並みの映像も貴重なものだろう。


「映画ではない」にもかかわらず、ある意味、映画以上にドラマティックで鮮烈な1本。


『人生タクシー』
本編82分
■DVD(本編ディスク1枚組)3,800円+税
発売元:バップ
販売元:バップ 
配給:シンカ
提供:東宝東和
協力:バップ

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