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text by Ryoko Kuwahara

Fantastic Fest Issue/日本未公開映画特集 :『JOJO RABBIT』Director Taika Waititi and Stephen Merchant




テキサス・オースティンで開催される映画祭Fantastic Festは、大作やシリアスなムードのものよりもちょっと笑えてしまようなスプラッターやジャンルムービーに焦点を当てているのが特徴。場所柄もあり、VHSやレコードなどノスタルジックな素材や作り方にこだわった作品も多くラインナップされている。そのFantastic Fest2019年度のリストから、NeoLが気になる作品を紹介する。5本目は各国の映画祭ですでに大絶賛されている、タイカ・ワイティティ監督最新作『JOJO RABBIT』。
スカーレット・ヨハンソンやサム・ロックウェルら豪華キャストやヒトラーをまるでアイドルのように扱う過激なジョークも話題だが、本作のいちばんのポイントは真摯な反戦映画であるという点だ。シリアスな題材をユーモアを介して伝えやすくするという手法をとってはいるものの、10歳の子どもの目を通して描かれる戦争は徐々に残酷さを増していき、少年はもはや少年ではいられなくなる。なぜ戦争は起きるのか、そしてなぜ戦争をおこしてはいけないのかと観た者が各々考える気づきや理解をくれるこの作品が、今の時代に公開された意味もまた考えさせられる。監督であり、作品内でヒトラー役を務めたタイカ・ワイティティと、ゲシュタポの幹部を演じたスティーヴン・マーチャンの言葉を記す。(→ in English



ーーまずこの映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。


Taika: 2011年に母が読んでいて私に教えてくれた本からヒントを得て作りました。その頃ボスニア戦争からちょうど20年ということもあってボスニア戦争に関するものを多数読んでいたのですが、とても衝撃を受けたんです。私はまだ幼かったけれども、その戦争でボスニアとセルビアではありとあらゆることが起こったと覚えています。「自分と同じ年齢くらいの歳の子が過激化した戦争の真っ只中にいたんだ」という衝撃が種となり、それは何かしらの形で長い間私の中に残っていました。20年というのは遠い昔のようで、つい最近のことなんですよね。誰もが知っているように、子供達というのは、彼らの人生を導いてくれるような賢い師を尊敬するものです。戦争が起こったとき、世界はあっという間に狂気に満ち、愚かで馬鹿けたコメディのようになる。子供達はその様を見ているのです。彼らは私たち大人を愚かなコメディのように見ているんですよ。それが制作の起源となっていますが、それだけではなく、そこにあるもっと深いメッセージを自分でも探りたいと思いこの作品を制作したのです。



ーーこれは上映までに大変長い時間をかけて制作された作品ですよね。あなたは様々な国の血が混じっていますが、そうした家族や生い立ちからも多少の影響を受けて作られているのでしょうか。


Taika: そうですね、だから私はニュージーランド出身なんです(笑)。ニュージーランド王国の先住民族である父とロシアのユダヤ人でありながらニュージーランドの果てにまで行き尽くした母、それぞれの文化を体験しながら育ちました。ひどく抑圧されながらもユーモアのセンスがあるふたつの文化なので、私の映画作りのスタイルや人生観に存分に取り込んでいきたいと考えています。だから、私は劣悪な環境の中で希望の光を見つけるような映画が好きなんですよ。





ーー私は”To Be or Not to Be(生きるべきか死ぬべきか)” などの第二次世界大戦を描いた作品をたくさん観てきましたが、その中でも本作でのヒトラーの滑稽さは抜群です。このキャラクターや場面の制作や演じ方は一体どうやってできたんでしょう。何か影響を受けたものはありますか。


Taika: 驚かれるかもしれませんが、私はそれらの映画を観ていないんです。映画はたくさん観ましたが、それらは必ずしもヒトラーが出てくるものではありません。1つだけ影響を受けたとしたら、権力者や独裁者をからかうようなコメディで、私のスタイルではないけれどももっと議論を呼ぶものにしたくて取り入れてみました。でもやっぱり苦手ですね(苦笑)


ーーとんでもない。とても素晴らしい出来でしたよ! スティーヴンさんは、どのような経緯でこのプロジェクトに参加しようと思ったのでしょう。恐怖の根源でありながら笑えるという狂信的で面白いキャラクターを演じましたが、どのようにこのキャラクターにアプローチしましたか?


Stephen: 私はずっと彼の作品のファンだったのですが、会ったことはありませんでした。彼がナチを演じる役者を探していて、しかも私にお願いしたいと聞いたとき”ついに私の出番が来た!”と思いました(笑)。背の高い白人の私は怒り狂ったゲシュタポの幹部にぴったりの役者だと以前から思っていたのです。監督と違って、私にはカラフルなバックグラウンドはありません。親戚が家の近くを離れたこともないんじゃないかな。そんな私がゲシュタポ役を演じるという提案にワクワクしました。私は彼と違って、演技の参考にするためにあなたが言及したような他の映画もたくさん観ましたよ。


Taika: 私は他の人からの影響を受けたくないので、他の人の作品を見たいと思わないんだよ(笑)


Stephen: そういう長い歴史に入り込むために作品鑑賞は大いに役に立ちましたし、自分もこの作品のパーツとして歴史の一部になりたいと願いました。そうして今ここにいる、そのことを喜ばしく思っています。

ーー本作品で素晴らしい演技を披露したダンサー役のトーマサイン・マッケンジーには、どうやって出会いましたか?


Taika: 彼女はあの役のオーディションを受けた最初のひとりで、すぐに撮影リストに入りました。他の役者のオーディションも考えていましたが、すでにこの役は彼女にしか出来ないと感じてもいたんです。彼女は一種のニュージーランドの演劇一家の出身で、両親は私の友人です。私は彼女の両親と一緒に劇場の舞台で育ってきたんです。彼女のことも幼い頃から知っていますが、今では素晴らしい女優になりましたね。





ーーヒトラーの役について、何か準備はしましたか?


Taika: 研究のために多くのビデオを観ていたら答えられたかもしれませんが、残念ながらそうではないので困りましたね(笑)。というのも、世の中のことを何も知らない10歳の子供から見たヒトラーを描きたかったからです。だから歴史で描かれているようなヒトラーではいけませんでした。本作ではのヒトラーは何も知らないし、さらにその子供より愚かでなければならかった。10歳の子供と同レベルでいてほしかったんですよ。私はメソッドに従うのが苦手だし、そういうことができるタイプでもないので(笑)。変化球に備えてください!

ーー今回の作品はすごくシリアスな題材をコメディ調に描いていますが、どうしてそのようなスタイルでアプローチしようと思ったのでしょう。


Taika: たくさんの第二次世界大戦を描いた映画を観て育ったので、自分のなかの善悪の境界線は明確だったと思います。ここ数年はいつもこの手の映画を観ながら夢中になっていました。それらは非常にドラマティックで、物語を伝えるスタイルは大体似通っています。私のスタイルはストレートなドラマを作ることに向いていないし、常に人々が落ち込んでいるような映画を撮りたくもなかった。また、単純なコメディーとして描くには不適切なテーマだとも思いました。この戦争で起きたことは決して忘れてはいけない、でも奇妙なことに人々は忘れてしまうんです。だから繰り返し語られることが重要であって、しかも興味深く新しい方法で伝える必要があった。私は”この映画は第二次世界大戦のコメディだ”と言われることに意義を唱えます。これは少しのジョークを伴った第二次世界大戦の物語です。その少しのジョークは観客や若者をストーリーやスタイルに引き込むためのアクセスポイントのようなもの。私はこの第二次世界大戦の物語を伝えるための新しく独創的な方法を探し続けたいと思っています。


ーーどのようにして子供達から素晴らしい演技を引き出せたのでしょうか。


Taika: 子役のキャスティングに関しては、ローマンはキャスティングプロセスが終わった直後に来たのですが、それまで私たちは役にふさわしい子が見つかるか少し心配していました。私は子供達のキャスティングをするとき、その役に一番近く合うとと思った子を選びます。素晴らしい子がいればその子に合わせてキャラクターの方を変えることもあります。私は子供達に他の何者かのふりをして欲しいとは絶対にお願いしないんです。それはやりすぎというものですよね。大人の役者は物事を複雑にしがちです。しかし、子供の場合は言葉だけ覚えればただそのままの彼ら自身でいさせるだけで最高の演技になります。ローマンは私が求めていた繊細さを体現できている、トンプソンもそうですね。ですから、役にふさわしい子を探すキャスティングが一番大変で、そこを乗り越えれば後はスムースに行くと思います。


ーー私は、”Butterfly”という映画と似ていると思ったのですが何かしらの参考にされましたか? 自然と第一次世界大戦も思い起い起こさせます。


Taika: すごい!正解です。初期の反戦映画のひとつで、とても美しい作品ですよね。それは参考にしました。





text Ryoko Kuwahara

『ジョジョ・ラビット』


舞台は、第二次世界大戦下のドイツ。心優しい10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友だちのアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)の助けを借りながら、青少年集団ヒトラーユーゲントで立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし、ジョジョは訓練でウサギを殺すことができず、教官から”ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかわれてしまう。そんなある日、母親(スカーレット・ヨハンソン)とふたりで暮らしていたジョジョは、家の片隅に隠された小さな部屋で、ユダヤ人の少女(トーマサイン・マッケンジー)がこっそりと匿われていることに気付く。ジョジョの頼りとなるのは、ちょっぴり皮肉屋で口うるさいアドルフだけ…。臆病なジョジョの生活は一体どうなってしまうのか!?


監督・脚本:タイカ・ワイティティ(『マイティ・ソー バトルロイヤル』)
キャスト:ローマン・グリフィン・デイビス、タイカ・ワイティティ、スカーレット・ヨハンソン、トーマサイン・マッケンジー、サム・ロックウェル、レベル・ウィルソン ほか
全米公開:10月18日 原題:JOJO RABBIT 
配給:20世紀フォックス映画 
コピーライト:(C)2019 Twentieth Century Fox


公式HP:http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/
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