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text by Ryoko Kuwahara

【NeoLが選ぶ日本未公開作品オンライン上映】『I USED TO BE NORMAL: A BOYBAND FANGIRL STORY』




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NeoLが選ぶ日本未公開映画作品をオンライン上映する企画がスタート(*日本語字幕付き)。記念すべき第1回目は2018年にオーストラリアで上映された『I USED TO BE NORMAL: A BOYBAND FANGIRL STORY』をピックアップ。
「彼らと出会う前はノーマルだったのに!」と1D(ワン・ダイレクション)への愛を熱狂的に叫ぶ少女ーーあなたももしかしたら経験があるかもしれないボーイバンドへの愛、そしてその愛が人生にどう影響を与えたかを4人のファンガールを通して描いたドキュメンタリー。ビートルズを愛し続ける64歳のSusanは「女性に教育は必要ない」とされる時代を生きて来た。33歳のDaraは自分は女性を好きなのになぜTake Thatをこれほど必要としているのか自問したことがある。25歳のSadiaはムスリムなので男女関係には潔癖でなくてはならないが、BackStreet Boysをたまらなくセクシーだと思う。16歳のElifは1Dからインスパイアされて音楽家になりたいが、親からは良い人生を歩むためにもっと勉強をしろ、音楽なんて夢に過ぎないと諭されるーー。Jessica監督自らも1Dのファンガールであることから始まり、彼女が出会った女性たちを6年にわたり追い続けたこのプロジェクトは、仲間を探す旅でもあり、キャストやオーディエンスが自らを見つめる旅でもあり、生きていく中での道しるべやお守りについてを描いた旅にもなっている。大人ならば眠っている”あの頃の自分”が目を覚ますのを感じるだろうし、もしあなたが思春期ならばこれからのあなたの味方になってくれるであろう、大切な作品だ。
以下にプロデューサーであるリタのインタビューも掲載。





『I USED TO BE NORMAL: A BOYBAND FANGIRL STORY』
オンライン上映期間:1月29日〜2月19日(予定*予告なく終了となる場合がございます)
電子チケット販売期間:1月29日〜2月19日(予定*予告なく終了となる場合がございます)
電子チケット購入URL:(https://noelmagazine.stores.jp
Vimeoオンデマンド : https://vimeo.com/ondemand/neolfangirl
価格:500円(税込)

【注意事項】
・日本国内のみ視聴可能です。・視聴リンクはご本人様のみ有効です。・知的財産権の保護の観点から、画面キャプチャ・撮影・録音は固くお断り致します。・予告なく変更・終了になる場合がございます。・当権利の交換・換金、また第三者への譲渡・転売を禁止いたします・登録内容に不備、不正な行為があった場合は無効になる場合がございます。・本試写を営利目的として利用した場合は、著作権法30条1項または著作権法第22条に基づき損害賠償金を請求させて頂きます。





COMMENT


臼田あさ美(俳優)
興奮する気持ちに嘘はつけないし、あの胸の高鳴りを、私も知っている。彼女たちの夢想がチャーミングに描かれていて、可笑しかったし嬉しかった。悦びも救いも、ときに痛みもボーイバンドにもらい、自分を突き動かすエネルギーとなる。こんなにも輝きに満ちているのに、寂しい気持ちになったのはなぜだろう。これは夢か現か幻か、私は今日も今日とて再生ボタンを押す。


小山内 園子(翻訳家)
わけもなく好き。どうしようもなく好き。その存在のおかげで、苦い現実も忘れられる。
「推し」って心の酸素ボンベなのね。
キラキラした誰かを見つめる彼女たちも、負けないくらい輝いている。






熱狂を覚える
UMMMI.

こんなこと誰にも言ったことがないんだけど、アタシもかつてあるミュージシャン(ここではAと呼ぼう)の熱狂的なファンだった。初めてAにハマったのは小学4年生くらいのとき。その病的なまでの熱狂は中学生になるまで続き、いまとなってはAの話こそしないものの、たまに酔っ払って家に帰ってきた深夜イヤフォンでこっそり聴いて、ああやっぱり最高だわあ、と酔った身体に行き渡る水のような感じで、Aの音楽を聴くといまでも!いまでも感動を、あるいは当時の熱狂を覚えてしまう。


アタシがどれくらいAのことを愛していたかというと、それは「I USED TO BE NORMAL」に出てくる彼女たちと張れるくらい、完全に熱狂していた。ファンクラブも入っていたしライブも何度も行ったしグッズも買ったし、それだけじゃなくて携帯でファンサイトを作って全曲レビューをしたりしていた。(ちなみにAは夥しい量の曲をリリースしていているんだけど、その一曲一曲が完璧すぎてやばい。天使なの?)Aが載ってる雑誌は残らず図書館で借りてコピーして、全部ファイリングしていた。ファンレターも何度も書いた。学校の友達に、なんでそんなにAが好きなの?と笑われたときは、わけわからなくなって泣いてしまったくらい、とにかくAに熱狂していた。気持ち悪いよね?そう、気持ち悪いの。アタシは完全にAを愛していた。けれど、成長するにつれて他の音楽に興味を持つようになり、Aを聴く人はダサい、Aを好きな自分はダサい、と思いはじめて、Aから離れたこともあった。Aから意識的に離れていた中学から高校にあがるくらいの時期、Aを聴くより灰野敬二を聴いている自分のほうが好きだったけど、気づくと灰野敬二の音楽性の中にもAが顔を出した。つまり、Aはノイズだったのである。Aは完全な存在としてアタシの生活に進入していた。それは取り返しがつかないくらい。


Aと出会ったあと、どんな音楽を聴いていても、いつもその裏にはAがあった。けれど、Aの着ている生活感に満ち溢れた服装、Aのクネクネと身体を屈ますその姿、Aの前髪や茶髪、なにもかもが自分の美意識からは遠くて混乱した。それでもやっぱり、いまだにたまたま入ったスーパーとかでAの曲が流れてくることがあると、アタシは天から降ってくるAの声を前に酒売り場のコーナーで立ちすくむことしかできなくなる。ダサいダサいと嫌悪していた、Aの生活感に満ちたその変なボーダーのトップスですら、もういいや、正直たまらなくえろく感じてきてしまうわけである。


というわけで、「I USED TO BE NORMAL」に出てくるファンガールの女の子たちを見ていると、まるで自分を見ているかのような気持ちになってしまう。わかるよ、わかるよ、という、「かつて(あるいは今も!)何かに全力を尽くして熱狂していたひとたち」にしか分からない、狂気にも似たあの熱狂を思い出す。経験者にしかわからないと思うけど、狂気は最高にきもちいい。そこが問題なのだ。自分を取り乱したり、自分を何かに思い切り委ねることは超気持ちいい。そして同時に、実際はそんなにいいものではない。なぜなら、狂気とはコントロールができないものだからである。「I USED TO BE NORMAL」は、その矛盾した葛藤と抗うことのできない気持ちよさについての、そして愛しているものを全力で愛し通す、その圧倒的な感受性を祝福する映画なのだ。




プロデューサー/Rita Walshへのインタビュー(2018年にNeoL掲載)
→ in English)


――ボーイバンドを追いかけるファンの物語ですが、彼女たちの人生を通して様々な問題も見える素晴らしい映画でした。この着想はどのようにして得たのでしょうか?


Rita「監督のジェシカと私は6年間をかけて本作に取り組みました。6年前はOne Directionが大人気で、監督も彼らにどハマりしていたんですね。いい年をしてOne Directionに夢中なんておかしいんじゃないかと彼女自身が思ってしまっていたのですが、時間が解決したことがあったり、そして彼らがただ魅力的だからという理由がそんな迷いを断ち切ってくれたんです。吹っ切れてからは彼女はネット上で“1D仲間”を見つけてやり取りをしていて。ネットで出会った仲間はTumblrでとても面白いことをしていたり、だんだんと監督はOne Directionだけではなく彼らのファンダム(ファン・コミュニティ)に恋をしていることに気づいたのです。その中から撮影に協力してくれるファンの女の子を見つけ、撮影を始めていきました。監督は生の感情を重視していましたし、年齢によって考え方を決めてしまうことの悲しさを表現したいと言っていました。ともあれ、One Directionから始まって、それからほかのボーイズ・バンドに拡がっていったのです」

――撮影はいつから?


Rita「最初のOne Directionファンとの撮影はロング・アイランドで2015年に行いました。Elifはまだとても若く思春期まっさかりでしたが、一緒に撮影をした4年間で大きく成長していきました。そしてSadiaというBackStreet Boysのファンの子はとても知的な子でした。というより、撮影に参加してくれたファンのみんなは“どれほどまでにハマりすぎておかしくなっているか”を自分自身で分析している知的な人たちばかり。Sadiaはブログを書いていて、私たちが撮影をしていいかと尋ねると快諾してくれました。彼女のブログは、いかにBackStreet Boys が“手の届かない存在”かということをいつも書いていて素敵でした。予算を用意して毎年同じ時期に撮影のために彼女のもとへ行来していたので、そのたびに“今はどんな感じ?”“もうBackStreet Boysはコリゴリよ/やっぱり 彼らしか考えられない”というやり取りの繰り返しでした(笑)」



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――ファミリーポートレイトやホームビデオ、コラージュやイラストを混じえてファン・ガールたちを収めていったわけですが、なぜそのようなアプローチをとったのでしょうか?


Rita「低予算で撮らなければならなかったという、必要に駆られた理由ですね。全ての機材を揃えることが出来なかったのです。しかし、それだけではなくて女子高生が使うロッカーやスクラップブックのような映画にしたかったという想いもありました。FacebookやTumblrのように時代によって表現のプラットフォームが変化したとしても、いつの時代のロッカーやスクラップブックは変わらない。面白いですよね。それが60年代であろうが現代であろうがファンというものはいつでもクリエイティヴだということと繋がっているような気がしたのです。また、私たちのお気に入りの映像の一つにはiPhoneで撮ったものもあって、本当に様々な機材で撮影もしました。オープニングのシーンはジョージアに住むファン・ガールの子が撮影したものなんです。色々な人が撮影した映像を使えたらと思っていたのですが、みんなが“私はこんな映像を持ってるよ!”と言ってくれてきて素晴らしかった。YouTubeに映像を上げている子を見つけて“これ、使わせてくれない?”ときいたらいいよと言ってくれたりね。素敵でしょう?」


――ええ、とても。おっしゃるように文化や年齢に違いがあってもファン・ガールの持つ情熱は変わらないということがとても興味深くもあり感動的でした。そして人生に問題が起きた時には、ボーイバンドへの愛をお守りのようにして乗り切ろうとしていたのも同じです。


Rita「ある意味では本当にお守りと言えますね。この作品に出ているみんなにとって、好きなグループはいつでも特別な存在なんです。彼女たちは好きなグループを通して自分自身を見つめますし、自身の成長もわかるのです。また、ファンもグループを応援する中で何か選択や決断をしなくてはならない時がきます。そしてその選択は自分で行わなくてはいけないことも学ぶのです。私もSpice Girlsでそういう体験をしました」


――この映画は人生のお守りについて描いていると感じました。


Rita「そうです。そして、オタクという存在について。この映画祭(Fantastic Fest)はホラーの映画祭だから、なぜこの作品が選出されたのかと思ったのですが、映画オタクのための映画祭だからなんですね。オタクでいることは少し恥ずかしいところがあるじゃないですか。だからこそ、この映画祭が公式サイトで出品作品について書いているレビューを見て、“あれ、この映画祭は私と一緒で映画オタクなんだ!”と仲間を見つけたようで嬉しくなったんです」


――オタク、熱中することについてというのは、私たちのクリエイティヴィティ、自由の源について描かれているとも言えますよね。


Rita「その通りなんです! そしてそれはまさしく私がBackStreet Boysのコンサートで我を失ったときに実感したことでもあるのです。Susanは“とりあえずコンサートに行って自分の内側に住むティーン・エイジャーの自分を発見して”と言っていたのですが、“楽しすぎる!”という感情が創作の根源であるということがとても大事です」




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――“I Used To Be Normal”というタイトルにしたのは何故ですか?


Rita「One Directionのファンの子の発言から引用しました。その時彼女は自分を見失っていて、バーベキューをしながら“私、何やってるんだろう? 前まで私はノーマルだったのに!(I used to be normal!)”と言って泣き始めたんです。それを見た監督は、ファンのその心理にとても悲しいものを見たのですね。多分監督がこのタイトルで言い表したかったことは“私はかつてノーマルだった……でももうそんなことはどうだっていい”と言うことだと思います。私自身そうだから。というか、ノーマルな人なんているんでしょうか?このタイトルは悲しくもあるけれど、このうえない真実なんです。この作品を出演してもらったファンガールに観せたとき、みんながとても感情的になって、特にOne DirectionファンのElifはずっと泣いていたけれど“悲しくて泣いているんじゃないの、One Directionのファンである自分が誇らしくなって嬉しくて泣いているの”と話していて。それは素晴らしいことだと思いました」


――撮影にあたっては、撮影クルーや出演者とはどんな話をしましたか?


Rita「撮影終了までどの出演者も映像を観なかったし、出演者同士で会うことはなかったんですね。撮影のJessicaは彼女たちに“私もファンだから、気にせずにあなたが思うがままに話してくれても大丈夫よ”と声をかけていました。そして違うグループ、年齢も異なるファン同士でも何らかの共通点があるのと言うのが撮影を続けていくうちにわかってきました。そしてそれが一番私たちを惹きつけた点です。一方で全く異なった側面もあることも確かで。例えば、両親の理解が得られず口論を繰り返しているSadiaのような人も中にはいました。他の出演者たちは単純にファンでいる自分を肯定できずにいるという感じでしたが、みんなこの映画のことを気に入ってくれました」


――出演者と友人のような関係になったのですね。


Rita「そう。Sadiaはプレミアで“撮影中のインタビューはセラピーみたいだった”と話していました。今まで彼女はBackStreet Boysについて多くの人に話すことができなかったから、何時間もインタビューをすることは彼女にとって心の奥底から気ままに思っていることを話せるよい機会になっていたのですね。そしてそれは彼女自身が“自分がどんな人間か?”を自己分析することに繋がっていったようです。彼女は自分自身に対しても疑り深いところがあったけれど、幸いにも監督を信頼してくれていました。私たちは彼女のことが大好き。彼女の書くブログも素敵なんですよ。そうそう、本作が日本で公開されることを私たちは心から願っているんです。だって、素晴らしいファン文化がある国ですからね。日本のファン文化についてとても興味があります」


――ジャニーズはご存知でしょうか。日本のとても大きなアイドル事務所なのですが、ジャニーズ・ファンは確実に本作と気持ちを分かち合える部分があると思います。


Rita「えっ、それってとっても面白そう。興味深いです。調べてみなくちゃ!日本で公開できる日が来ること、本当に望んでいます」


――ぜひ。次作の展望があれば聞かせてください。


Rita「Jessicaと私は心温まるようなあたたかい作品作りを続けていきたいと思っています。彼女は表現したいアイデアが沢山あるんです。今回はボーイバンドのファンを通してそういった作品を作ることが出来ましたし、今では私たちも彼女らのファンになってしまいました。この作品は出来る限り多くの方々に観ていただきたいです。ファンであるということは、すなわち何かについて真剣に考えているということ。そういったことをこれからも発信していきたいです」




text Ryoko Kuwahara
https://twitter.com/RK_interact



2018, DIR. JESSICA LESKI, 96 MIN., AUSTRALIA
https://www.madmanfilms.com.au/i-used-to-be-normal-a-boyband-fangirl-story/
https://twitter.com/boybandfangirl_

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