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世界の果ての理想郷「デレク・ジャーマンの庭を訪ねて」

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イギリスのドーバー海峡に面した村、ダンジェネス。全編青一色で描いた『BLUE』(1993年)を遺作とするイギリスの映画作家デレク・ジャーマン(1942-1994年)晩年の地である。HIVへの感染が判明した1986年に移り住み、以来、死の1994年まで書き続けた庭について綴った最期の著書『derek jarman’s garden』(1995年)は、名書として語り継がれている。そんな人を惹き付けて止まない”デレク・ジャーマンの庭”を訪れた。

ロンドンから車で約3時間。イギリス南部の村ダンジェネスには数個の漁師小屋、2つの灯台、沿岸を走る蒸汽機関車、原子力発電所以外何もない。南の果てであり、地上の果てをイメージさせる。ジャーマンの家「プロスペクトコテージ(prospect cottage)」は荒涼とした原野にぽつりとたたずんでいる。Prospectには「眺望」「期待」などの意味があり、家の屋根と壁には墨色のペンキが染み込まれ、窓とドアの枠の鮮やかな黄色が遠くからも目を引く。南に面した外壁には近世英国の詩人ジョン・ダンの詩『The Sun Rising』の文字が飾られている。恋人と微睡む寝室に遠慮なく差し込んで来る朝日に対し、「この世の中心は万能な太陽ではなく、愛し合う彼らのベッドの上である」と宣言する力強い愛の唄。

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子供の頃から好きで、最期まで創作したという庭はポピーやラベンダーなどの素朴な草花と奇妙な小石のオブジェ、錆びた道具が一見無秩序とも思えるような配置ながら一体化している。しかも遠くには原子力発電所が浮かんで見える。こうして、砂漠のように何もない特殊なコミュニティの中に、創り出された生命と朽ち果てることが共存する不思議な庭。ジャーマン独自の美意識に貫かれた完璧な空間は、自然の中に人為的な創意を持ち込んでいるのではなく、周囲にシンクロして歳月と共に姿を変えていくもの。

「僕が庭に育てた花も一月の厳しい気候にすっかりだめにされた。けれど、強風に小石が動かされ、美しい風紋ができる」と語る通り、「生まれては死に、死んでは甦る」という生態系に従っている。そんなジャーマンが見ていた「風景」と「DIY」の原点が、この「庭」に遺されているようだ。

ちなみに、よしもとばななの『王国』という小説の中に出てくる庭のモデルとなっているとか。

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