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text by Ryoko Kuwahara

Fantastic Fest Issue/日本未公開映画特集 : 『WYRM』Director Christopher Winterbauer and Producer Helen Estabrook




テキサス・オースティンで開催される映画祭Fantastic Festは、大作やシリアスなムードのものよりもちょっと笑えてしまようなスプラッターやジャンルムービーに焦点を当てているのが特徴。場所柄もあり、VHSやレコードなどノスタルジックな素材や作り方にこだわった作品も多くラインナップされている。そのFantastic Fest2019年度のリストから、NeoLが気になる作品を紹介する。4本目は長兄を失ったことでいびつになった家庭で過ごす双子の姉と弟の思春期を描いた『WYRM』。
ノスタルジックとSci-Fiが入り混じった本作。主人公のWyrmは兄のDylanが死んで以降、兄の友人たちに思い出を聞き回ってカセットテープに録音している。双子の姉のMrycellaはクールな表情で気持ちを隠し、父は兄の死後トイレの中で仕事をし個室にこもり出て来ない、母は常に忙しくはるか遠方から戻らず、双子は叔父の手で育てられているも同然。Wyrmの通う学校では「子供を孤独から救う」という名目のもと、セクシャリティの教育プログラムとテストが義務付けられている。子供達には電子カラーが着用され、そのレベル1のテストは着用者が誰かにキスをすること。そうするとカラーが外れる仕組みになっている。Wyrmはなかなかそのテストに合格できないという悩みと家族の悩み両方を抱えているのだ。現実でも多くの人々が思春期に感じるであろう「自分は恋愛に奥手なのでは? 周りに置いていかれているのでは?」という焦りやプレッシャーを可視化させるととともに、コミュニケーションの基盤となる家族との関係、そこから外を知ることなど、成長の過程を優しい眼差しで描いた傑作。(→ in English



―――この作品は部分的にご自身の経験を含んでいるそうですね。個人的な話を共有するのは嫌ではありませんでした?


Christopher Winterbauer : 実際は、私には死んでしまった兄はいませんが、2人の姉妹がいます。 私の成長に2人の姉妹の存在は欠かせません。性別がどうとかではなくて、実の姉妹は人間としての様々な影響を受けました。姉妹というだけでもなく、異性としてでもなく、人として彼女たちを知ることでです。だから、この作品の大部分は姉妹と母から3歳頃までの思春期に受けたレッスンをもとに描かれています(笑)


――「私に微笑んでくるすべての男の子に恋をする」というセリフがすごく好きです。このセリフはいくつものものが関連した、感動的な瞬間を思い出させます。とても洞察力に富んだ台詞ですが、自分で思いついたんですか。


Christopher Winterbauer 姉のジェシーが言っていたか定かじゃないですが、多分彼女が教えてくれた台詞だと思います。だから、あの感情を理解させてくれてありがとうということで彼女たちの名前をクレジットしました。当時は私も微笑んでくる全ての女の子に恋をしていました。男の子は誰だってそうでしょう。女の子が私に微笑んできたら、「一体何が起こっているんだろう(ドキドキする)」という感じでね。


――作品内で出てくるバスルームフードとはなんですか?


Christopher Winterbauer :手を汚さずに済む道具が必要な食べ物はなんでもそうです。例えば、ナチョスは温かいし、手を使わなきゃだから最悪の組み合わせですよ。




――――不吉なインターネットの話とは?


Christopher Winterbauer : 90年代のことをよく覚えているんです。この頃の記憶を整理したり、練ったりして、ストーリーを作りました。私の両親がコンピューターを買ったんですが、それはすごく大きな出来事で、祖父母がディナーにやって来て、食事の後に、彼らが「さて、コンピューターを見てみましょう!」と言ったんです。ディナーの後にわざわざコンピューターを見に行くという当時における特別な瞬間、このアイデアを本作に持ち込みたいと思って。そういう思春期っぽい感じ、向き合わさせれるけどまだ準備ができてない感じがをね。それで「インターネット」という言を使ったんだけど、この言葉ってなんか面白いですよね(笑)


Christopher Winterbauer : 私が16か17の時に好きだった女の子とのファーストキスについての会話がベースとなっています。彼女は、私がまだキスしたことがないのを悟って、上手い感じにからかってきたんです。その後、すぐに私の周りのみんながそのことを知っていて私は、自分の体に目立つマーカーでも塗ってあるのかなと感じました。皆から「クリス、お前やったんだろ」って言われているみたいで。この出来事から、カラーのアイデアが生まれました。また、私は自分の生活を予期せぬ形で破壊されてしまった人々を助けるようなプログラムを形作りたいと願っています。子供達を孤独にしたくない、撮り残したくないという本作で出てくるプログラムのアイデアはそこから生まれました。


Helen Estabrook : 最初に聞いた時から、この話はすごく心に訴えるものがありました。でも私自身の成長は早すぎず、遅すぎずという感じだったので困惑もしました。でも確かに成長が早くなったり、遅くなると自分がどの段階にいるのかわからないという気持ちになってしまいそうですよね。成長にはたくさんの段階があるんだと思います。






――――主演の俳優たちはどのようにして探したのですか?


Christopher Winterbauer : Myrcellaを演じるAzureとこの作品のショートフィルム版を数年前に撮影したんです。女はオレンジカウンティに彼住んでいて、演技や映画に興味があるようでした。彼女は演技経験がなかったけど、それが逆に作用して、いままで一緒に仕事をしてきた俳優の中で一番良かったんです。この長編を撮り始めて、キャストを募集していたのだけど、すごく大変だった。なぜなら、ほとんどが男の子で、子供の俳優はすごく背が低いか思春期真っ盛りかのどちらかだったんです。役者経験が浅かったりね。私たちにとってAzureはパーフェクトでした。呼応するようにTheoがやってきて、ちょっと話しただけですぐにふさわしいとわかり、一緒に脚本を読んでもらったんです。


Helen Estabrook : 彼らは驚くほどに似ていたんです! キャスティングの責任者であるWendy O’Brien は本当に素晴らしくて、本当に才能のある子役たちを集めてくれました。思春期真っ只中にいる子供達を探すのって大変だと思うんです。撮影中に少年は声変わりしかねないから、「どうか声変わりしませんように!」と祈るしかなくて。出資者と話している時にもこう言われるんですよ。「テオがこの映画にぴったりの役者ということはわかっている。けれど何週か後に声変わりで彼の声がワンオクターブ下がってしまいませんか? その場合には別の出資者を探す必要があるかもしれませんね」って。すっごく面白いでしょう?


―――あなたは自分が築いた世界観について過度に説明しすぎない代わりに繊細に作り込んでいるので、観客は別物として感じることなく、より入りやすく観ることができたと思います。脚本について、どのように練っていったのか教えてください。


Christopher Winterbauer これは、第2稿なんです。ヘレンは『Whiplash』というドラマのプロデューサーもやっていて、彼女とこのプロジェクトで一緒に仕事できたら最高だなと思っていたんです。でも以前彼女に会った時、彼女は短編映画が好きと言っていたので、「もう、彼女と話すことはないかな」と思っていたのですが、彼女にこのプロジェクトのメールをしたら「やろう!」と返信してくれたので第2稿を書き上げました。最初一気に説明をしすぎたので、彼女は「何をやっているの?何が起きているの?」と困惑していました。でも理解してくれてからは素晴らしいアドバイスをしてくれて、彼女のおかげで、この映画がテクノロジーに関してだけでなく、登場人物たちの感情について語ったものだということを忘れずに済んだんです。


Helen Estabrook : 編集のプロセスもトリックの一つだと思います。特に、観客が作品を観たとき、彼らがどのくらい内容を理解できていて、どれくらい気にかけてくれているかどうかを知るのは難しいでしょう。なぜなら、感情的な経験に関してはその人によって経験値が違うからです。でもクリスは多くのレイヤーを用いることによって様々な経験値の人にわかるような素晴らしい映画を作ったと思います。彼は答えを知っていて、その答えを描いたのが本作なのだと思います。


text Ryoko Kuwahara


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