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天野太郎(横浜美術館 主席学芸員)「美術は近くにありて思ふもの」Vol.3 美術と建築 前編 ゲスト:光嶋裕介

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天野「それはすごいね。この表紙の写真もひとり旅の時のものですか?」

光嶋「はい、この写真は、ビルバオ・エフェクト(スペインのビルバオにおけるグッゲンハイム美術館の建設による劇的な都市再生計画の成功例)で知られる美術館での一枚です。当時、一世を風靡したこの建物が実際にどのような空間なのか確かめてみたくて行ったんです。しかし、正直、それほど感動しませんでした。僕は建築を体験する時に、その建物の設計者と対話することを心掛けています。ここは、何故こうなっているのだろうか、何でここがこうなってるんだろうと考えながら建物を見てまわります。たしかにビルバオは今まで見たことのない、不思議な形をしているので第一印象としての強い驚きはあるものの、生まれてきた形に対する必然性をまったく感じなかった。表面的な真新しさによる近未来的なビルバオ美術館での感覚は消費されてしまうのではないかと思いました。

でもこの美術館が素晴らしいなと思うのは、スペインの北部の誰も知らなかったビルバオという小さな街が突如世界的に知られ、人が来るようになったことにあると思います。それが、まさにビルバオ・エフェクトですよね。それも経済効果ということだけじゃなく、その美術館でリチャード・セラ(アメリカの彫刻家)とエドゥアルド・チリーダ(スペインの彫刻家)と出会えることもまた魅力的です。僕はこの二人に出会えたことには深く感動しましたが、建築は大きくて、時間に対して長く耐え得るもの、つまり『記憶の器』であるという意味においては、もっと違う美術館のあり方があったんじゃないかと思うんです。都市の文脈と対比するのでなくて、調和するようなあり方ですね。

というのも、その同じ旅でベネチアに行ったときにゴンドラを見ていたら、フォルコラ(ゴンドラのオールをひっかけてコントロールするジョイント部分)の彫刻的な美しさに心を奪われました。それで、その作られ方に興味を持ち、フォルコラを作っている職人さんを探して、ベネチアの工房に辿り着き、話してみたら、ここは真っ直ぐ進む、ここは旋回、ここはバックするためだとか、全部の形に意味があると知って感動すると同時に、あのグッゲンハイムの無根拠な形よりよほどいいと思いました」

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