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text by Mari Kojima

ミッキー・ブランコ『Stay Close To Music』インタビュー/Interview with Mykki Blanco about “Stay Close To Music”




ヒップホップ界の新たなスタイルの先駆者としてラッパーのみならず詩人、パフォーマンスアーティスト、活動家として幅広いジャンルを網羅するミッキー・ブランコの新作「Stay Close To Music」が10月14日にリリースされた。今回の作品では、プロデューサーでありマルチ奏者であるフォルティDLをコラボレーション相手として迎え入れ、鮮明なライブ演奏により新たなサウンドスケープを構築。自らのサウンドをゼロから築き上げるという新たな試みに挑み、今までとは想像もつかない仕上がりとなった「Stay Close To Music」は、彼のコアの部分に存在するスピリチュアルなスピリット、そしてオーガニックなテキスチャーが織りなす美しく壮大な広がりを力強く感じさせてくれる。
今回はそんな唯一無二のオリジナリティーを放つ「Stay Close To Music」の制作過程、そして更なる進化を遂げる彼自身の思想について25分ほどのインタビューを行った。
→ in English)


――長いツアーを終えポルトガルからリズベンに引っ越したそうですが、生活はどのような感じですか。移動によって音楽制作に何か変化はありましたか?


Mykki「リズベンには2016年から2020年まで住んでいたんです。パンデミックの影響で最近またカリフォルニアに戻ってきたけど、来週リズベンにツアーのリハーサルも兼ねて戻ろうと思っています。たくさんのアルバムをリズベンにいる間に制作したし、リズベンに住んでいた頃はポルトガル人の恋人もいました。ポルトガルは美しい国で、とても安全で、カリフォルニアとよく似ている地中海性気候なのも良かったです。アメリカのように政治的な重荷もなくて、リズベンにいた頃アメリカはトランプ政権で混乱していたので、私がリズベンへ引っ越したのは不安定な状況からの逃げ道であって、自分自身の平穏を見つけ出す術だったんだと思います」




――新作「Stay Close To Music」はとても素晴らしかったです。神秘的でスピリチュアルな雰囲気に包まれていました。一方的な教えを押し付ける訳ではない信仰深い家庭に育ったと聞きましたが、スピリチュアルな側面は人生において大切な要素だと感じていますか?


Mykki「あなたが言ったように、私はスピリチュアルな存在を身近に感じる環境で育ち、両親も曽祖父も成熟した人格を持っていて、私自身、道徳性を持って神と精神的な関係を築き上げてきたと感じています。私はユダヤ教やニューエイジのキリスト教、仏教、ヒンズー教などたくさんの宗教観に囲まれ育ちました。祖父や父がヒンズー教の本を読んでいる光景は僕にとって普通のことでした。私の人生の中で最も辛かった時期は、行き着いた境遇は教訓であり克服すべき課題の結果だと信じることでした。残念なことに、たくさんの人が伝統的な教えを押し付けられる環境のなか育ったためスピリチュアルな思想を避けています。そんな中でこの教えを得たことは私の視野を変えるきっかけになりました。一方的な教えは保守的で人格育成という点であまり意味をなさず、得るものはそこにないと感じる人々が宗教から遠のくのは理解できるところですが、私自身も人間が最も賢くてこの世界で唯一力を持った存在であると思ってしまう状況に多々遭遇してきたと思います」




――新作の収録曲「Your feminism in not my feminism」に感銘を受けました。俗に言うフェミニズムから除外されてしまう人いるのは確かで、全ての人のためのフェミニズムであるべき重要性を感じています。例えば、日本にもセックスワーカーは存在していますが、彼女たちの主張にまだ社会は耳を傾けていないと思います。全ての女性の声が反映されるフェミニズムが実現されるために、どんな変化が必要だと思いますか。


Mykki「この曲が日本の文化にも通ずるところがあるという発見は嬉しいです。この曲はトランス女性や性を定義しない人、クイアコミュニティーの人たちのことを書いた曲です。この曲と日本の社会やコミュニティに属する女性たちとの共通点は、父権的に機能する社会に住んでいることだと思います。女性だけに限らず多くの人々がこの社会構造に適応するように教育されてきて、その中に多々あるハードルを乗り越えるために私たちが必要とする方法の一つは、まず女性のニーズを取り入れた方法で、物事について母権的な視点で見直すことが必要だと思います。それは間違いなくこの社会に存在するさまざまな事柄を対処する方法になりますし、フレームワークの再形成につながると思います。私たちが父権社会のなかで生きるため長年直面してきた問題が社会の女性化により解決されていく過程をすでに多くの形で目の当たりにしてきていると思います。世界中さまざまな場所でそれが続けばいいなと思っています。新たな情報を手に入れたら、新しい視点を変えることを快く受け入れる必要があると思います」





――フリーフォーク/アシッドフォーク界を代表するシンガーソングライター、デヴェンドラ・バンハートと共に制作した経緯は?今までにさまざまなジャンルのアーティストたちとコラボされていますが、今回のアルバムでアシッドフォーク的なジャンルを開拓した曲を聞けたのは嬉しかったです。


Mykki「デヴェンドラ・バンハートは僕が15歳か16歳の頃に知ったアーティストでした。その当時私はサンフランシスコの郊外に住んでいて、電車に乗って彼のコンサートに行ったのを覚えています。彼のライブには2回行って、とてつもなく大きな感銘を受けました。大人になって世界ツアーに行くようになった頃、デヴェンドラに会う機会がありました。同じフェスでパフォーマンスをしたので一夏のうちに3、4回会いましたね。彼の連絡先をもらったけど、尊敬する人に果たして自ら連絡することなんてあるんだろうかって思いつつも、一応その連絡先は失くさずに持っていたんですよ。そのうち、制作する曲のサウンドがどんなものになるのか真剣に考え始めた時、デヴェンドラは曲にエネルギーを与えてくれる完璧なアーティストだと思いました。それで、彼にデモを送ったんですが、彼は驚いたと思います。彼が曲を制作すると完全に彼らしいものに仕上がり、美しい瞬間が込められたものになりました」





――外部の影響を受けないようにしながら、2021年にリリースされた「Broken Hearts and Beauty Sleep」と今回リリースされたNEWアルバム「Stay Close to Music」、二つのアルバムを同時進行で制作されたそうなのですが、そのような大きなタスクを成し遂げるために、どのようにモチベーションを保たれましたか?


Mykki「制作過程にいたときに、すごくインスパイアされていたのでそれを大きなタスクとして考えてはいませんでした。インスパイアされていると感じていているときはとてもエキサイティングで、”仕事をしている”という感覚には全くなりませんでした。実は制作している最中、アルバムが二つも出来上がるとは思ってもいなかったんです。私とエクゼクティブプロデューサーはミュージシャンたちを集めて、生まれてきたインスピレーションやアイディアを最後まで出し切り、さらに感銘を受けたのは、コラボしたミュージシャンとアルバム制作に携わってくれた人たちが独自の創造性をプロジェクトに注ぎ込んでくれたことです。
これらの全ての力が一体となって、とても独創的な音の方向性を持った作品が出来上がったと感じているし、私の音楽制作の方法もガラリと変わるきっかけとなったので、またレコーディングプロセスに戻るまで待ちきれないです」


――ライブ演奏により構築されたアルバムを制作するのはどのようなものでしたか?難しかった点はありますか?


Mykki「今までやったことのない試みだったのでエキサイティングでした。発見に溢れていて、このアルバム制作は特別な始まりであったし、心理的、精神的な意味で私が正しい道に進んでいるということを信じていました。これは私が今まで聴いた音楽の中で最高なものの一つであると思いますし、私が今まで作った音楽とは全く別物ではあるけれどそれを実際創り出すことができる能力があるという認識につながりました。
難しかった点は、アルバムを制作した後のことなんですが、ライブの時にどの楽器を強調するかという選択をしなければいけないことだと思います。今実際その作業をやっている最中で、あと2日間でとても難しい決断を下さないといけないところにいます。最近はずっとそれについて考えています」




――ティーンエイジャーの頃から常にクリエイティブな経験をされていますが、自分の中で変わらない部分というのはどんなところですか?


Mykki「私の人生の中で変わっていないと思うことは、私が一つのクリエイティブなことだけに執着していないというところだと思います。私はいろんな才能を探し出し、築き上げていくオプションを常に持っていたいと思っていて、それを心がけていますしこれからも変わらず続けていこうと思っています。
そして、たくさんのチャンスが私を待っているということ、そして自分が予想だにしなかった方法で成長できるということも人生を通して学びました。得意不得意があるのは当たり前ですが私は自分の創造性にリミットをかけるようなことはしたことがないですし、想定外の方法で成長できて何か得ることができるというのはとてもクールなことだといつも思っています」


――自分の人生において、最も失いたくないことはなんですか?


Mykki「“許す”という能力ですかね。許すことはパワフルなエネルギーであって、もしあなたが自分自身を許さなければ、心身的に滞ってしまい少しずつ自身にダメージを与えてしまうことになりますし、その滞りでマインドがブロックされてしまうと癒されることができなくなってしまうと思います。多くの人々は、私たちが地球上で知性に恵まれた類まれなる存在だと分かっていても哺乳類として生きている他の動物たちの仲間だという認識はしていないと思います。わたしたちは自然とつながりがあり、動物や植物の世話をするのと同じように自分自身のケアをしなくてはならないと思います。身体の健康は心の健康の表れであって、精神的に、そして人生においても滞りを作り出さないようにするのが大切だと感じています。許すことはシャワーを浴びるような働きをしてくれると思っていて、3週間もシャワーを浴びないなんて人は少ないんじゃないでしょうか。私の言う許しというのは日々における些細な物事における許しについてでもあります。それがとても大切で、健全な精神が自分自身を洗い流し感情をクリアにしてくれるようなことなんです。それを実行することによって人生にもっとたくさんの愛が注ぐことができるし、ポジティブさを引き出してくれると思っています」


――ありがとうございました。ツアーのリハーサル、頑張ってくださいね。


Mykki「Thank you」


text Mari Kojima(https://www.instagram.com/bubbacosima/




Mykki Blanco
『Stay Close To Music』
Now on Sale
(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)
1.Pink Diamond Bezel 2. Steps (feat. Saul Williams and MNEK) 3. French Lessons (feat. ANOHNI and Kelsey Lu) 4. Ketamine (feat. Slug Christ) 5. Your Love Was A Gift (feat. Diana Gordon) 6. Family Ties (feat. Michael Stipe) 7. Your Feminism Is Not My Feminism (feat. Ah-Mer-Ah-Su) 8. Lucky 9. Interlude 10. Trust A Little Bit 11. You Will Find It (feat. Devendra Banhart) 12. Carry On (feat. Jónsi)


Mykki Blanco
アメリカのラッパー、詩人、パフォーマー、活動家。2012年にEP『Mykki Blanco & the Mutant Angels』でデビュー。『Betty Rubble: The Initiation』(2013年)、『Spring/Summer 2014』(2014年)と2枚のEPを経て、2016年9月にデビュー・アルバム『Mykki』をリリース。クィア・ラップ・シーンのパイオニアとして知られ、Kanye WestやTeyana Taylor等とコラボレート。MadonnaのMVへ出演し、Björkとツアーを行なったりもしている。2021年には5年振りとなるオフィシャル作品である9曲入りのミニ・アルバム『Broken Hearts & Beauty Sleep』をTransgressive Recordsよりリリース。スペシャル・ゲストとしてBlood Orange(Dev Hynes)、Big Freedia、Kari Faux、Jamila Woods、Jay Cue、Bruno Ribeiro等がフィーチャーされたこの新作は高い評価を博した。
More info: http://bignothing.net/mykkiblanco.html

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