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Andrew Weatherall『Convenanza』インタビュー

―(苦笑)ご冗談を。 

アンドリュー「いやほんと、俺はただ、ランダムに絵の具をキャンバスにぶつけてるだけだし、たまにまぐれでそこから絵が生まれることもある、というね! ありがとう、これ、他のインタヴューでも使わせてももらうよ(笑)」

―今回のレコーディングは、ニナとのフランクなやり取りからそもそも始まったそうですね。実際に作品を聴かせていただいても、そうしたスポンテニアスでオープンマインドな対話からサウンドが生まれ、そして作品が発展していった様子がうかがえます。

アンドリュー「そうだねえ……ごくごく自然体でやっているだけだし、そもそも作品に対する『青写真』みたいなものが存在しないからね。だから、俺は何も月曜の朝にスタジオに入って、『さあ、これからアルバムを作り始めるぞ。作品の内容はこういう感じ、こういうサウンドで』って具合に作品に着手するわけじゃない。とても自然な成り行きから生まれてくる……うん、ごく自然なプロセスなんだよな。とは言っても……かなり密度の濃いサウンドのアルバムではあるよね。で、俺としては聴き手にめいめい好き勝手に、そこからなにかをピックアップしてもらうってのが好きなんだよ。ってのも、今俺は52歳だし、ということはあのレコードには俺の52年間の人生、そこで味わった様々な経験が詰まっているっていう」

―ええ。

アンドリュー「だから密度が濃くもなるし、非常に多岐にわたる影響も含まれていて……これは『The Secret Agent』の話に戻ってしまうけど(※本インタヴューの前に行った取材の中で話題になった、ウェザオールの好きな小説のひとつ=ジョセフ・コンラッド著『The Secret Agent』/『密偵』のこと)、あの小説が書かれた時期はロンドンにガス灯や電気が普及し始めた頃で、人々は文字通り『霧/闇』から抜け出しつつあったわけだよね? で、俺としてもあれと同じような霧、興味深い霧を音楽を通じて作り出したいし、聴き手にその霧の中にさまよい込んでもらい、好き勝手になにか見つけてもらいたい。だから、霧や影を見てその形をどう形容するか、それは見た人間の想像力次第。夜に歩いていて霧が漂ってくると、人々はそれぞれ、別の形を霧の中に見るわけじゃない? ってことは各人の頭の働き方、あるいは光の当たり方次第で霧はなににだって見えるってことだし、とにかく俺は、そういう様々に判読可能な『霧』を音楽でクリエイトしようとしているっていうか……と言っても、あんまり強くそこに光を当てたくはないんだけどね。マジックに光を当て過ぎちゃいけないよ。要するに、俺は聴き手それぞれに自分なりの『まじない』をそこから作り出してほしいし、俺の生み出した霧の中に彼らに入り込んでもらい、そこから彼らなりの物語を作ってもらいたい、と」

―聴き手の想像力を限定したくない?

アンドリュー「そうそう。人々をかっちりと枷にはめたくないし、それよりもむしろ、人々の背中を押して霧の中へ入ってもらおうとするし……その上で、霧から戻ってきた人々がそこでどんなものを見たのか、どんな物語を読み取ったのかを聞きたい、と。思うにそういうものなんじゃないのかなぁ、俺がやろうとしていることって? とにかくなんらかの『霧』をクリエイトしてみて、その中に君たちにさまよい込んでもらい、戻ってきたところで君たちがそこで何を見たか、耳にしたのかを教えてもらうっていう」

―ちなみに、アルバムのタイトルはどんな意味なんですか?

アンドリュー「『Convenanza』というのは儀式の名前で、超越を意味するんだ。俺の中では宗教的でない人々の儀式と超越。それがナイトクラブというものを指すんだ」

―ところで、ミックスやリミックスといった手法は、いわゆる音像の部分やプロダクションに作用するだけでなく、それによってリリックを際立たせたり、その響き方を変えたり、言葉の部分にも様々な異化作用をもたらすものでもあると思うんですね。それで、たとえば長年のリミックス・ワークやDJ活動の経験、あるいはそこで学んだテクニックが、自身の歌詞に対するスタンス、歌詞の書き方や言葉に影響したようなところはありますか? 

アンドリュー「いや、それはないな。俺の歌詞というのは自分が読んだ本や書物にインスパイアされているから。俺は熱心な読書家で、とにかく本当によく本を読むんだよ。だから基本的に、なにか書物を読んでいて素敵なフレーズや良いパラグラフに行き当たったら――っていうか、それは単語ひとつでも構わないんだけど、気に入ったものが見つかったら自分のノートに書き取っておくわけ。あるいは、ロンドンの街中を移動中に、なにかのはずみで耳に入ってきた他人の会話の断片を書き留めることだってある。俺はそうやって常に、英語という言語がどう機能し、どう響くものなのか、韻の踏み方とかそのリズムといったものに魅力を感じてきたんだ。だから、俺の手元にはそうした短い一節やパラグラフ等々、どこかで何気なく耳にしたフレーズや本を読んでいて出くわした文句が詰まったノートがあるんだよ。で、曲を書くときというのは、俺たちはまずインスト部から始めるんだけども、そのトラックを完成させていく間に、俺は音楽に合わせて歌い始める。そうやってヴォーカル部のメロディ・ラインを探っていくわけだけど、そこでノートに記された様々なフレーズのひとつを使ってみるんだ。で、そこから発展させていく、歌詞を広げていこうとするっていうね。だから、『これを歌う』という明確なコンセプトのもとに歌詞を書くというよりも、むしろ書き言葉やフレーズから歌詞が出て来る、そういうものなんじゃないかと思う」

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