NeoL

開く

藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#22 アファメーション

meisa22_1

タイのパンガン島でのことだ。
一泊千円もしないビーチ沿いのバンガローの食堂でフルーツサラダの朝食を摂っていると(二十年くらい前)、胸板の厚い白人のお兄さんが波打ち際に仁王立ちし、海に向かっていきなりこう叫んだ。
「アイ・アム・ビューティフル!」
太陽でも朝でもなく、俺は美しい!と海に向かって叫ぶそのあまりにもな姿は、凄過ぎてちょっと可愛らしかった。きっと彼は朝まで飲んでいたのだろうと当時は軽く流していたが、今思えば、あれはアファメーションだったのではないかと思う。
アファメーションとは、「誓う」「断定」するという意味を持ち、夢を実現させるための方法として知られている。いわゆる成功者と呼ばれる人々は、このアファメーションを無意識のうちに取り入れていることが多く、夢の実現への最短距離を行くことを可能にしてくれる技術だと思う。
一般的に人は何かを願うときに、「〜になりますように」とか「〜だったらいいのに」と語尾にくっつけるが、これは「今は〜ではない」ということを認めていることになる。願いなのだから、普通はそうなるのが当然だ。
だが、アファメーションでは決してそのような言葉は使わない。願望が既に実現されているものとして「美しくなりたい」とは言わずに、「私は美しいです」と断定する。ちょうどパンガン島のビーチで彼が叫んだようにである。
簡単なので実際やってみると、この差の大きさにすぐ気付く。「美しくなりたい」と願っていると、自分と「美しさ」の間に距離があって、結構遠く感じるのだが、「私は美しいです」と肯定的に断定すると、すでに自分が「美しさ」の領域の片隅に入り込めたような気になれる。細かく言うと、自分の中にある「美しい部分」が徐々に内側から広がり、やがて自分の全てになるような気がしてくる。
2ページ目につづく

1 2 3 4

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS