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text by Maya Lee
photo by Alec Jafrato

セントラル・セント・マーティン卒業コレクション特集: Fraser Bruce Miller/Central Saint Martins Graduate Collections Issue : Fraser Bruce Miller




次なる目となるデザイナーを見出すべく、ファッションシーンの誰もが注目するセントラル・セント・マーティンの卒業コレクション。コロナ禍での修了、卒業制作を迎える学生たちは何を考え、どう己のクリエイションと向き合ったのか。第1回目はニットウェアを手がけるFraser Bruce Millerによるコレクションとインタビューを紹介する。(→ in English)


――セント・マーティンのファッション科で学ぼうと思った理由は?


Fraser「ロンドン以外の大学で修士を終えてもハイエンドなファッションインダストリーに入り込むことができないから。ロンドンで学ぶことだけが唯一の方法だと思っていました」

――ロックダウン中の卒業制作、ファイナルコレクションということで、制限や限界を感じたことは?


Fraser「洋服を作ることができ、自分のデザインに生命を与えることができるという意味では制限を感じませんでした。 同じ空間で生活し、働くことからくる精神的な制限の方がありましたね。 “家”から“スタジオ”という物理的な移動や変化がなかったので、モチベーションを保つのは時々難しかったです。いつまたロックダウンでの規制が厳しくなるか、家族は大丈夫か、COVID-19の影響を受けていないかという不安が絶え間なく押し寄せる。私だけでなく、全世界がとても疲弊していたと思います」


――パンデミックの最中に修士課程を修了しましたが、ファッション業界へ進むための準備はどのように進めましたか。制作過程は全体的に何か変化がありましたか。


Fraser「常に気を抜かないようにしていたので、パンデミックの最中に修士号を勉強することでファッション業界に入る準備として役立てました。四方八方にある問題を解決するために注力していて、ロックダウンによる制限が変更された場合は真っ先に製造に関する変更をしなくてはいけない状況でした。だからと言って、それらが私のクリエイティヴなプロセスを変えることはなかったんです。私はいつもファッションとコンセプトを深く突き詰めるところから始めます。それからチャリティー・ショップで服を購入して裁断し、コレクションを形づくるためのインスピレーションを得ます。同時にコンセプトに沿ったテキスタイルのサンプリングも行うんです」


――セント・マーティンであなたのデザイン哲学を変えたクラス、将来の仕事の役立つクラスはありましたか。


Fraser「どの授業も私の哲学を変えたとは思いません。ただ、デザイナーとしての自分の価値観を確実に引き出し、自分が業界に加わった時に、新しいデザイナーにかかる抑圧を覆す方法はありました。それらはReba Mayburyとの会話の中で得られたものですが、彼女は本当にファッションの良き煽動者だと思います」




――卒業コレクションについて教えてください。


Fraser「私のコレクションは、秘密を明かすことと自己からの解放を表現しています。ジェンダーにルールがなく、肉体と精神が解放されることを目指しています。 保守的なアッパーミドルクラスのイギリスのファッションと80年代のイギリスの労働者階級のファッションのシルエットを使用していて、これらのカルチャーやの限界を、ジェンダーアナーキーな現代的な考えと対比することによって明らかにしたいと思っています。 シルエットはそれらを実証する重要なポイントの1つ。 どこかが大きすぎたり、どこかが小さすぎたりする服がどうして作られるのかという問題の本質はずっと続いてる。決して社会的に適切なラインに達したことはなく、常にやや厄介なのが洋服というもの」


――卒業コレクションで最も見せたいものは?


Fraser「コンセプトの混合とニットウェアの技術ですね。“メンズのニットウェアデザイナー”とカテゴライズされたくないので」


――イギリス やヨーロッパのファッション産業はどのように変わっていくと思いますか。またはどのように変わって欲しい?


Fraser「オーダーメイドのアプローチをもっと取り入れてくれたらいいのにとは思います。資源の浪費と地球汚染につながるような抱え切れないほどの大量生産ではなく、もっと少数の生産になって欲しいですね」


――EU離脱によって生活や政治の変化を感じますか。イギリスのファッションシーンの変化は?


Fraser「ブレグジットで、これまでのところ大規模なイギリスのファッションシーンへの変化は感じません。変わったのは、国外への輸送代とヨーロッパへの移動が不自由になったこと。私たちは今でも伝統を持った、文化を尊ぶデザイナーのグループであり続けていると思います。 政治はつまらないトピックについて議論を繰り返している博識な人々のものであり続けていて、リアルで大切なトピックは常にこっそりと決められ、一般の人はちゃんとした答えを受け取れないようになっているみたいです」





――セントラル・セント・マーティンはイギリスのファッションシーンでどんな役割を果たしていると思いますか。


Fraser「私たちはみんなCSMのファッション産業における役割を知っています。CSMは最高のデザイナーを常に生み出してきました。ルールを破ることの必要性を教え、新しいことへの探究を後押ししてきたんです。そう、CSMは古いものを壊して新しいものを作ります。最高の時にこそ破壊を」


――サステイナビリティはファッション業界の大きなテーマ。2番目に汚染を生み出している業界として、この業界は何ができるでしょう?


Fraser「ファッションは世界中の汚染物質を生み出す主な原因となっていますが、変えることはできると信じています。 ファストファッションは廃止され、オーダーメイドまたは少量の製品に置き換えられるべき。布地の染色や天然繊維の洗浄のため水の使用量を減らすために多くのことが行われていますが、もっとやる必要がある。 すべての廃布をリサイクルし、 不要な衣服をアップサイクリングするべき。量ではなく、質に戻る必要があります」


――今興味のあるブランドやデザイナーはいますか。


Fraser「たくさんのデザイナーの作品を楽しんでいます。Rick Owensは常に”規範“に抵抗していて、自分のユートピアをつくり、後続者たちをリードしているデザイナー。Stella McCartneyは、リサイクルとサステイナビリティをシックで魅力的に見せています。残骸から抜き出され、茂みの中を散々引きずられたボロ切れのように見えては、サステイナビリティは受け入れられないですから。 Casey Cadwalladerは、トランス女性を美しく、気高く、セクシーに見せることに卓越しています。 心からトランス女性を祝福していて、それらの女性の真の姿を引き出す。素晴らしいデザイナーです」





――メンズウェアのニットデザイナーとして、デザインする際にどこにだわっていますか。


Fraser「自分のニットウェアはいつもできるだけシックに見せるようにしています。おばあちゃんが夕方のニュースを見ながらやった編み物のような感じが自分には合っていて。私はいつも、一見してちゃんと織られていることがわかるようなニットにしようとしています。男性用にデザインしているけど、どんな性別の人にも私の服を着てもらいたいと思います。鍵となるのは解放ということ」


―― デザイナーとして社会にどんな影響を及ぼせると思いますか。


Fraser「社会におけるデザイナーの影響は大きいです。なぜなら、社会が変化し変質するのは、デザイナーとそのヴィジョンを通してだから。社会の準備が整う前に、これから向かう先である秘密のユートピアを見せつつも、露わにしすぎないよう微妙なバランスをとっているんです。プロセスを担っている」


ーー卒業後の予定は?


Fraser「コレクションの中から6、7型をネット販売するところから自分のブランドをスタートします。2021年6月のロンドン・ファッション・ウィークでは、3つの服を追加したMAコレクションを展示する予定です」




fRASER bRUCE mILLER
https://www.fraserbrucemiller.com


photography Alec Jafrato https://www.instagram.com/alecj4frato/
model Alex Guiste https://www.instagram.com/alexguiste/
text Maya Lee

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