NeoL

開く

「一人のアイデンティティは一つではないと思います。だから人々は面白い」I and Fashion Issue : Hyeyeon Jang




パンデミックで引き起こされた様々な変化を受けて、ファッションも転換期を迎えている。かねてより懸念されていた環境問題に関してのエシカルな動きは加速し、工業的な変化はもちろん、Black Lives Matterなどのムーヴメントからも文化の盗用やフィッシングをはじめとする問題にもさらに目が向けられるようになり、作り手のアイデンティティが強く問われる時代。そんな時代に、オリジナルを生み出すにはどのような思考、プロセスが必要なのか。韓国にルーツを持ち、アートから写真の世界そしてファッションに入り、現在ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションでファッション・デザイン・デベロップメントを学ぶHyeyeon Jangに話を聞いた。(→ in English)



ーーファッションへの情熱を生み出しているルーツは?


Hyeyeon Jang「若い頃はいつもアートに夢中でしたが、大学準備の期間にファインアートとファッションどちらを専攻するかを決めなくてはいけませんでした。当時、ファッションが自分にとって正しいかどうかはわからなかったのですが、ソウル・ファッション・ウィークに行って、ファッションスナップを撮るということを数年間行った後、ファッションを始めることにしたんです。そしてここで、ファッションを通して自らを表現する方法を学びました。私は写真を撮ることからファッションを始めたのです」

ーー1日の始まりに服を選ぶときに、決め手となるのはどんなこと? 例えば天気、音楽、その日目に入った色など。


Hyeyeon Jang「天候にもよると思いますが、天候にそぐわない服を着てしまう傾向があります。普段はその日に着たいアイテムから始めて、それに合わせて着こなしを決めていきます」


ーー何年代のどのようなファッションが好きですか。


Hyeyeon Jang「好きな年代は特にないのですが、Alexander McQueenの作品からは多大なインスパイアを受けています。彼のオーガナイズしたショーは単なる服に関するものではなく、ストーリーテリングなんです。モデルの一人が立っていて、マシーンが彼女の服を描いたショーを覚えています。それは彼がファストファッションに反対していることを示すものでした。彼はファッションが産業になることに反対し、よりアーティスティックなものであるべきだと思っていた。
彼はファッションのプレゼンテーションに挑戦した最初のデザイナーの一人であり、これらのコレクションを積極的に制作していた時代が私のお気に入りです」


ーークリエイションに向かう際にインスピレーションとなるものは?


Hyeyeon Jang「私のプロジェクトを見たら、絵画や彫刻などのアート作品からインスピレーションを得ていることがわかると思います。私のプロジェクトは非常にパーソナルなものであるため、スケッチブックから理解するのは難しい。たくさんの個人的な感情と経験が投入されているんです。
私の1年目のプロジェクトは“空っぽ”を定義すること。ファウンデーション時代はとても忙しかったのですが、BAが始まってからは生活がずっとスローになりました。この時期に感じた空虚さを表現したくて。人が空っぽだと感じたとき、それを埋めるには、お酒を飲む、人に会うなど様々な方法があります。私のプロジェクトは、感情的な空虚さと人々がそれらのギャップをどのように埋めるかについて。そのように私が扱っているテーマはとてもパーソナルなものであるため、スケッチブックから私が見ているものが何かを判別するのは難しいんです」





ーーあなたのSNSを見ていると、作品の多くが身体に関連していると感じます。ボディはファッションにとっても重要な要素ですが、他にも何かこだわる理由があるのでしょうか。


Hyeyeon Jang「私はVan Herpenからもインスパイアされています。彼女のインタビューを見るのが大好きなんです。そのうちの1つでは、彼女にとってフェミニティとは非常に流動的なものであると述べています。流動的だからこそ様々な体型や服に合わせてそれを作り出すことができると。私のコースではメンズウェアとレディスウェアを履修でき、メンズウェアはあまり経験がなかったのですが、様々な体型の一つとしてトライしてみました。
美術館に行くのも大好きです。“空っぽ”プロジェクトの一環としてインスピレーションを得るためにさまざまな美術館に行かなければならず、私は大英博物館に行くことにしました。大英博物館には、かつては美しいと見なされていたけれど今ではそうは見なされていないかもしれない美しい彫刻がたくさんあります。私に似合う服があれば、別の体型に似合う服もあるように、私たちが身体をどう見ているかというのは非常にはっきりとした観点があるように思います。その観点をアドバンテージとして使えば、美しい流動的な服を作ることができるはず。そう信じて様々な体型に合わせたデザインをしようと試みています。
さらに大英博物館にあるほとんどすべての遺物が英国のものではないうえ、好きだった彫刻のほとんどは腕が欠けていたり、顔が壊れていました。それらを見て、私は同じ空虚さを感じました。これらの遺物は彼らの国になく、自身の一部を失っていたからです。また、彫刻を軽く叩くと中の空洞の音がします。そこで美術を学んでいるチェルシーの友人の胸を石膏で塗り、それを衣服の一部として使うことを思いついたのですが、まだ作っている最中で出来上がってはいません」


ーーファッションで自己表現をする際の自分の中の哲学があれば教えてください。



Hyeyeon Jang「私のファッションは自分の感情の状態に大きく関係していると思います。私が当時どのように感じたかを反映しているのです。作品たちは特に個人的な感情にも関係しています。一方で、韓国の文化に触れてみたいという思いもあります。特にアジアでは文化はとても大きな存在で、多くの人が自分たちの文化から生まれた服を作ります。焼き直しになるのが嫌なので別のアプローチをしたいのですが、自分の作品に独自のアプローチで取り入れられる方法がまだ見つかっていません」


ーーファッションはどのようなパワーがあると思ってますか?


Hyeyeon Jang「ファッションはイメージだと思われがちですが、その人が何を研究してインスピレーションを得ているのかを調べてみるとびっくりすると思います。服には、時に多くの知識と情熱が含まれているのです。
だから私はファッションをやっています。ファッションは何かがいかにクールでエッジの効いたものに見えるかだけではなく、どれだけの情熱があり、どれだけデザイナーが時間を費やしたかでもあります。全てのものからインスパイアされる可能性があるというのがファッションがとても強力な力を持つ理由だと思います」





ーーあなたはファッション・デザイン・デベロップメントを専攻していますね。ファッション産業の入るにはユニークなコースですが、伝統的なコースではなくFDDを専攻した理由は?


Hyeyeon Jang「正直なところ、第一希望のコースではありませんでした。元来は商業またはビジネス中心のプログラムになる予定だったのです。先生はいくつかプログラムを変更しようとしています。
私のコースでは、メンズウェアとレディスウェアが両方できます。業界に様々な仕事があり、ファストファッションやバレンシアガのような大きなレーベルで仕事をすることができます。先生は私たちがどこからでも、誰からでも学ぶことができることをわかっています。私のクラスには20人の生徒がいて、一部の生徒はより商業的にデザインし、一部の生徒はより前衛的なデザインをしています。先生が話をよく聞いてくれるとても興味深いコースです。彼らは私たちの興味が何をもたらすかを喜んで見てくれているのです。素晴らしいことに、彼らは自分たちのスタイルを生徒に押し付けません」


ーー自分のraceがどのようにファッションの世界で表現されていると感じますか。


Hyeyeon Jang「K-POPの登場により、韓国のファッションに興味を持つ人が増えています。素晴らしいけれど、K-POPは工場のようだとも感じます。巨大なパブリシティとして機能し、Ader Error、Gentle Monster、Flat Apartmentなど多くの韓国人デザイナーが注目を集めています。
自国の文化を誇りに思うタイプだとは思いませんでしたが、意外にも私はそうした現象を見て幸せな気分になっています。私がここで学ぶことを選んだ理由は韓国が商業的すぎると感じたからですが、これらのブランドは商業的側面から距離をとっている。それは私に希望を与えますし、他のアジア人にも自分たちのブランドを立ち上げて信念を曲げることなくビジネスができ、かつ成功するだろうという希望を与えます。
必死に勉強することもまた自分の国の文化の一部です。通常、若いデザイナーは良いデザインがあってもそれをうまく形にすることはできません。しかし、これらの韓国人デザイナーは非常に優れた技術と革新的なアイデアがある。とてもエキサイティングです」


ーーあなたのアイデンティーが自分の作品に反映することはありますか?そのアイデンティで限界を感じることはありますか?

Hyeyeon Jang「両方だと思います。とても感情を入れ込んだので、自分の作品でプロジェクトをオペレートすることができます。しかし、私は自分がどのように見えているかや作品にあまり自信がない。あまり価値がないと感じているから、一生懸命頑張っているんです。途中で立ち止まり、見栄えが悪いとどうなるか心配する傾向があるのですが、そういう性格は作品に対する気持ちを制限してしまっていると思います。
韓国では、みんなと同じようになるために努力すると言われていますが、大学を卒業するとすぐに、私たちは仕事を得たりビジネスをしたりするために他とは違うというんだということを競います。韓国では謙虚さが非常に重要だとされていますが、自分にもその節があると思います」


ーーパンデミックによって、ファッションのプレゼンテーションも変わってきています。自分のファッション、またクリエイションそれぞれに変化はありますか。


Hyeyeon Jang「どのように作品を制作するかというところに大きく影響しているのはGavinです。私たち二人は目標に向かって猛烈な情熱を注いでいて、自分たちの信念をもってこの業界で成功したいと思っています。お互いにたくさんのモチベーションを得て、インスパイアしあい、制作を続けているのです。LCFでの私のプロジェクトとCSMでの彼のプロジェクト、これらのプロジェクトを“私たち”と呼んでいます」





ーー自粛などでクリエイティブになりづらいと感じてる人もいます。あなたはどのようにインスピレーションを探し続けていますか。


Hyeyeon Jang「エキシビションやソーシャルメディアもとても大きなものだと思います。小さなヴィンテージブランドがInstagramで商品を販売したりしていますが、彼らには他のフォロワーとコネクトできるフォロワーがついています。そのようにソーシャルメディアはインスピレーションを得るための優れたベースになっていますよね。ファッションデザイナーやエキシビションは、チケットを売る新しい方法を模索しています。賢く使いさえすれば、ソーシャルメディアは素晴らしい場所となります。彼らが毎週古いペインティングを投稿するこのアカウントは展示会のようなものです。2000archiveはUALの卒業生で韓国版の『Vouge』にも取り上げられていました。彼らはヴィンテージから始め、次にコラボレーションを通じてアイテムを販売し始めました。苦労しながらもコレクションを制作している若いデザイナーを見るとやる気が起きます」


ーー自分の中で、アイデンティティを確立できたと思う瞬間、または殻/壁を破れたという瞬間があったとしたらどのような時?


Hyeyeon Jang「自分のアイデンティティを発見できているとは思いません。一人のアイデンティティは一つではないと思います。だから人々は面白い。ファッションデザイナーのように、非常に異なるコレクションを持つことができるんです。あなたのアイデンティティと信念は変わる可能性があるし、私のアイデンティティと信念も常に変化していると思います」


ーーパンデミックでコラボレーションの形も変わると思いますか。


Hyeyeon Jang「テクノロジーを使用するデザイナーは、より多くのコラボレーションができます。現在はすべてがインターネット上で行われていますが、パンデミック以前とそれほど変わっていない。以前から、デザイナーやアーティストは、ソーシャルメディアが自分たちの作品を発表する上で大きな役割を果たしていることを十分わかっています。ですから、アティチュードは変わっていませんが、テクノロジーのスキルがある人ならより容易になっていると思います」


ーーギャラリーと展示を非常に楽しんでいますよね。それはあなたの展示やそのフォーマットに反映されています?


Hyeyeon Jang「はい。ファッションをどのように表現できるかについての新しい視点を得ることができます。私のお気に入りの前衛的なデザイナーIris Van Herpenは、作品を販売せず、世界中のエキシビションで稼いでいるのです。オートクチュールもやっています。彼女の収入のほとんどはエキシビションを通じてもたらされます。彼女のエキシビションは素晴らしいと聞いているので、ぜひ行ってみたい。
ファッションショーの後のエキシビションはあなたの作品を表現する新しい方法になると思います。ファッションショーよりも展示会でのソーシャル・ディスタンスの取り方は簡単。また、ファッションを学んでいない人にも新しい視点をもたらすことができます。アートと同じようにファッションをより多くの人が鑑賞できるようになるのです。私たちの作品もその形式で展示されるといいなと思います。Iris Van HerpenとChannelは、特別なデザインを効果的に使用しています。これは非常に重要です。Rick Owensは自分のショップもデザインしています」



ーーこのファッション転換期でファッション学生として、これからやるべきことは何だと思いますか。


Hyeyeon Jing「サステイナビリティがより重要になっています。最初はあまりサステイナビリティに興味がありませんでしたが、様々な素材で生地を作ること自体は常に私の興味の対象。より多くの人々が布地の染色などのよりサステイナブルな代替案を検討している今、そうした情報はソーシャルメディアでも簡単にアクセスできるようになっています」


ーーファッションでの表現にしても、自分の殻を破るということにしても、アクションを起こしたい、一歩踏み出したい人のために何かアドバイスは?


Hyeyeon Jang「何もしないより一歩踏み出す方がいい。私にとってそれは非常に難しいことでした。最大のステップはファウンデーションの時。最も重要なことは、他の誰かに後押しされてやるのではなく、自分が本当にそのことを考えているのであれば自分で一歩を踏み出すこと。そして踏み出せば何かが生まれてくると信じています。予期しない結果が生じることがありますが、それはすべて体験になります。だから、うまくいかなくても悲しまないで、恐れないでください。何もしないよりはましなのだから」


text Maya Lee



Hyeyeon Jang
https://www.instagram.com/i_spy_with_my_little_eye_99/
Hyeyeon Jing is a second year student at London College of Fashion, Fashion Design and Development (FDD).

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS