NeoL

開く
text by Ryoko Kuwahara

Fantastic Fest Issue/日本未公開映画特集 : 『Come to Daddy』Director Ant Timpson




テキサス・オースティンで開催される映画祭Fantastic Festは、大作やシリアスなムードのものよりもちょっと笑えてしまようなスプラッターやジャンルムービーに焦点を当てているのが特徴。場所柄もあり、VHSやレコードなどノスタルジックな素材や作り方にこだわった作品も多くラインナップされている。そのFantastic Fest2019年度のリストから、NeoLが気になる作品を紹介する。2本目は、この映画祭のサポーターでもあるイライジャ・ウッドが主演を務める、これぞまさにFF!ともいうべきサスペンス『Come to Daddy』。
都会でDJ/音楽プロデューサーとしてヒップな生活を送っている主人公Norvalの元に長年会っていない父から手紙が届き、父が暮らす島を訪れるところから物語はスタートする。ハートウォーミングな再会を想像していたNorvalは、長年の空白からか探り合うような会話や横暴な父の態度にナーバスになり、眠れる夜を過ごす。疲弊し、父に不信感を募らせていくが、予期せぬ出来事から島から離れられない状況になりーー。ホラー/サスペンスでおなじみの密室劇かと思いきや、それだけでは終わらない、練られたミスリードや緊張の中にも張り巡らされたユーモラスなアイデアにエンターテインメントとしても楽しめる仕上がりに。実の父の死からインスパイアされて本作を作り上げた監督Ant Timpsonに改めて語ってもらった。(→ in English




――本作はあなた自身の経験からの着想でしょうか?


Ant Timpson : ええ。私の目の前で父が亡くなった出来事は、大きなトラウマになっています。これは作品内でも描かれている出来事です。でも、私は叫んだりはしませんでしたけどね。まるで映画でも観ているように感じたんです。父の遺体が病院から自宅に戻って来た時の1週間は特にそうでした。家族が忙しくしていたので(葬儀の準備まで)、私は父の遺体と家でテレビを観たりして何日かを過ごしました。そんなことはもちろん初めての経験だったので、私は取り乱していました。遺体は気持ち悪くて、その遺体によって自分がおかしくなっていくような感覚があって。あの1週間はとんでもなくシュールでしたね。遺体に関して私がその時思ったのは、奇妙で気持ち悪いけど、同時に美しいということです。弔問客が家に来て、死体に向かって「よお、元気?」「久しぶり」「遠くから会いに来たんだよ」と話しかけるんですよ。そして聞いたこともなかったような父の生前のクレイジーな過去について語っていく。それはクールで面白い体験でしたが私はちょっと混乱してしまって、短期間ですっかり歳をとった気分になっていました。それをキャラクターに反映させました。そして父と遺体とその1週間にインスパイアされた映画を作ろうと思ったんです。
共同脚本家のトビー・ハーバードとは父親についての考えなどに共通点があったので、構造について議論することができました。たくさんのアイデアを一つの作品にしなければならないし、ストーリーも壮大だったのでたまに喧嘩もしましたね。キャラクターについては、私の父に当たるような遺体と過ごす必要があったわけですが、イライジャ・ウッドはクレイジーなシュールレアリズムが好きなので脚本を読んですぐに賛成してくれました。「いいね、やろう!」と言った感じで驚くほどスムースに彼との仕事が始まったわけです。

――これまでに他の映画のプロデューサーとして人々の夢や作品をサポートして来ましたね。そして映画のプログラマーでもあります。キャリアが始まって30年ほどになりますが、ここにきて初めての長編映画を作るとはすごいことだと思います。


Ant Timpson : ありがとう。ただ精力的に活動していきたいというだけですね。





――主人公のNorvalはひとつの場所に強制的にとどめ置かれるわけですが、映画祭で飛び回っているあなたも同じような経験がありますか?


Ant Timpson : 私はやはりこうして映画祭などで人に映画を観せるのが好きなんですよね。プログラムやプロデユースしたショートフィルムのストックがたくさんありますが、映画製作は時間がかかるものです。その製作の前にいくつもの作品をいつでも走らせられるような状態にしておいて、実質的な作業は短期間にしたいので常に忙しくなってしまう。この8月にトビーとロンドンで一緒に制作をしていたので、それが次回作となると思います。裏側の人間だったのにすっかり夢中になって常に制作しています。突然映画作りをやめさせられたらとんでもなく憂鬱になるでしょうが、今のところはそういう状況に陥ってはいません(笑)。


――イントロダクションでの言葉について教えていただけますか。


Ant Timpson : 私は囲繞がすごく嫌いです。もし映画の冒頭で囲繞が出てきたらイライラするでしょうね。でも私たちの映画はエンタメではないので、冒頭のつかみになればと思って入れました。


――Michael Smileyを起用したのはなぜ?


Ant Timpson : 私が起用しました。おかしな役をよくやりますが、素晴らしくインテリジェントのある俳優ですよ。





――今回『ビバリーヒルズ・コップ3』にも出演するようなカナダ人のベテラン俳優であるスティーヴン・マクハティを起用しました。彼は、たくさんの映画に出演していますよね。役の印象が強烈でしたが、オンラインのトロント映画祭の彼のインタビューを観たら彼はとても誠実ですね。


Ant Timpson 彼は非常に賢く、作品内で何を求められているのかをよく理解しています。レジェンドですね。一緒に出かけることもあります。彼にセールスマンのように作品を売り込みに行ったのですが、彼は私から目をそらず、私も目をそらしませんでした。そのまま黙って立ち去ったんですが、きっといい映画になるとその時に確信したんです。



――ガーフィールド・ウィルソンはどのようにして見つけたのですか。


Ant Timpson :バンクーバーでのオーディションで見つけたんです。ニュージーランド、バンクーバー、アメリカの3つのプロダクションに所属していることもあって、彼は際立っていました。私は脚本でそれぞれのキャラクターにクレイジーなバックグラウンドをつけたんですよ。例えば、それぞれの出会いの場がバンコクのバーとか。彼はキャラクターが持つクレイジーなバックグラウンドに上手く入り込んでくれそうな気がしました。あと、彼にピチピチの服を着せてみたかったんです(笑)。彼のような役は何かを観たものの記憶に残してくれるような気がします。


text Ryoko Kuwahara




1 2

RELATED

  • FEATURE
  • REGULAR

TOPICS