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text by Ryoko Kuwahara
photo by Yuri Inoue

OKAMOTO’Sのアドレス帳 Vol.37 ORDER of THINGS Hiroshi Fujiwara x オカモトコウキ

 


OKAMOTO’Sのメンバーが友人はもちろん、憧れのアーティストなどをゲストに迎える対談企画。オカモトコウキがホストを務める第37回目は、Hiroshi Fujiwaraが登場。「ORDER of THINGS」として“Mind Roaming”“Sixth”を3月24日にリリースした二人がどのような経緯で制作に至ったのか、その背景から楽曲について、これからの活動の展望について話を聞いた。
 

――『NO MORE MUSIC』のリリース時の対談(https://www.neol.jp/culture/59444/)でコウキくんが作る曲が好きだとおっしゃっていましたが、ついに新しい動きが始まるということでおめでとうございます。いつ頃から一緒にやろうという話をされていたんですか。
 

コウキ「急でしたよね」
 

HF「うん。コロナじゃない?」
 

コウキ「そう、コロナで自粛していて家でなにもやることがないというタイミングに、ちょうどヒロシさんと連絡をとっていて、『曲つくる?』という話になって」
 

HF「最初の緊急事態宣言のときって、本当に誰も外に出ていなくて、僕も出てないし誰も来ないから人に会うこともなくて。それで新しいキーボードを買って、パソコンをリビングに持ってきて音楽をやりだしたんですよ。1ヶ月くらいで飽きちゃったんですけど、ちょうどそのつくってる時にやりとりしてたんです」
 

コウキ「曲をつくるとなってすぐ、ヒロシさんが家に来てくれたんです。ヒロシさんが家に来る絵がにわかには想像できなかったんですけど、普通にいらっしゃって楽しく曲作りをして帰って行かれました」
 

HF「身軽ですよ、僕(笑)。2回くらい行きました。そこでベーシックを作って、持ち帰って色々やって」
 

――スタジオにいらっしゃる前なり、いらっしゃった時なり、どういう曲を作ろうかというお話はされたんですか。
 

コウキ「うーん、そんなにしてないです。そのときに僕がつくっていた曲を送ったりはしました」
 

HF「僕はコード進行みたいなものを持っていって」
 

コウキ「こういう感じでというのを聴かせてもらって、その場で録音して歌をつけて、本当に即興でだんだんできあがっていった感じです」
 

――コード進行を持ってきたということはヒロシさんの中でそのときに作りたいイメージがあった?
 

HF「リズムボックスを使ってとか、そういう感じの雰囲気はありました」
 

コウキ「プレイリストを送ってくれましたよね。ディスコの曲じゃないんだけどディスコっぽさを感じさせるようなプレイリストをヒロシさんが自分でつくって送ってきてくれて。他にもプレイリストを持ってきてもらいました」
 

HF「そうですね。でもOKAMOTO’Sの中でも聴いていてこの曲いいなと思ったらコウキくんのものだったり、ソロも聴いて、ことばは軽いけど、シティ・ロックという感じですごくよかったんですよ。だからその延長上でなにかできるかなというのがありました」
 


 

――ただこれはコウキくんのソロの曲ともヒロシさんのソロとも違う仕上がりになっていますよね。
 

コウキ「うん、ちょうど半分半分になってますよね。僕はほとんどショウさんとしか共作したことがなくて、バンド外での共作はこれが初めてだったんですよ。こんなに全く違う感じになるんだというのがすごくおもしろかったです」
 

HF「すごくスムースにできたよね。本当にはやかった。ギターを弾いてコードを書いて伝えたら、その場でコウキくんがギターを弾きながら取り込んでいってできたので、1日目の3、4時間くらいでベーシックはほぼ2曲ぶんできた。あとは送られてきたデータを僕が変えて、コードを入れ替えて送ったりしてました」
 

――スムースだったのはお互いの好きな感覚が似てたから?
 

コウキ「ヒロシさんが提案してくれることでそれはちょっと違うなと思うことがなにもなくて、めっちゃいいですねって感じで、ノリノリで曲をつくれたんです」
 

HF「スタジオでコウキくんがパソコンに向かって座ってるから、僕は自然と近くのソファに座ったんですよ。座って一応持って行ったギターを弾いたけど、僕がギターで弾いたコードもコウキくんが自分のギターで入れてくれるから、僕は今回のレコーディングで何もすることはなかった。ただ注文しておけばいいんだってすぐに気づいて(笑)」
 

コウキ「注文というか、ジャッジをしていただいたという感じです。方向転換する際にも、ヒロシさんのジャッジがあまりにはやいんで、『えっ?』となってとりあえず直すんですけど、後になって聴き返して、あ、やっぱり直したもののほうがいいと思った瞬間が何度かあります」
 

――ある種、プロデュース的な学びもありそうですね。今回の2曲はそれぞれにテイストが違いますが、どちらの曲もジャンルで括れない仕上がりです。“Mind Roaming”のサウンドもメロディとまた別の距離感で鳴っていたり、ディレイでの空間のつくりかた含め、いろんな要素がからみあっているので、どういう制作過程を経たのか、もう少し詳しく聞かせてください。
 

HF「僕は基本的に最初のコードとかそういうのだけで、雰囲気を伝えて楽器を演奏したり打ち込んだのはほとんどコウキくん。プラス、シュンスケくんが最後の味付けをしてまとめてくれた。でもコウキくんのデモがあがってきた時に、変な浮遊感のあるギターのようなものはすでに入っていました。途中の転調するところだったり、ギターのフレーズは全部コウキくんの中から出てきたもの。ギターソロもすごくいいですよね」
 

コウキ「ヒロシさんがタイのNumchaというシティポップの人たちを教えてくれたんですけど、その人たちの楽曲がすごく好きだったんです。浮遊感のあるギターでドラムはわりとバキッとしてるサウンドで、ギター類はNumchaっぽい感じにしたいなと思ってました」
 




――膨らませていく中で、Numcha以外にはどういうものが頭にありました?
 

コウキ「自然に流されていってるみたいなつくり方だったんですよ。バンドでやってるときって、シングルをこのタイミングでリリースして、こういうタイアップがついてという感じで狙いを考えてつくることが多いんですけど、今回はそういうことを全く考えずにつくれたのが新鮮でした。自分でもどういう風な到達点になるのかわからないし、ヒロシさんもどういう風な到達点に持っていきたいのかわかりきってない。そういう状態で、二人で付け足したり、引いたりしていったら、こういう風になっていたという不思議なできかたでした」
 

HF「一人でリーダーシップをとってやっていると煮詰まるというか、これでいいのかなと何度もやり直して変に悩んだりしてしまうのが、二人だと『こんな感じでいいんじゃない?』と言うと、『あ、それいいですね』となって、返ってきたものに対して、それがいいんだったらこれもいいなって肯定的な要素が積み重なる。一人でやるとわりと否定的な方にも入っちゃうんですけど二人だと肯定で進むんです」





――なるほど。そこにのせる歌詞はどういう形で進んだんですか。
 

HF「コウキくんがなんとなくフレーズ的な頭の詞を作って、そこからストーリーを付け足していきました。歌詞も行って返ってというやりとりをして」
 

コウキ「ヒロシさんがどんどん奥行きをつけてくれて。ヒロシさんの歌詞、めっちゃかわいいですよね」
 

HF「でも歌詞は基本的にはコウキくんが書いてますよ」
 

コウキ「そんなことないですよ。半々くらいじゃないですか」
 

HF「最初の書き出しがコウキくんだから、僕はそれに寄せていった」
 

コウキ「書き出しはそうですね。一緒に膝を突き合わせてどうしようと考えたというよりは、交換日記じゃないけど、僕が書いて、ヒロシさんが書いて、さらに僕が付け足してって感じでつくっていきました」
 

――てっきりヒロシさんがリードした歌詞だと思っていました。ORDER of THINGSはフーコーの『言葉と物:人文科学の考古学(英題:Order Of Things)』からきてるのかなと思ったんですが、“Mind Roaming”のコロナ禍での歌詞が、書の中の「人間は波打ち際の砂の表情のように消滅するだろう」と一致しているように感じたので、名付け親のヒロシさんが書かれたのかと。
 

HF「そう、藤原とコウキでフーコーかあと思って、ORDER of THINGSと付けました。この由来は秘密だったのにバレちゃった。でも歌詞の“どこまでも潜れたら”というのはコウキくんなんですよ。なにか危ないことやってそうな歌詞ですよね(笑)」
 

コウキ「(笑)。自粛期間中に何もやることがなくて、それこそ会う人は家族とヒロシさんだけみたいな感じになって、でも音楽を作るのがすごく楽しくて、新しい音楽を聴いたりつくったりしていたんです。聴いてた音楽を作った人はもう死んでる人も多くて、年代とか関係なく音楽は行き来しているけど、一方で自分はずっと家の中にいるという状態について考えたときに、幽体離脱状態のようなものかもしれないなと思って、そういう歌詞になりました。“Sixth”も元々は“Six Sense”というタイトルをヒロシさんが考えてくれてたんですけど、ヒロシさんとその場で考えた透明人間の話なんです。どちらもそういう気分が反映されているのかもしれないですね」
 

――“Sixth”も書き出しはコウキくん?
 

HF「二人でだったのかな?」
 

コウキ「そうですね。こっちのほうがより二人の共作での歌詞になってると思います。曲の落とし所を最終的にこうしようという風に書くんじゃなく、まず言葉のハマりがいいからとりあえずこれを置いておこうというところから、付け足していきました」
 

――読みようによっては愛の話でもあり、ホラーにも思える歌詞です。
 

HF「ホラーですよ。最終的に死んだことにしようと言ったのは僕です」
 

コウキ「そうすることでファニーな感じが出ました(笑)」
 




――“Sixth”も最初に音があって歌詞ができてるんですよね?
 

HF「そうですね」
 

――こちらも最初にヒロシさんがコードを持ってきてというところから始まってるんですか。
 

HF「両方とも最初のコードは僕からです」
 

コウキ「最初はストレートなボッサの曲だったんですけど、途中でサイケデリックな展開にしたり、変な混ざり具合をさせたいなと思ってひろげていきました」
 

――そうやってコウキくんから戻ってきたものにヒロシさんも嫌な感じがなく。
 

HF「全くないです。もちろん自分にはないものだから、さっきも言ったように肯定的な積み重ねばかりで」
 

コウキ「僕も、自分にはなかったけどそれは好きだなというものに気づかされる場面が多かったです。ボッサは初めてだったけど、もともとブラジルの音楽がすごく好きなので楽しかったし」
 

HF「あのコード進行もコウキくん一人だったらやらない?」
 

コウキ「やらないと思います。もっとこねくり回しちゃうかもしれないし、今回のプレイは影響されながらその具合になっていたと思うし、曲も自分じゃやらないものだからそれがよかったです。“Mind Roaming”のドラムもまさにそれで」
 

HF「最後の最後でドラムだけ僕が全部入れ替えたんです。リズムの音とかも含めてJ-POPっぽい感じだったので」
 

コウキ「最終的にいまの仕上がりはローファイな感じになったんですよね。(変更して)最初に聴いた時に、前のやつも良かったんだけどなって思ったんだけど、何回か聴いてたら変更した意味がわかったんです。前のドラムはあまりにハマりすぎてて、作り込んだ感じもするんだけど、作り込んだ感じがするんだったらもっと全体的に作りこんだサウンドの方がいいと思うし、ラフな楽器演奏も入ってるからドラムもラフに外していったほうが感覚的に格好いいじゃないかというジャッジだと解釈したんですけど、そういうことでしょうか」
 

HF「そうですね。聴いていたらアレンジャーが無理してやってる打ち込みの感じがちょっとして。いろんな音が入っちゃってたからもっと抜きたいなと思って、ちょっとずつ抜くよりもいっそやり直した方がいいということで変えました。周りのドラムに合わせてベースとか弾いてくれてるんで、ノリがいま入れてるドラムとわりと違うんですけど、それもリミックスっぽくていいなって」
 

コウキ「本当にいいブラック・ミュージックのレコードと、ヒップホップのわりと乱暴なローファイ・ビートみたいなものを同時に7インチで鳴らして、それがすごく格好よく聴こえるみたいな仕上がりになってる。ドラムはわかりやすい例ですけど、その感じは全体にあって。自分が盛って、わかりやすくこうした方がいいんじゃないかなというのを、ヒロシさんはシンプルに入ってるものが入ってるという風にしてくれて、それがすごくよかった。自分が10年間バンドをやってて、知らず知らずのうちにちょっとJ-POP脳みたいなのになってたのかもしれないなと気づかされました」
 

――実は攻めてる2曲ですよね。
 

コウキ「そう、静かに攻めてるんです」
 


 

――それぞれに制作中のやりとりで一番印象に残っていることは?
 

コウキ「曲をつくってる時に、ヒロシさんがすごいスピードでその曲にピッタリくるビートを『これはどうですかね』って出してきた瞬間があって、やべって思いながら『めっちゃいいっすね』って言ったら、ヒロシさんが『一応元 DJなんで』っておっしゃって。しかもめっちゃいいやつをいきなり3個くらい出してきて、『一応元DJなんで』って。あれは結構よかったですね(笑)」
 

HF「ネタをいっぱい持ってる(笑)。それはコウキくんの家に行ったときだよね」
 

――ヒロシさんの印象に残った出来事は?
 

HF「コウキくんの家までの距離感を舐めてたなってことですかね。わりと近いと思ってたら、高速をおりてからが意外と遠かった(笑)。でもすごく楽しかった。二人いたらササッとできるというのがわかったので、今は2曲なんですけど、あと2、3曲すぐにできそう」
 

――この2曲に限らずORDER of THINGSは続くと。
 

HF「そうですね。ORDER of THINGSって名前は結構よかったけど、今のところ完全に名前負けしてるので続けて盛り返さないと」
 

――そういえば、コウキくんのスタジオには2回行かれたんですよね? その2回目は?
 

コウキ「2回目はつくった2曲の仕上げと、さらにもう1曲を半分くらいまでつくりました」
 

――種がもう手元にあるんですね。ではまたすぐに大人の交換日記が始まる。
 

HF「交換日記より行きたい。とりあえず行って、ある程度できてから交換日記にします」
 

コウキ「楽しみです!」
 


 

photography Yuri Inoue
text & edit Ryoko Kuwahara
 


ORDER of THINGS
『Mind Roaming / Sixth』
3月24日より配信
ダウンロード&ストリーミング -配信限定- 
https://smej.lnk.to/JaNPWm
http://www.okamotos.net/orderofthings/
(Sony Music Artists)
 

藤原ヒロシ
80年代よりクラブDJを始め、1985年TINNIE PUNXを高木完とともに結成し、 日本のヒップホップ黎明期にダイナミックに活動。 90年代からは音楽プロデュース、作曲家、アレンジャーとして活動の幅を広げ、 近年はバンドスタイルでの演奏活動を行っている。 ワールドワイドなストリートカルチャーの牽引者としての顔も持ちファッションの分野でも若者に絶大な影響力を持つ。
https://www.instagram.com/fujiwarahiroshi/
 

オカモトコウキ
1990年11月5日東京都練馬生まれ。中学在学時、同級生とともに現在のOKAMOTO’Sの原型となるバンドを結成。2010年、OKAMOTO’Sのギタリストとしてデビュー、結成10周年となった2019年には初めて日本武道館で単独ワンマンライブを成功させ、初ソロアルバム「GIRL」をリリース。アグレッシブなギタープレイとソングライティング力は評価が高く、菅田将暉、関ジャニ∞、PUFFY、Negicco、小池美由など多くのアーティストに楽曲を提供。またPUFFY、YO-KING、ドレスコーズ、トミタ栞、堂島孝平、ナナヲアカリなどのライブでのギターサポートも行なっている。ソングライティング力を生かしバンドの中心的なコンポーザーとしても活躍。テレビ東京ドラマ25枠の2021年1月期にて2作品連続でのタイアップを引っ提げ1月27日に「Young Japanese」2月24日に「Complication」と2カ月連続でシングルを配信リリース、3月19日には同2曲の英語ヴァージョンを配信リリースするなど精力的に活動を続けている。
http://www.okamotos.net

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