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text by Nao Machida

『アド・アストラ』 ブラッド・ピット来日記者会見/“Ad Astra” Japan Premiere Press Conference with Brad Pitt

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ブラッド・ピットがプロデューサーと主演を務めた新作映画『アド・アストラ』が9月20日に全国公開される。近未来を舞台にした本作の主人公は、宇宙飛行士のロイ・マクブライド(ピット)。地球から43億キロ離れた太陽系の彼方で、危険な実験を抱えたまま消息を絶った父親(トミー・リー・ジョーンズ)を探し出すという無謀なミッションに挑む彼の姿を、圧倒的なヴィジュアルと繊細な心理描写を通して映し出す。ここでは公開を前に東京・日本科学未来館にて開催された、ブラッド・ピットの来日記者会見の模様をお届けする。(→ in English



――本作ではプロデューサーを務めたほか、初の宇宙飛行士役に挑戦されましたが、最もチャレンジングだったことは何ですか?


ブラッド・ピット「まず質問に答える前に一言、皆さんの温かい歓迎にありがとうと言いたいです。僕は東京に来るのが大好きです。本当に特別な場所だと思います。到着してからの皆さんの優しさに感謝しています。ありがとう。
製作と演技を両方やるということは、それだけ責任が増えるということです。そのすべては映画製作における物語を伝える作業の一部で、僕はそれを非常に楽しんでいます。プロデューサーを務めると現場に早く行きますし、すべてのプレーヤーをまとめてチームを作るのですが、これはスポーツのようなものです。映画製作には挑戦がつきものですし、常にうまくいかないことが生じます。昼間は役者で朝と夜はプロデューサーという感じです。もちろん、最終的には音楽から編集まで、どのように仕上げるかすべてを考えないといけないので、まるでルービックキューブを組み立てるかのようです。でも、本作で最も大変だったのは、そのすべてを宇宙服を着てこなさなければならなかったことでした」


――初の宇宙飛行士役を演じるにあたって、撮影で初めて体験したことや、初めて行った役作り方法はありますか?


ブラッド・ピット「これまで(宇宙飛行士を)演じてこなかった理由は、非常に優れた作品が多いジャンルだからです。このジャンルに加える価値のあるユニークな作品を待っていたのですが、友人のジェームズ・グレイ監督がこのプロジェクトを持ってきてくれました。でも最終的にはどこかピーターパンのような現場で、重くかさばる宇宙服を着てワイヤーで吊るされていたので、それは事前に少し訓練が必要でした。実際にスタントチームは僕らの気分が悪くなるまでグルグル回したり、空中に上げたり、引っ張り下ろしたりして試していました。それを理解するためには、行き過ぎるところまで試すほかになかったのです」








――壮大なストーリーでありながら、一人の男の心の変化を描く繊細な表情が素晴らしかったです。今後は俳優業をセーブするというニュースがありましたが、その理由は?製作として今後取り組んで行きたい仕事や思い描く夢を教えてください。


ブラッド・ピット「まずは最初のコメントにお答えしますが、本作はジェームズ・グレイ監督が描いた壮大なセットで展開します。しかし最終的には、これは一人の男の自分探しの旅を描いた物語なのです。実際に表現するのがかなり難しい作品だったのですが、結果には誇りを持っています。2つ目の質問についてですが、僕は許される限り、これまでと同じように続けていきたいと思っています。今まで通り、自分たちやこの時代に語りかけてくるような、興味深い物語にフォーカスしていく予定です。僕はかねてから複雑な物語に引かれており、プロデューサーとしても役者としても同じように続けていくつもりです」


――宇宙のリアリティーやスケールを表現するにあたって、製作者としてはどのような工夫をされましたか?


ブラッド・ピット「これは本当にジェームズ・グレイ監督と撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマのおかげです。もちろん実際に海王星に行くことはできないので、CGにも頼らざるを得ないのですが、彼らはできるだけ古い手法を使って、レンズを通してどれだけ表現できるかにこだわっていました。自然のものなので、観客が観て信じられる映像にしたかったわけです。レンズフレアを使ったり、月の暗闇をレンズの中で実際に撮ったりして、アナログとCGをブレンドしました。その結果、完全にCGで描くよりも、より直感的で本能的に信ぴょう性が感じられる体験へとつながったのではないかと思っています」


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――これまでに10回以上来日されていますが、今回の滞在で行きたい場所はありますか?


ブラッド・ピット「普段(の来日)は仕事が詰まっているので、今回は満喫しようと思って事前に計画していました。早めに来るはずだったのですが、台風でフライトがキャンセルしてしまったのです。でも、今回は地方にも行きたいと思っています。京都に行って、庭園や古い建築、竹林などを見てみたいです。それから、個人的に鯉の養殖場にも行きたいと思っています。僕は日本の文化が大好きです。職人の方々がものづくりに人生を捧げているのは素晴らしいことだと思います。品質も良いですし、料理からジーンズから工芸品まで、日本の方々は僕らよりもずっと良い仕事をされているように思います。日本の方々の姿勢には本当に感銘を受けますし、魅了されています。僕は鯉については一時間でも語れるんです(笑)」


――本作は宇宙という広大な場所を舞台に、私たちの誰もが一度は考えたり悩んだりしたことのある自我との戦いを描いています。そのような身近なテーマでありながら宇宙を舞台に描こうと思った理由をお聞かせください。


ブラッド・ピット「本作は『オデュッセイア』のような自分自身を探す旅として描かれています。宇宙は人間についての謎や孤独を比喩的に象徴していると思います。だからこそ、自分の人生がうまくいかなくなってしまった主人公ロイの物語の背景として最適なのです。自身の存在価値などに疑念を抱いているロイは、銀河系の最果てまで行って、これまでは押し殺してきた喪失感や後悔、自分への疑念といった問題に向き合います。劇中の彼が前に進むためには、そういった問題に対峙するほかにないのです。僕が本作で最も好きな部分は、人間の葛藤や人間であることの意味にスポットを当てていることです。それは自分たちの存在を笑い飛ばせるコメディーにもできることだと思います。それこそが映画の持つ本当の力であり、だからこそ僕は映画に惹かれるのです」





――本作では製作だけではなく主演も務めようと思った決め手は?プロデューサー目線での理想の監督像はありますか?


ブラッド・ピット「脚本・監督のジェームズは僕の古くからの友人です。僕らは90年代半ばに知り合い、何か一緒にやりたいねとずっと話していました。僕自身は年に一本しか映画を撮れないので、すべてはスケジュールによるのですが、本作の主題についてはずっと考えていました。映画というのは大きなコミットメントなので、僕は一緒に仕事をする相手や自分が信じられる物語を伝えることを大切にしています。僕にとっての理想の監督は、自分の視点を持っている方です。作品について最初に話し合うときは、監督の視点を聞きたいと思っています。それがどれだけ強く、独創性があり、興味深い方向性を示しているかを確認するのです。それがわかったら、安心して旅に出られると思えます」


――子どもの頃、宇宙飛行士になりたいと思ったことは?もしあれば、ロイ役を演じたことで満足できましたか?


ブラッド・ピット「子どもの頃に宇宙飛行士になりたかったという記憶はありません。探検家にはなりたかったのですが、地球の大半はすでに調査されているので、あまり意味がないですよね。でも、僕の中の少年は宇宙船が好きで、以前はパイロットの免許を持っていたので、コックピットに入ってボタンを押したりしていると、この歳でも子どものようにワクワクしました」


――劇中のロイは精神状態や睡眠について報告する心理テストを何度も受けていましたが、今のあなたの状態はいかがですか?


ブラッド・ピット「今は時差ぼけで、お腹が空いています。でもまだベッドには入りません。外に出て東京の街を満喫したいからです」


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text Nao Machida





『アド・アストラ』
公式サイト
9 月20 日(金)公開
配給:20 世紀フォックス映画
(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
【STORY】
近い未来。宇宙飛行士ロイ・マクブライドは、地球外知的生命体の探究に人生を捧げた科学者の父クリフォードを見て育ち、自身も宇宙飛行士の道を選ぶ。しかし、父は探索に出発してから16年後、太陽系の彼方で行方不明となってしまう。だが、父は生きていた──ある秘密を抱えながら。父の謎を追いかけて地球から43億キロ、使命に全身全霊をかけた息子が見たものとは─?


『アド・アストラ』予告/公式YouTube
https://youtu.be/g5h8RAGYLZQ




This interview is available in English

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