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「最後のソロアルバムにしてもいいと思えるくらい確固たるものができたし、忘れられない時間が詰まってる」 オカモトコウキ(OKAMOTO’S) x 大林亮三(SANABAGUN./Ryozo Band)『時のぬけがら』インタビュー




楽器演奏からプロデュースまで全てひとりで作り上げた初のソロアルバム『GIRL』(2019)から2年、待望のソロアルバム第2弾『時のぬけがら』が完成。 複数のクリエイターとコラボしながらじっくりと練り上げられた今作は、コロナ禍の空気感を反映しつつも、楽曲の約半数を共作したSANABAGUN./Ryozo Bandの大林亮三によって比重を増したジャズやレアグルーヴ、ファンクなどの要素を鏤めながらもオリジナリルに昇華し、前作にも通じるどこかノスタルジックなメロディを絡めた、実験性とポップさを兼ね備えた名盤。オカモトコウキと大林亮三の2人による共作はどのように始まり、形となっていったのか。


――前作『GIRL』は全てひとりで作り上げたのに比べ、今回は様々なアーティストとの共演があり、中でも亮三さんは大きな比重を担っています。


コウキ「共作している曲は半分くらいなんですけど、共作してない曲でもアレンジメントや演奏をしてもらったりとほぼ全編に渡って関わってもらっているので、僕はこのアルバムの共作者だと思ってます」


――そもそもの共作のきっかけは?


コウキ「最初のきっかけは2019年のショウくんの生誕祭です。以前に対バンはしていたもののちゃんと喋ったことはなかったんですね。その時に『GIRL』の音源を渡すことができて、亮三さんも俺にRyozo Bandの音源をくれたんです。そしたらすぐに『アルバムのここがすごくよかった』って連絡がきて。音楽性も結構違うし、そこで引っかかってくれると思ってなかったから嬉しかったな」


大林「コウキくんもRyozo Bandの音楽をすごくいいって伝えてくれて。趣味的要素が強いことをやってる曲たちをいいと言ってくれて嬉しかったし、コウキくんのアルバムも車でドライブしながら聴きまくるくらい本当に好きだったんですよ。正直、いつも海外の音楽ばかり聴いてて国内のものはあまり聴いてないんですけど、コウキくんのソロは本当によかった。その時に自分が求めていたサウンドの核となる部分を持っている人だと思って、そう伝えました。具体的には、2019年はイギリスの音楽シーンでR&Bやジャズが盛り上がってて、それをすごく好きで聴いてたんですね。アメリカのR&Bとは違うノスタルジックな歌心があって、歌ってるアフリカ系やジャマイカ系の人々のルーツミュージックでありつつ、どこかビートルズ感みたいなものが感じられた。コウキくんのアルバムを聴いた時にもそういうUK感のようなものを感じたんです。自分はずっとUSのブラックミュージックが好きだったけど、それとコウキくんの歌心を合体させたらヤバいものが作れるんじゃないかなって。かつ、楽曲の構成とかも自分のアイデアにはないものを持っていた」


コウキ「僕もまさにそうだった。前のアルバムを作っていて自分のリズムの面でもう少し手を入れたかったし、自分のルーツから外れてはいないんだけど表現できていなかったブラックミュージックのグルーヴやベースの入れ方だったりを強化できたらまた新しいところに行けるんじゃないかなと思ってたので、お互いになかった部分をうまく補いあえるような気がして。会ったその日に一緒に曲を作ってみようとなってすぐに1曲できて、それが“WORLD SONG”。この曲ができた時に、聴いたことがないようなものができたって感じがあったよね」


大林「あったし、早速自分がコウキくんに求めてたエッセンスだったり、自分がやりたかったことを反映できた。あれは自分の中のUKというか、すごく好きなUKのレゲエバンドThird Worldのリズムを参考にしてたりしていて。それを送ったら、まさに求めていたメロディが返ってきた」


コウキ「俺はクラッシュとかの、パンクバンドなんだけど3枚目くらいからレゲエやりだすみたいな、あの感じがやりたくて。そういうイメージで作ったら合致したんだよね。あれで、2人の折衷感というか、こういう混ぜ具合がいいんじゃないかというのもわかりました」





大林「そこから一緒に飲んだりセッションしたりするようになっていく中で、近い音楽が好きだとわかって。僕も10代の頃にパンクやクラッシュも好きだったから盛り上がったし」


コウキ「同じところから分かれていった感じがした」


大林「俺が一番アガったのはAzymuth(ブラジル出身のトリオ)の話」


コウキ「共通点としても重要だったのが、2人ともブラジルの音楽が好きだったことで。マルコス・ヴァーリという長いキャリアを持ってるブラジルのミュージシャンが好きで、そのバックを務めていたバンドのAzymuthもすごく好きだったんです。俺、Azymuthを好きな人と初めて話したよ(笑)」


大林「俺は20代前半の頃ずっとレコード屋で働いてたのもあって結構聴くものが偏ってるんです。でも今はバンドをやってるからその目線を封印してたところもあったのが、コウキくんにはAzymuthの話が通じて、ウワッ!いたわ!って(笑)。しかもAzymuthのTシャツを持ってるって言うし、俺はそのドラマーのTシャツを持ってて」


コウキ「Azymuthのデモ集を買うとついてくるTシャツがあったんですよ。ワンサイズしかなくて、僕には大きかったからなんとか着れるようにしようと思って改造したらピチTみたいになっちゃって(笑)。そのTシャツを他で唯一着ていたのがMUROさんというね」


大林「そうだった(笑)。Ryozo Bandはデビューする時にMUROさんにプロデュースしてもらったんですよ。そこから広がってラッパーのサポートをさせてもらうようになって、SANABAGUN.と同じイベントになって今に至っていて。それが巡り巡ってAzymuthの話ができたからめちゃくちゃアガった。今回の先行配信で2人の組み合わせが意外だったという声もあったけど、俺的には必然でした」





コウキ「話してて共通言語が多かったし、曲を作ってて違うなと思う瞬間が一回もなかった。曲を作ってるというより、自分の好きなものをお互いに見せあってる感じだったよね」


大林「そうだね。コウキくんと制作してたら懐かしい気持ちになるんですよ。純粋に好きなものを聴かせ合ってた地元での感じ」


コウキ「初期衝動というか、無邪気に何も考えずに作ってた頃に戻ったような」


大林「アルバムにもそのピュアな気持ちが入ってると思う」


コウキ「そういう意味でも共作アルバムだよね。2人で作った曲は15曲くらい、僕が単独で作った曲も同じくらいあって。単純に曲だけを作っていた段階でいうと、もっと実験性に振り切ったものが多かったんですけど、それを最終的に僕が選曲して、製品としてはこういうものがいいんじゃないかなとまとめ上げて。先行配信には“君は幻”や“SMOKE”を当てたけど、そこで聴きやすいなと思ってアルバムに足を踏み入れた人が1曲目の“Time”でぶっ飛ぶ展開になってくれたら一番いいなと思います。入り口は広いけど中は深い作品だから」


大林「俺は “Time”のコウキくんの歌がめっちゃ好きなんですよね。“Time”はブラジルがテーマなんですけど、サビの3行目の『ある地点に』というところがポルトガル語っぽく聴こえるし、あそこで使ってるブラジルのパルチードアルトというリズムにも合ってる。そこがすごいし、面白い。もしアルバムに”Time”が入らなかったら自分のバンドで出したいと思ってたくらい好き」


コウキ「Ryozo Bandヴァージョンも出してよ。 “Time”は今現在の時間は過ぎていくけど同時に過去も未来も存在しているというようなことを歌っていて、今作を一番象徴してる曲なんです。このアルバムではとにかくコロナ禍から最近に至るまでの空虚なムード、つまり『時のぬけがら』というものをパッケージングしたかったんですよね。ライヴなど外部との接触がなくなってフィジカルでは全く動いてない中、僕と亮三さんは毎日オンラインで時代も場所も様々な音楽を交換しあっていたのがすごく不思議だった。その地に足がついてない感じは歌詞の面でも反映されているし、音楽的にも歌詞的にも、聴いたらあの時期のことを思い出せるようなものにしたかった。でも狙って作ったわけじゃなく、自動筆記に近いというか、あの空気に書かされていつのまにかアルバムができていたという感じです」


大林「あのコロナ禍の2人の生活感が詰まってるよね」


コウキ「うん。こんなに純粋に時間をかけてピュアに音楽を楽しんでやれたことはなかったし、同時にざわつきや虚しさだったり、ここからどうしていけばいいのかという気持ちもあって。それを振り払うために必死になって作るというループ。その時はまだこの曲たちがどうなるか決まってなかったけど、とにかく曲を作るという一本柱があったからこそあの時期を乗り越えられたなと思います」


大林「俺もあの時期にオカモトコウキという人とクリエイティヴに集中できる環境があったことはすごい幸運だったと思う」


コウキ「実は作ってる時はこれを最後のソロアルバムにしてもいいと思ってたんだよね。そう思えるくらい確固たるものができたし、本当にこのアルバムは忘れられない時間が詰まってる。隼太くん(小杉隼太、HSU/Suchmos)がいなくなってしまったことも含めて。彼とはこのアルバムの話もしていて、デモを聴いていいねと言ってくれていたし、もしチャンスがあったら参加してもらいたいって亮三さんたちとみんなで一緒に会ったりしてたんです。最後に会ったのがアルバムを作り始める直前だったから、その喪失感も歌詞に影響していると思います」


大林「コロナということもあって、本当にいろんなドラマがありました。バンドライフと別の、ありのままの俺らの生活が入っていて、できた時にはグッときた」


コウキ「グッときたね。泣いちゃうかと思った」





大林「でも制作は本当に楽しいことだらけでした。合宿もすごく楽しかった」


コウキ「亮三さんが紹介してくれた、全編で叩いてくれてるカール・グッチという若いドラマーと3人で泊まりでレコーディングしたんです。彼はまだそんなにいろんな所で叩いてるわけじゃないし、レコーディングの経験もあまりないから、『もう1回やったらうまくいくかもしれないです』って10回くらいやるんですよ。この感じ、OKAMOTO’Sが19歳くらいの頃とかにあったかもって懐かしかった」


大林「グッチはナイスキャラだし、素晴らしいプレイだったね。普段はレゲエ界隈やアフロビート界隈で叩いてるんですけど、最近のUKのジャズシーンも好きで、コウキくんと話してた時に彼がいいんじゃないかと閃いたんです」


コウキ「前のアルバムはOKAMOTO’Sの延長線上だったけど、今作はOKAMOTO’Sと全く離れたところでやってみたかったこともあっていろんな初めての人に入ってもらいました」


ーーヴァイオリンなどの要素も新しいですね。


コウキ「GOOD BYE APRILというバンドの倉品(翔)くんが今作のポップサイドの役割を整理してくれてるんですが、彼が連れてきてくれました。 GOOD BYE APRILは2年くらい前に初めて聴いたんですけど、すごいいいバンドで、シティポップとか、オアシスやビートルズ的な音楽をやってるんです。そのヴォーカルの倉品くんとBRIAN(SHINSEKAI)を通じて知り合いになって、今回のアルバムでも色々お願いしています」


大林「倉品くんは合宿にも来てくれて。今回コウキくんの周りの人と触れ合う機会が多かったんですけど、みんなめちゃくちゃいい人たちで、人間関係的にもいいケミカルが起きてたし、ずっと腹抱えて笑ってた」


コウキ「肩を組んでみんなでやってた感じがあるよね。“蜃気楼”には澤(竜次)がいるのもアツい。やっぱり『澤竜次!』ってギターなんですよ。ああいう自分の色がある人は素晴らしいなと思いました」


――“蜃気楼”には(マスダ)ミズキさんも参加されています。


コウキ「シンセとアレンジ周りにもちょっと入ってもらいました。俺と亮三さんが作った曲で澤竜次がギターソロを弾いて、マスダミズキがアレンジをやるという、時空と人間関係を超えた曲(笑)」


大林「大作だよね(笑)。制作過程で言うと、これは一番予想外な返しがきた曲。最初にチャイルディッシュ・ガンビーノをイメージしたようなTR-808(リズムマシン)を効かしたミドルテンポのソウルっぽいものを送ったら、ニューウェーヴが入って戻ってきて。ここまでいくならとことんやりたいなってアフロビートを入れて」


コウキ「あのアフロビートの感じは、レディオヘッドの曲の途中の展開が浮かんだ」


大林「ああ、いいね」





コウキ「2人とも色々違うことを考えてたかもしれないけど、格好いい曲になりました。この曲が一番好きという人が多いんですよ。ミズキちゃんもレイジさんもこの曲が一番好きだって。ショウさんは“Time”が一番格好良かったと言ってました。ハマさんからはまだ感想をいただけてない(笑)」


大林「ああ、やっぱりその選曲にもみんなキャラが出てる(笑)」


コウキ「SANABAGUN.のメンバーが聴いてどう思うかも気になる」


大林「聞いておくよ」


コウキ「たまたまだけど、最近SANABAGUN.とOKAMOTO’Sが公私共々にズブズブの関係になってて。ハマくんと一平くん(澤村一平/Dr)がチームみたいになってるし、この間の木村カエラさんのライヴもSANABAGUN.の亮三さん抜きって感じだったよね(笑)」


大林「ハマくんがSANABAGUN.のメンバーを大好きだから(笑)」


コウキ「バンド内でディレクションをとるのは誰なの?」


大林「場面によるんだよね。気合を入れたり締めてくれるのは遼(高岩遼/Vo)だし、冷静なことをスパッというのは一平や大河(谷本大河/Sax、Fl)」


コウキ「役割分担は自然と出てくるよね」


大林「うちは係制だから特にはっきりしてる。係制を提案したのは一平なんだけど、彼は建設的な考え方をするし、本当にナイスアイデアだった。今まで全部8人でやろうとしたからグチャグチャになっていたのを係制にして整理できたから」


コウキ「亮三さんは曲係?」


大林「そう、制作係。ライヴ制作は一平で、展開を考えたり、ディレクターとやりとりもする」


コウキ「ハマくんもライブ制作や企画を考える係」


大林「2人がハモるのもバンド内で同じ役割というのもあるんだろうね」


コウキ「俺らも制作係同士だもんね」


大林「レイジ君は何係なの?」


コウキ「エッジーな係というか、ある意味OKAMOTO’Sがいわゆる邦ロックみたいな落ち着きのあるロックバンドに行かないようにする係かな」


大林「重要だね。SANABAGUN.で言うと紘一(高橋紘一/Tp)がグッズを作ったり衣装を考えたりしてるけど、その2人も仲良いし」


コウキ「バンドの顔のショウさんと遼くんもわりと繋がってて」


――お互いに同じ係の親近感もあれば苦悩も分かち合えるからそれぞれがクロスしてるんですね。


コウキ「そうですね。バンドのこともよく話すし」


大林「コウキくんと一緒にいる時に『今SANABAGUN.の新曲を送ったんだけど、みんないいねしか返してこないんだよ』と言ったら、返ってくるだけいいじゃんって(笑)」


コウキ「本当にそうだよ(笑)」


大林「それだけメンバーに信頼されているんだなって。それがバンドの先輩って感じでした」


コウキ「こっちも信頼してるからこそメンバーに聴かせる時は緊張感があるんです。リスナーとしてもすごいことを知ってるから、ダサくなったなと思われたくないじゃないですか。だから緊張しながら送るのに、返ってこなかったりする(笑)。今作はちゃんと感想をくれましたけどね」


大林「嬉しいな。これは本当に名盤だと思うし、多くの人に聴いてもらいたい。ここに入ってないものでもいい曲がかなりあるから仕上げたいね」


コウキ「そうだね。Ryozo Bandヴァージョンの“Time”も楽しみだよ。インストでも成立する曲だし、どうなるのか」


大林「コウキくん、歌ってよ」


コウキ「もちろんいいよ。いつでも呼んで」





photography Asami Nobuoka(https://www.instagram.com/asmnbok/
text&edit Ryoko Kuwahara(https://www.instagram.com/rk_interact/
special thanks good junk store Brother(https://www.instagram.com/goodjunkstorebrother/



オカモトコウキ(OKAMOTO’S)
『時のぬけがら』
2022年4月27日(水)発売
(Sony Music Artists Inc.)
https://www.okamotos.net/okamotokoki/tokinonukegara/


LIVE
2022年6月5日(日)@WWW X
オカモトコウキ(OKAMOTO’S) / おとぎ話 / O.A:東京少年倶楽部
https://www-shibuya.jp/schedule/014437.php



TAIKING(Suchmos)×オカモトコウキ(OKAMOTO’S)
「Between You And Me Vol.1」
【東京】
2022年7月5日(火)@キネマ倶楽部
【大阪】
2022年7月6日(水)@梅田シャングリラ

大林亮三(SANABAGUN./Ryozo Band)
1990年9月7日神奈川県藤沢生まれ。ソウル、ファンク、レアグルーヴ、ジャムバンド、レゲエなど様々な音楽に触れ、ベーシストとして活動するほか、音源の提供、プロデュースなども手掛ける。
2015年にリーダーバンドRyozo BandにてDJ MURO(King OfDiggin’)にプロデュースされデビュー。2017年には、ベーシストとしてSANABAGUN.に加入。バンド活動以外にもアパレル・ブランドISSEY MIYAKEやジャニーズ、ヒプノシスマイクなどといった大手企業コンテンツにも楽曲提供を行う。

オカモトコウキ(OKAMOTO’S)
1990年11月5日東京都練馬生まれ。中学在学時、同級生とともに現在のOKAMOTO’S の原型となるバンドを結成。 2010年、OKAMOTO’Sのギタリストとしてデビューし、アメリカSXSWやイギリス、 アジア各国などでもライブを成功させ、日本国内では日比谷野外音楽堂、中 野サンプラザなどでもライブを開催。10周年となった2019年には初めて日本武道館で単独ワンマンライブを成功させ、初ソロアルバム「GIRL」をリリース。アグレッシブなギタープレイとソングライティング力は評価が高く、菅田将暉、関ジャニ∞、PUFFY、Negicco、 小池美由など多くのアーティストに楽曲を提供。またPUFFY、YO-KING、ドレスコーズ、TAIKING(Suchmos)、トミタ栞、堂島孝平、ナナヲアカリなどのライブでギターサポートも務める。ソングライティング力を生かしバンドの中心的なコンポーザーとしても活躍している。

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