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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#5 植物

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 世の中には、多くの癒し法があるが、植物に話しかけるのも、かなりの効果が期待できると思う。最初の一言には、照れと馬鹿馬鹿しさを感じるかもしれないが、大したことではない。近くの公園にでも行って、周囲に人がいないのを見計らって、小声で挨拶をしてみるといい。きっとふわっと何かが自分に入ってくるかのように感じると思う。ふわっ、でないかもしれないけど、何かを感じられるはずだ。
 もし直感的に、植物との間に何かが生まれそうだと感じたら、植物とのコミュニケーションを始めるといい。何も感じない人は、無理をしなくていい。きっと他に別の癒し法があるはずだ。無理をすると、本当の変人になってしまうだろう。
 植物と関係を結ぶことに興味を覚えたら、次には植物の友達を作るといい。なんとなく気が合いそうな木や植物に出会ったら、その前を通るたびに立ち止まって声をかけるといいだろう。心の中で声を出すのも悪くはないが、出来たら実際に声を出したい。一般的な人間は、声を出すコミュニケーションに慣れているから、それが一番伝わりやすいと思う。友人と声を出さずにテレパシーでやりとりしています、という人は無論そのテレパシーを使えばいいけれど。
 決まった友人が植物界に出来たら、かなり交友関係が広まったことになる。人間関係だけでなく、植物関係も人生にあるということは、多分、豊かなことだ。
 私は、訪れる公園で必ず一本の友人を作ることが多い。例えば、新宿御苑では、あるヒマラヤ杉と友達だ。今でも彼(彼女かもしれない。どちらでもないかも)のことはよく覚えているし、時々会いたいな、と思うけど、想うことで会っているとも言えるから、不自由はない。
 まあ、とにかく植物と親しむと世界は確実に広がる。もちろん園芸として触れて楽しむだけでも充分なのだが、一線を越えないと見えない風景があるのは、万事に通じる。
 その一線の先から、やがて何がもたらされるかと言えば、「癒す能力」である。
 もう一度注意深く繰り返すが、もたらされるのは「癒し」ではなく、「癒す能力」だ。
 もちろん、この能力はすぐに来るわけではないだろう。といっても、さして難しいことでもない。植物へとこちらから積極的に交流するなかで、ある種の回路が開かれていく。もともと人間にも、他種との交流が可能な感覚があるのだが、使い方を忘れているので、思い出させる必要がある。そのきっかけとして、植物との交流を求めることがある。
 
(3ページ目につづく)

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