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text by Nao Machida

「音楽が登場人物や彼らの住む世界と観客を引き寄せてくれるような作品にしたかった」『WAVES/ウェイブス』 トレイ・エドワード・シュルツ監督インタビュー/Interview with Trey Edward Shults about “Waves”

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『ムーンライト』や『ミッドサマー』を送り出した気鋭のスタジオ「A24」の最新映画『WAVES/ウェイブス』が、ついに日本公開される。『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツ監督による新作は、彼が10代の頃から温めてきた青春映画。フロリダを舞台に、何不自由のない幸せな日常を一瞬にして失ったある家族の物語を、兄と妹それぞれの視点から丁寧に描き出す。公開前から大きな話題を呼んだサウンドトラックには、フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、レディオヘッドなど、豪華アーティストによる31曲の名曲をフィーチャー。そのサウンドが各シーンに見事にシンクロし、圧倒的な映像美とともに観る者の感情を揺さぶる。日本公開を前に、自ら脚本も手がけたシュルツ監督がフロリダの自宅からインタビューに答えてくれた。(→ in English


——とても美しい作品で感動しました。まずはなぜこのストーリーを伝えようと思ったのですか?


トレイ・エドワード・シュルツ監督「これは僕の中でかなり長い間温めていたストーリーでした。確か最初に思いついたのは高校時代で、主人公のタイラーについてたくさんのアイデアが浮かびました。僕自身がレスリング部でしたし、肩を負傷して、劇中のタイラーのような経験をしていたのです。その頃から実際に脚本を書き始めるまで、この映画は常に僕の頭の片隅にあり、どんどんアイデアが膨らんでいきました。そして兄妹という構成や陰陽が浮かび、ようやく形にする準備ができたと感じたのです。当時の自分が感じていたことや置かれていた状況など、すべてを注ぎ込んで物語にしようと思いました。人生におけるちょうど良いタイミングだったのだと思います」


——最初にアイデアを思いついてから実際に制作を始めるまで、どのくらいかかったのですか?


トレイ・エドワード・シュルツ監督「間違いなく10年以上は経っていました。確か2012年に(ウォン・カーウァイ監督の)『恋する惑星』を観て、兄と妹の物語からなる2部構成を思いつき、家族や恋人との繋がりを描こうと考えたのです。それがきっかけとなり、そこから少しずつ組み立てていきました。脚本は前作(『イット・カムズ・アット・ナイト』)をリリースした直後に書き始めたので、2017年の夏ということになりますね」








——ケルヴィン・ハリソン・Jr.が演じるタイラーのキャラクターは監督の経験に基づいているとのことですが、妹のエミリーを主軸に描いた後半の物語も同じくらい私的に感じられました。


トレイ・エドワード・シュルツ監督「おっしゃる通りです。本作には全編を通して、僕や僕の家族、ケルヴィン、そして僕の彼女の経験が散りばめられています。タイラーのキャラクターはケルヴィンとのコラボレーションによって生まれたようなものです。他の部分に関しては、タイラーは僕の要素が強くて、妹のエミリーに関しては僕のガールフレンドの要素が強いのだと思います。でも、どちらのカップルの中にも僕たち一人一人が感じられますし、どちらのカップルにもさまざまな人間関係が見られます。タイラーの両親からは、僕の両親が感じられます。そして物語全体としては、現実の出来事から架空の出来事へと続いたり、そこから再び現実の出来事に戻ったりするのです。だから、これはとても私的な作品です。実際に僕はフロリダに住んでいますし、撮影は彼女の地元の街で行いました。映画の終盤でルークとエミリーがミズーリに行く場面も、父ががんで亡くなったときの僕の実体験を再現しているのです。撮影はとてもつらかったですし、怖くもありましたが、どこか癒された部分もありました。興味深い経験でした」


——本作では音楽が重要な役割を担っています。登場人物たちの人生がサウンドトラックを通して描かれていて、各シーンが楽曲と見事にシンクロしていて感動しました。サウンドトラックはどのように選曲したのですか?


トレイ・エドワード・シュルツ監督「すべては脚本から始まりました。僕は本作をプレイリスト・ムービーにしたいと思っていました。『バッド・チューニング』のように、音楽が登場人物や彼らの住む世界と観客を引き寄せてくれるような作品にしたかったのです。高校時代、僕にとっては音楽がすべてでした。音楽のおかげでたくさんのことを乗り越えられたので、本作のサウンドトラックはタイラーとエミリーのためのプレイリストのようにしたいと思いました。脚本から始まり、長い時間をかけて壮大なプレイリストを作っていったのです。さらに執筆中も曲の内容やリズムが完璧だと感じられる楽曲を追加していきました。基本的にすべての曲を脚本に入れ込んで、曲を聴くことで作品にとっての音楽の重要性が伝わるようにしました。最終的に完成した映画には、おそらく元の脚本に入れた楽曲の85パーセントがフィーチャーされていると思います。このようなサウンドトラックができて幸せですし、ありがたく思っています」


——劇伴はトレント・レズナーとアッティカス・ロスが手がけていますね。


トレイ・エドワード・シュルツ監督「とてもありがたいことに、トレント・レズナーが僕のファンで会いたがっているというメールをもらったのです。あれはきっと人生で最もクールなメールだと思います。僕は飛行機に飛び乗って、LAのトレントとアッティカスに会いに行きました。トレントは『イット・カムズ・アット・ナイト』が大好きだと言ってくれて、『クリシャ』も気に入ってくれたそうです。ぜひ一緒に仕事がしたいと言われました。当時は『WAVES/ウェイブス』を執筆中だったので、初稿ができたら送る約束をしました。それから脚本を送ったのですが、僕は内心ビビっていました。脚本の中に4、50曲の楽曲を入れてあったのですが、ナイン・インチ・ネイルズは1曲も入っていなかったのです(笑)。だからどんな反応をされるのかわからなかったのですが、彼らは気に入ってくれて、サウンドトラックと劇伴をどのように相互作用させるべきか、とても興奮して考えてくれました。そんなわけで参加してくれたのですが、彼らとの仕事は素晴らしかったです。信じられないような経験でした」


——素晴らしい強烈な劇伴でした。これからは病院でMRI検査を受けるたびに、本作の音楽を思い出してしまうかもしれません(笑)


トレイ・エドワード・シュルツ監督「いいですね(笑)」











——本作を観て、自分も高校生の頃にこの映画を観たかったなと思いました。フロリダのキッズの反応はいかがでしたか?


トレイ・エドワード・シュルツ監督「本当に素晴らしかったです。すごく美しい反応をいただいて恐れ多いです。僕らはちょっとしたフェスティバルと試写ツアーを行ったのですが、人生で最高の質疑応答ができたと思っています。話しているうちに感極まってしまった男の子もいました。彼は親友を亡くしてからいろんな感情を溜め込んでいたそうなのですが、本作を観て、自分のことを父親に話したい、もっと深い関係を築きたいと思ったそうです」


——日本のキッズには本作からどのようなことを感じ取ってほしいですか?


トレイ・エドワード・シュルツ監督「どんなことでも好きなように感じ取ってほしいです。この映画ではいろんなことが起こりますので、観た人が何かしらの意味を見出してくれたらうれしいです。それは本作のタイトル『WAVES/ウェイブス』にも言えることです。人によって、その意味は違ってきます。それは人生の浮き沈みかもしれないし、いかに私たちがそれに繋がれているかということかもしれません。誰もがみんな人生という壮大な旅の途中なのですから、一人一人が異なる意味を見出してくれることを願っています」


tex Nao Machida





『WAVES/ウェイブス』
7月10日よりTOHOシネマズ<半スペ開ける>日比谷ほか全国ロードショー
https://www.phantom-film.com/waves-movie/
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ(『イット・カムズ・アット・ナイト』) 出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー 作曲:トレント・レズナー&アッティカス・ロス (『ソーシャル・ネットワーク』、『ゴーン・ガール』
原題:WAVES /2019 年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135 分/PG12
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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