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text by nao machida

「自分が築いたアイデンティティと自分自身がぶつかるような瞬間、人はどうするのか」
『バービー』 グレタ・ガーウィグ監督来日インタビュー
Interview with Director Greta Gerwig on “Barbie”




1959年に発売され、世界中で愛されてきたファッションドール、バービーを実写映画化した『バービー』が8月11日に全国で公開される。監督は『レディ・バード』(2017)や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)で高い評価を受け、俳優としても活躍するグレタ・ガーウィグ。本作でプロデューサーと主演を務めたマーゴット・ロビーから依頼を受け、パートナーのノア・バームバックと共に自ら脚本も手がけた。映画は、完璧で夢のような毎日が続く“バービーランド”で暮らすバービーが、ある日突然、身体に異変を感じ、その原因を探るために人間の世界へと向かうところからスタート。これまでも女性の成長や心の変化を丁寧に描いてきたガーウィグならではの切り口で、たくさんの感情が詰まった、現代社会に通じるバービーの物語が完成した。ここでは、映画の日本公開を前に来日した監督にインタビューを行い、作品への思いや製作秘話などを語ってもらった。


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– 子どもの頃の遊びに重要性を追求したかった

――とても楽しい作品ですし、自分のオリジナリティを大切にするというメッセージに感銘を受けました。バービーというきらびやかな世界の中に、監督が以前から描いているメッセージを織り込む上で、苦労された点はありますか?


グレタ・ガーウィグ監督「そのように感じていただけてすごくうれしいです。本作では、子どもの頃の遊びが私たちにとってどれほど重要なのかということを、何らかの形で追求したいと思っていました。ある意味、バービーは最も奥行きがなさそうに見える存在ですよね。でも、プラスチックの人形だからこそ、逆に奥行きを与えてみたかったんです。プラスチックの人形であるバービーの物語を通して、人間とは何なのかということを伝える方法を見つけ出すことができたら、やりがいがあるのではないかと考えました。子どもたちが遊ぶときはとても真剣ですし、彼らにとって、それは大きな意味を持っているので、本作も楽しくて、笑えて、美しい映画にしつつ、ちゃんと真剣に受け止めなければいけないなと思いました」


――私が子どもの頃は、ブロンドヘアで青い目のバービーと自分を重ねることはありませんでした。今はマテル社からも多様な人形が発売されていますし、本作にもさまざまなバービーやキャラクターが登場するので、日本でも多くの人がエンパワーされるのではないでしょうか。多彩なキャラクターを通して作品のメッセージを伝える上で、こだわったことやキャストに求めたことはありますか?


グレタ・ガーウィグ監督「まず何よりも、1959年に生まれたバービーがここまで発展し、変化を遂げたのは素晴らしいことです。今はいろんなボディタイプのバービーがいて、さまざまな女性がバービーとして存在しているので、誰もがこの世界の中に自分自身を見出すことができます。それはとても重要なことなので、キャスティングにも必ず反映したいと思っていました。


それから、今回のキャストは、みんなすごくユーモアがあって、才能豊かで、素晴らしいダンサーでもあります。でも、彼らには誠実に真心を持って演じてほしいと思っていました。バカにするのではなく、真剣に受け止めた上で生まれるユーモアを求めていたんです。ですので、それぞれユニークな火花を持った、面白いけれどハートフルな方々をキャスティングしました。その結果、今までに経験したことのないような、本当に素晴らしいチームに恵まれました。通常の映画のキャストはもっと人数が少ないのですが、本作はまるでブロードウェイのミュージカルを制作しているような感じで、ただただ素晴らしかったです。


また、私はバービーランドをダンサーで埋め尽くしたかったので、たくさんのダンサーもキャスティングしました。実際に踊っていないときでも、ダンサーの立ち振舞いは独特で、身体的な存在感があると思ったからです。街を歩いたり、ビーチに繰り出したりするような動きも振り付けして、それによって、より誇張されたような世界観が完成しました。希望に満ちた表現ができる、素晴らしい人たちをキャスティングできたのではないかなと思っています」














– 自分が築いたアイデンティティと自分自身がぶつかるような瞬間、人はどうするのか

――本作では、バービーとケンの置かれている立場が反転し、それによって得られる気づきなども描かれています。ストーリーには、監督が私生活で感じたことを反映された部分もあるのでしょうか? 


グレタ・ガーウィグ監督「もちろんです。そもそも本作の物語のベースには、おもちゃや人形で遊んでいた子どもの頃の自分の記憶がありました。さらに、うちの母があまりバービーを好きではなかったので、私の頭にはバービーに対する反論もあったんです。私はその存在を知った頃から、バービーを必ずしも好きになるべきではない理由を知っていました。本作には、そういったすべての要素が込められています。そして、大人になった今になって振り返ってみると、あれはどういうことだったんだろうと考えるわけですが、その部分も映画に反映しました。また、ケンに関しては、本当に忘れられた男のように思えたんです(笑)。(ケン役の)ライアン・ゴズリングと一緒に、彼の物語は語られるべきだよね、と決めました」


――作曲家のアレクサンドル・デスプラは以前、自身が音楽を手がけた『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)の素晴らしいところは、古典をモダンに解釈したことだと語っていました。本作では、バービーも現実の世界に住むグロリアもロマンスや男性を必要としておらず、女性たちの主体性や自己表現が描かれています。こういった物語は、監督にとって重要なのでしょうか?


グレタ・ガーウィグ監督「私は人がどのようにしてより人間らしく、より自分らしくなれるかという問いに、常に興味を持っているのだと思います。人は人生のあらゆる段階で、以前は自分のアイデンティティに欠かせないと信じていたことを捨てる必要に迫られるのだと思うんです。それは8歳でも18歳でも80歳でも、人生を通して起こり続けることで、私はそういった自分が築いたアイデンティティと自分自身がぶつかるような瞬間に興味を持っています。私からすると、それは自分の人生の底が抜けたような切実な瞬間であり、そのとき人はどうするのか、ということなのです」












– 私が作る映画の多くは、深い形で子ども時代について掘り下げている

――本作は『2001年宇宙の旅』のオマージュから始まって、バービーとケンをまるでイヴとアダムのようになぞらえているのが面白いなと思いました。『レディ・バード』(2017)ではシモーヌ・ヴェイユの言葉を引用されていましたが、監督の映画と神学的なテーマの関連性について教えてください。


グレタ・ガーウィグ監督「まさにその通りです。私の作品の中には、常に神学的なテーマが見受けられると自覚しています。私はカトリックの高校出身ですし、子どもの頃から教会に通っていたので、すべてにおいて(神学的な)背景みたいなものがあるんですよね。それから、宗教的な思想家の世界観にとても心を動かされた経験があって、自分では持ち得ない、彼らの深遠な知性のようなものを探し続けているんです。そういった意味でも、子どもの頃から触れていた物語や伝統が、今の自分が語るストーリーを形作っているのではないかなと考えています。それはおそらく、私が常に物語のエッセンスを探しているからでしょうね。多くの物語には、心理学という学問ができる以前の心理学のような感覚があるんです。それは私たち人間の深いところにアクセスさせてくれるものでもあります。というわけで、そうです、私にとって神学に関する本を読むのは楽しいことなんです。誰にでも趣味があるように、私の趣味はこれです。ボーリングの代わりに、神学に関する本を読むのが好きなんです(笑)」 


――最後に、劇中のグロリアにとってのバービーのように、監督にとっての元気の源はありますか?


グレタ・ガーウィグ監督「子どもたちです。私には13歳の継息子と、5ヶ月と4歳の息子がいるのですが、特に一番小さい子には充電させてもらっています。小さな赤ちゃんを抱っこするのは素晴らしいことですから。仕事の後、家に帰って小さな頭に触れることができるのは、とても素敵なことです。ある意味、私が作る映画の多くは、深い形で子ども時代について掘り下げているような気がします。自分自身が子どもを持ったことで、そういった考えによりつながりを感じるようになりました」


text nao machida



《STORY》
どんな自分にでもなれる完璧で<夢>のような毎日が続く“バービーランド”で暮らすバービーとボーイフレンド(?)のケン。ある日突然身体に異変を感じたバービーは、原因を探るためケンと共に〈悩みのつきない〉人間の世界へ!そこでの出会いを通して気づいた、”完璧”より大切なものとは?そして、バービーの最後の選択とはー?





映画『バービー』
8月11日(金)公開
公式サイト:barbie-movie.jp
キャスト:マーゴット・ロビー「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」、ライアン・ゴズリング「ラ・ラ・ランド」、シム・リウ「シャン・チー/テン・リングスの伝説」、デュア・リパ、ヘレン・ミレン「クイーン」
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ 「レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」
脚本:ノア・バームバック「マリッジ・ストーリー」
プロデューサー:デイビッド・ヘイマン「ハリー・ポッター」シリーズ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

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