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text by Ryoko Kuwahara

Fantastic Fest Issue/日本未公開映画特集 : 『VHYES』 Director Jack Henry Robbins, Writer Nunzio Randazzo,Actress Kerri Kenney, Actor/Executive Producer Tim Robbins




テキサス・オースティンで開催される映画祭Fantastic Festは、大作やシリアスなムードのものよりもちょっと笑えてしまようなスプラッターやジャンルムービーに焦点を当てているのが特徴。場所柄もあり、VHSやレコードなどノスタルジックな素材や作り方にこだわった作品も多くラインナップされている。そのFantastic Fest2019年度のリストから、NeoLが気になる作品を紹介する。
3本目はVHSへの強い愛を込めて作られた『VHYES』。12歳の少年ラルフのホームビデオという体をとって始まりながら、テープに上書きされたその家で観られていたであろうテレビ番組やコマーシャルなどがミックスされていく。最初は全く関係のないように見えたいくつものストーリーすらないような記録たちが徐々につながりあっていく様は見事。ヘアメイクや衣装、プロップでの作り込み方で見せる80年代の魅力もさることながら、実際にVHSカメラで撮影されたために粒子の粗い質感からもノスタルジーが煽られ、VHSを知らない世代からは目新しく映るであろう作品。監督や製作陣のVHSへの偏愛に引っ張られて作られた一本だが、監督が語るように、クリエイションのベースに「愛/ハート」があるということはこんなにも強い。(→ in English





ーーまず、このストーリーの成り立ちを教えてください。パーソナルな作品にも思えますが、同時にレイヤードされた話の組み合わせなど素晴らしく複雑な面も持ち合わせていますよね。たくさんのセグメント化された話をどうやって結びつけていき、この心にしみる作品を作り上げたんでしょう。


Jack : ここに登場する全てのコメディの鍵となるのは、「ハート」だと思います。アホくさいジョークを作りたかったわけじゃなく、重要なのはそこに心がハートを感じられる部分があること。『VHYes』はVHSテープに記録された誰かの物語を軸として制作されていて、そこに僕たちが面白いと思う様々なものを入れ込んでいます。家族の誰かが結婚式のテープを重ね撮りしてしまってデータが消えてしまった、というよくあることを映画でやってみたというか。それらをどんどん膨らませていって完結されているんです。
僕はコメディとホラーの共通点は観客が身体的な刺激を感じるということだと思います。だから、このコメディを作っているときも最後には観客を怯えさせたいなと思っていました。そうしたら皆が予想するであろう面白おかしいエンディングにはならないでしょうから。私はフィルムの根本について描きたかったんです。つまり永遠には続かない人生、全ての事柄や全ての人生を記録するような現代社会において私たちはどのように生きるのか、そして記録したとしても本当のあなたが何者かはわからない。ここにはとても現代代的なメッセージが込められていると思うんです。私たちは、『Hot Winter』で初めて製作を共にして、サンダンス(映画祭)に行き、翌年にも『Painting with Joan』でサンダンスに出れそうです。この2本の後、私たちは「なんか他のものを作りたいよね」いう気分になり、脚本家のナンジオ・ ランダッツォと私でそれぞれ脚本を読み漁り、二人で集まってこれから何ができるかを話し合いました。


ーーこの作品は全てアナログですよね? 全てアナログの機材を使って撮影したのですか?


Jack :この作品は、全てパナソニックのVHSカメラで撮影しました。ほとんどがアナログのカメラで、デジタルベータカムも少し使いました。デジタルベータカムの機材は高いので、基本的にアナログで全てを撮影することにしています。以前に私とプロデューサーで、メカニクスと撮り直しができないというVHSでの撮影をどのようにやっていくかを話し合いました。でもそれは、私たちが純粋に映画に向き合うために求めていた要素でもあるんです。家の一番乾燥している場所には、この映画のフィルム45本を保管している箱を置いてますよ(笑)。



ーー作業していくうちに新しい機材を追加することもありそうですね。製作の際に、ご自身の決断で苦しんだ事はありますか? 逆に「最高だ!すごくいい」と思ったことは?


Jack : このフォーマットはただ指針を与えてくれたというだけで、指針はこのプロジェクトがそれていくのを引き戻してくれたり、私たち自身がメソッド・アクティング的に実際に起こったことを作品に取り入れていくような形で撮影を進めました。撮影の観点から言うと、コメディとカメラワークはより自由にできるんです。ズームやポーズの瞬間ごとにそう感じていました。セットが完璧に整っていて、解像度の高いカメラを使った現場では、このようなユニークな個性を得ることはできなかったでしょう。肩かけができる小さなVHSカメラは、メイソン(ラルフ役)に渡して使わせたりしていたので、すごく自由度の高い現場だったと思います。VHSカメラの美点にも良いときと悪いときの両方があって、それがどう出るかわからないのがまた撮影の際の面白かった点でもありました。もちろんあらかじめ計算して撮影した要素もあるんですが、とても難しかったですね。





――――ライト・ミュージックを作品内で使うことにした理由を教えてください。


Jack : 起用したLAのバンドはどちらも個人的に知っていたんです。この台本でクレイジーなのは、編集が伴っていないということ。これって、かなり特殊なプロセスですよね。どう繋ぐかわからないから、4回も違った読み合わせをしたりして。で、作品の冒頭にはパンクを入れたかったんです。アンダーグラウンドなパンクはVHSにつきものですから。Prettiest Eyesは実在のバンドで、使ったのは彼らの曲の中でも最も荒々しいものです。Weyes Blood は友達なんですが、本当に素晴らしいからぜひ曲を聴いてください! 両親のことを想うシーンには心に響く音楽が欲しくて起用しました。もしこの観点で本作にハマったとしたら、どこで観ていようと4分間のWeyes Bloodの曲に聴き入ってしまうはずです。
映画全体のミックスをするのに4日間しかなくて、最終のサウンド・ミックスができなかったんですが、どうしても心に沁みる曲がほしくてWeyes Bloodの“Generation Why”を入れました。歌詞は、自分の人生を撮影すること、それによって破滅していくことについて。この歌詞は、映画にぴったりだと思ったんです。そんなこともあって採用しました。


―――Sir handelysのアイデアについて詳しく教えてください。


Jack : このアイデアは被害妄想がひどい男を登場させる案が元です。誰かが彼をありとあらゆる方法で殺そうとしていると思っているような。例えば、野球ボールだったり、ゾンビだったり、それで彼はそれらをやられる前に殺してしまおうとするんです。30分か1時間ほどその面白いシーンがあったんですけど、カットしてしまいました。Sir handelysを演じたのは父で、彼は復讐を企んでいるんです。早送りをああいう風に取り入れて VHSの美点を引き出すことができて、かつ新しいコメディを作れるといういいアイデアでした。


――――ケリー、あなたがこのプロジェクトに出演したいと思った理由はなんですか


Kerrie : エージェントから「こんなプロジェクトがある」というメールをもらいました。私は、そのプロジェクトがすっごく面白いし、本当によくできてるなと思ったんです。彼は、「これを1時間で撮る予定で、撮影現場にはお菓子があるし君の家から近いよ」って言って出そうとしたんですよ(笑)。私は、そんなお菓子の誘いがなくても本当に個性的でよく練られた作品だと思っていたんですけどね。見事に。それで私は「オッケー!」と出演を決めたわけです。世代の違う人が80年代のVHSを使って作品を作っていくのに面白さを感じたんです。


Jack : ケリーは、面白いと思った瞬間がRikoが木を配達して,彼らがとても悲しくキスするところだって言ってたけど、あれホント?


Kerrie : そう。


Jack : あの演出はすごく難しくて、ポルノをたくさん観て研究しなきゃならなかった。


Kerrie : それは自慢しなくていいから(笑)


Tim : 『 Painting with Joan』はジャックと私が初めて一緒に仕事をした映画ですが、VHSという制約を課すことがすごく面白いと思いました。私たちの世代はちょうどインターネットが普及して、VHSは完全に衰退していました。でも、そんな時にあえてVHSを使うのは面白いなって。そのアイデアを今回の作品に繋げられたから、あのプロジェクトにはとても感謝をしています。


―――子役たちに訊きたいんですが、どのくらいここに登場する昔の引用元を知っていましたか? 


Mason : 正直にいうと映画にあったような昔の人やことについては何も知りません(笑)


Rahm : ぼくはほんの少しだけ知っていて、『Painting with Joan』がボブ・ロスについての何かということは知っていました。公式じゃない資料しかなかったけど、それで十分でした(笑)



―――(笑)。どのくらいの分量が脚本で、どれくらいが即興の演技に委ねたのでしょう?


Jack : 面白いシーンは全部私が書いたもので、つまらないシーンは私が書いていないに違いないです(笑)。私は現場でかなりオープンに考えていて。というのも、即興には余地を残すのはすごく大切なことですから。ある登場人物が子供の頃に犬にいじめられていたというシーンがありますが、私はその前日にすごく良いアイデアを思いついたんです。それは、「2人の最高のコメディアン俳優が、異なる場面なのに同じセット内で演技してたら面白いんじゃないか」というもの。私たちは同じ日に全てのシーンを撮影したんですが、その前提を元に2人は最高の即興をやってくれました。それ以外の撮影中は常に、「撮影、撮影、撮影、大声のセリフ」という感じ。即興は全ての上質なコメディの基本であると思います。普通は役者に少ししか即興をやらせないところを、私たちは大いにやらせるんです。でも、最後にもう一度言っておきますが、全ての素晴らしいコメディは私と共同脚本家が書いたものですよ(笑)



Painting with Joan from Jack Henry Robbins on Vimeo.



text Ryoko Kuwahara


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